これまでの放送
~脱・長時間労働の実践~
“夫からメール。
今日も帰りは終電だって。
いつもこれじゃ、私は働きたくても働けない。
夫の長時間労働、なんとかならないの?”
男性で1日に10時間以上働く人の割合が、ここ数十年、一貫して増え続けているのを知っていますか?
この長時間労働が、さまざまな社会問題の原因と指摘されています。
例えば孤独な子育て、少子化。
過労にストレス。
さらにはイノベーションが生まれにくいなど、経営のリスクとしても問題視されています。
企業経営者
「長時間労働、過酷な労働によって、企業存続の危機につながっていく可能性がある。」
しかし、「分かっちゃいるけど帰れない」のがサラリーマン。
一体どうすれば長時間労働をやめることができるのか。
その鍵を握るのは、管理職。
管理職が変わることで、職場が変わることが分かってきました。
残業が当たり前だった職場に、なんと定時に帰る管理職が登場。
部下も早く帰るようになり、業績も上げているのです。
管理職
「100人の管理職が変わったら、その5倍10倍の働く人が変わる可能性がある。」
長時間労働と決別する鍵は、管理職。
それはなぜか、どうすればいいのか、とことん考えます。
午後5時半。
「お疲れさまです。」
都内にある建設コンサルティング会社。
週に1度のノー残業デーです。
お疲れさまです。
定時に帰る社員たち。
しかしそれは、ここ最近のことです。
この会社は、空港やトンネルなど公共事業の設計・計画を立てるのが主な仕事で、従業員1,400人のほとんどが技術者。
長い時間をかけてこだわればこだわるほど、いい仕事ができるといわれてきました。
しかし、次第にそれがリスクになってきたというのです。
パシフィックコンサルタンツ株式会社 社長 長谷川伸一さん
「コストの面でも効率性の面でも、労働災害(過労死や精神疾患など)、経営リスクの面でも大きな問題になっている。
それ(長時間労働)をなくせないと、大きな経営リスクにつながって企業存続の危機につながっていく可能性がある。」
そこで3年前、社員の働き方を変える全社挙げてのプロジェクトがスタート。
リーダーの油谷百百子さんは、長時間労働が当たり前という職場を変えるのは、まさに試行錯誤の連続だったといいます。
「長時間労働をするということは、心身ともに悪影響を与えます。」
初めはワークライフバランスの講習会を開き、専門家のアドバイスで社員の意識を変えようとしました。
しかし…。
「理屈は分かるんだけどね、現場だと、いろいろあるからさ。」
ワークライフバランスは自分たち技術者には難しい、という社員が大半でした。
ならばトップの本気を社員に示してもらおうと、役員の会議はすべて立ったまま行うことにしました。
しかし、一部で改善は見られたものの、大きな変化にまでは至りません。
なぜ帰れないのか。
油谷さんは社員たちの声を徹底的に聞いてみることにしました。
「自分だけが働き方を変えるのは難しいですね。」
「結局、上司次第ですから。」
「部長も課長もまだいますし、帰れないです。」
現場の上司、つまりトップと若手の間にいる管理職がネックで、そこを変える必要があると気付いたのです。
ワークライフバランス推進事務局 油谷百百子さん
「働き方を見直しなさいと言って、組織の隅々までドミノが倒れていくということじゃなくて、やっぱり中間中間に難所があって、そこの管理職というところで勢いづけて、納得してもらって働き方を変えることが必要なんだと。」
そこで、すべての管理職を対象に研修を開くことにしました。
グループごとに長時間労働をなくすための対策を考えてもらい、労務専門の弁護士立ち会いのもと、発表となりました。
すると…。
管理職
「個人の意識改革を行い、個々の裁量で働くのがいいと思います。」
管理職
「個人の意識改革をすることが最も大切であると…。」
どの発表も、管理職というより、部下一人一人が意識を変えるべきだという内容でした。
しかし発表を聞いていた弁護士からは、思わぬ反応が返ってきました。
弁護士
「いいですか。
長時間労働は、個人の意識改革だけではなくなりません。
部下の仕事の内容、労働時間の把握、仕事のやり方を変える。
その対策を立てることが管理職の仕事です。」
それまで、どこかひと事だった管理職たちの様子が変わったといいます。
管理職歴12年の部長、河邊隆英さんもその一人です。
マネジメント事業本部 部長 河邊隆英さん
「管理監督者として管理しませんと言っているようなものだということで、こてんぱんに批評された。
意識改革だ、じゃなくて自分たちが動かしていく。
強制的にでも動かしていくのが必要なんだと。」
さらに社長が労働時間の削減に取り組んだ管理職とチームを表彰し、賞金も出すことにしました。
こうして社員が帰りたい時間を宣言すると、管理職はそれを尊重し、具体的に対策を立てるようになっていったのです。
例えばこちら。
社内で最も忙しい部署の一つといわれる河川部。
その管理職の1人、湯浅岳史さんです。
湯浅さんは毎日9人の部下に、その週の仕事の目標や達成状況を細かくメールで伝えます。
そして最近は、ライフ・生活についても目標と達成状況を書くようにしました。
それによって早く帰る日ができてきたといいます。
さらに重要なのがその下、部下へのメッセージです。
“今日はNo残業デー。
今日は帰れない!って人、早めに相談してください。”
河川部 室長 湯浅岳史さん
「テンパっているような仕事は(部下は)書いてくれますので、その状況を把握して、テコ入れが必要ならテコ入れをしていくと。」
すると部下たちも、面と向かって話しにくい仕事の悩みや、個人的な事情を書くようになりました。
体調や子どもの行事、趣味の予定などを伝え合い、チーム全員で把握します。
事情を共有することで、そのために会議の予定をずらしたり、仕事に行き詰まっている人がいたら余裕のある人が手伝ったりアドバイスをするなど助け合うようになり、早く帰る日や休める日が増えたといいます。
河川部 室長 湯浅岳史さん
「自分だけじゃなくて周りのことを目くばせして、周りがしんどかったら積極的に助けに行くとか。
室員同士で、私が何も言わなくてもやってくれるようになったのが大きな成果。」
こうして会社全体で削減できた残業時間は10%。
脱・長時間労働の取り組みは今も続いています。
●中間管理職の意識を変えた上での組織全体での取り組み
今のVTRにもありましたけれども、意識変えることももちろん大事ですけども、さらに具体的なマネージメントとか、働き方を変えるっていうことの重要性に気付いて、取り組んでる企業はまだそんなに多くないんですね、残念ながら。
取り組んでいる企業は、やはり社員が変わったということに気付いてる。
どういうふうに変わったかというと、今の管理職の世代は、仕事が大好きで、仕事をやる時間がいくらでも使えて、すべてやるべき仕事をやってくださいとお願いして、どれだけ時間をかけてもやればよかったわけですけれども、今の部下というのは時間制約がある。
どういうことかというと、例えば部下が6人、でも今は5人しかいない。
1人は育児休業取得中。
1人は育児休業復帰して6時間勤務ですと。
あと1人は週2日は大学院の勉強、定時で帰ると。
仕事以外でやりたいこと、やらなきゃいけないこと、社員がいるのが普通の職場なんですね。
そういう意味では管理職としては、部下の時間のどれだけ仕事をしてもらえるか、使える時間、総量が決まっちゃってるんですね。
この時間をうまく使って最大のアウトプットを出すというマネージメントが大事なんですけど、そのことに気付いてる会社というのは、まだまだそんなに多くないと思います。
●どの仕事を優先させるかなど、常に考えなければならない?
そうですね、つまり限られた時間をどう大事に使ってもらうか、あるいは管理職自身が部下にどう使ってもらうか指示しなきゃいけないんです。
VTRにあったように、そういう意味ではむだな仕事をなくすとか、仕事の優先順位をつけるとか、過剰品質をなくすとか。
ここまでやって、あとは別のアイデア探しに使ってくださいとか、そういうことを管理職がやらなきゃいけないですし、その時間を管理職が確保できなきゃいけないということがすごく大事かなと思います。
●管理職の意識・理解について
管理職はなかなか気が付かない。
一つは、これまでの自分たちの仕事のしかたでやれると思ってる。
部下はあなたたちと違う、ということについて理解されていない。
それを理解してもらうこと。
もう一つは、やはり分かったときに、先ほど出てましたように部下の仕事のしかたとか、時間の使い方とかをちゃんとウォッチして、おかしければこの仕事はここまででいいから次の仕事を指示しなきゃいけないんですね。
管理職自身も部下の仕事をウォッチして指示する時間がなきゃいけないんですけれども、今の管理職ってプレイングマネージャー化して忙しいんですね。
ですからやはり同時に、どういうマネージメントをしていいかということを、そういう情報提供すると同時に、そういうマネージメントをやる時間、管理職に確保してあげるということも、すごく大事かなと思います。
管理職自身がやってる仕事にも、やらなくていい仕事、あるいは優先順位上げなきゃいけない仕事があります。
それをしたうえで部下のマネージメントに割ける時間を増やせるようにするということも、すごく大事だと思います。
そういう意味ではマネージメントをちゃんとやれるようにするということがすごく大事かなというふうに思います。
●どう説得するのが効果的なのか
例えば部長クラス。
50代以降、50から65くらいの方が管理職のキャリアだと多いかと思うんですけれども、これから親御さんの介護の課題に直面する世代になります。
そういう意味では、これまでは時間制約なく仕事に時間を好きなだけ使えたっていう層も、親御さんの介護のために、例えば今日はケアマネージャーさんと会うから半日で帰るとかですね、親の介護の施設にちょっと行かなきゃいけないとか、今までと同じような仕事のしかたができなくなる。
自分が安心して、親の介護で抜けられるような職場にしていくっていうことが、自分のためになるんですね。
そういう意味でも、管理職自身にとってやはり働き方を変えるということが大事だということを理解してもらうということが、一つの糸口かなというふうには考えてます。
●様々なリスクへの対応力
管理職からすると、部下がいつもそこにいて仕事できる時代じゃなくなってきた。
例えばインフルエンザで出てきちゃだめだとか、いろんなことありますよね。
親の介護の問題もそうです。
つまり予測できず、部下がある一定期間、仕事できなくなるということがある。
だけどもワークライフバランスが実現できる職場というのは、そういうことがあってもある程度職場が回るような情報共有ができているとか、そういうことです。
そういう意味では、リスク対応力のある仕事を作ることで、結果的に生産性も高くなるというふうに思います。
都内にある結婚情報誌の編集部です。
不振の雑誌業界の中で、驚異的な売り上げを記録するヒットメーカーがいます。
編集長の伊藤綾さん。
60名の部下を束ねながら、定時に帰る管理職を実践しています。
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ
ゼクシィ編集長 伊藤綾さん
「(部下は私が)もう帰ったという感じで、今日も会えなかったということが続いたんですけど。
とにかく昼間に仕事をするという。」
伊藤さんは早く帰るために、さまざまな工夫をしています。
例えば打ち合わせや接待は、基本的に夕方以降には入れない。
打ち合わせの回数そのものも減らし、一つにかける時間も30分以内にする。
そのために判断を早く、方針を明確に伝えるようにしています。
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ
ゼクシィ編集長 伊藤綾さん
「もっと自分の言葉として語れるものがないといけないし、いったんここはやり直したほうがいいね。」
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ
ゼクシィ編集長 伊藤綾さん
「お先に失礼します。
お疲れさま。」
定時に帰る管理職、伊藤さん。
そんな働き方になったのは、やむにやまれぬ事情からでした。
伊藤さんは専業主婦を経て、27歳のときに契約社員として今の編集部に入りました。
厳しい競争をくぐり抜け正社員となり、33歳で編集長に抜てき。
結果を出すため、時間に構わず必死で働く猛烈編集長でした。
転機となったのは35歳で双子の男の子を出産したことでした。
保育園にお迎えに行くために週に1日、夫が定時に帰り、それ以外はできるかぎり自分が定時に帰ることにしました。
しかし初めは部下より早く帰ることに対して、強い罪悪感を覚えたといいます。
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ
ゼクシィ編集長 伊藤綾さん
「こうしてる間も何かみんなが困っているんじゃなかろうかとか、自分の仕事も終わっていないので後ろ髪を引かれる思いで、みんなに迷惑をかけているんじゃないかと不安があって。」
しかし次第に、日々の生活の中には思いもよらない仕事のヒントが埋まっていることに気付きました。
台所でねじの緩んだ鍋を見て思いついたのが、かわいいデザインのドライバー。
雑誌の付録のアイデアが次々に生まれました。
また、家族を大切にしようという自分自身の感覚を企画に反映させたところ、売り上げアップにつながりました。
定時で帰ってきちんとした生活を送るということが、家庭のためだけでなく仕事にもプラスになることを実感したのです。
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ
ゼクシィ編集長 伊藤綾さん
「これってもしかしてすごいことなんじゃないかと。
(定時に帰ることが)ハンデじゃなくて、ワークライフバランスはものすごい武器になると、仕事をする人間として。」
そこで伊藤さんは自分だけでなく、部下たちも早く帰ってプライベートを充実するよう勧めました。
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ
ゼクシィ編集長 伊藤綾さん
「早く帰って人を大切にして、遊んで、学んで、インプットをしてきてごらん。」
しかし部下たちは若手を中心に、それで本当に成果が上がるのか懐疑的でした。
部下
「編集長は早く帰って欲しいのかなというのはあったんですけど、現実難しいんじゃないかなって。」
伊藤さんは業務を見直すとともに諦めずに訴え続けたところ、変化が起き始めました。
企画を考えるため、いつも残業していた中道啓さん。
試しに仕事を早く終え、お茶や神社巡りなどの趣味に時間をかけるようになったところ…。
中道啓さん
「大好きな記事です、自分の中で。」
和風の結婚式の企画を手がけ、初めてヒット。
その後、中心的な仕事を任されるまでになりました。
中道啓さん
「机の上で10時間とか20時間とか悩んでいたことが1時間くらいでピッて生まれたりするのが実際あって、早く帰れるようになり、休みの日も自由になり、正のスパイラルで進んでいる感じ。」
中道啓さん
「アフター6、楽しんできます。」
管理職も部下も、生活を重視することで成長する。
それが職場の力となり、労働時間の削減にもつながるという新たな働き方が、管理職を起点に広がっています。
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ
ゼクシィ編集長 伊藤綾さん
「(管理職は)キャリアとしての先輩ですよね。
こういう生き方ができるんだ、ということは波及効果は大きいですよね。
100人の管理職が変わったら、その5倍10倍の働く人が変わる可能性がある。」
●管理職が率先して長時間労働を是正するには?
私、企業の実験を数社でやったんですけれども、本社で週2日、定時退社という。
課長以下それぞれが次の週、いつ定時退社かをみんなで決めると。
これだけなんです。
全員同じ日ではなく、自分が定時で帰りたい日、帰れる日を決める。
ここがすごく大事なんですけれども、そうすると、どういうことが起きるかというと、毎日誰か定時で早く帰る人がいるんですよね。
ですから、会議とか打ち合わせとかは所定労働時間、決めた日はちゃんと定時で帰れるように段取り組まなきゃいけないんです。
これだけやると、2か月たつと残業減るんです。
つまり週2日定時退社しなきゃいけないという制約があることによって、時間の使い方を考える、これがすごく大事。
時間意識が高まる、これがすごく大事なんですね。
●できる人とできない人がいるのでは?
これをやると、決めたとおり帰れる人と移動して帰れる人と、変えても週2日帰れない人が出てくるんです。
これ結構大事で、管理職は見てなきゃいけなくて、一つは仕事の配分に偏りがあるんじゃないかとか、期待するだけの段取り能力とか、能力のないのが見えてくるかもしれなくて、そこに手を入れていくということで、そういうことで管理職のマネージメントの課題も分かる。
そういう意味では非常にいいやりかたかなというふうに考えてます。
●ワークライフバランスの実現には何が一番必要か
一つはこういう取り組みをすると、取引先が変わらないとできないとか、例えばほかの課が変わんなきゃできないというようなことを言われる方がいらっしゃる。
それも確かにそうだと思う。
全社的な取り組み、あるいは業界全体の取り組み、これを進めていかなきゃいけないんですけれども、しかし他方、それぞれの職場なり企業なりでやれないかという…僕は相当やれる部分はあるだろうと思います。
そういう意味では、取り引き先がとか隣の課がとか言わずに、僕はやれるところからやっていただくというのがすごく大事かなというふうに思います。
時間を大事に使うわけですから、当然生産性は高くなる、むだな仕事をやめるわけですし。
過剰生産をやめるということです。
僕は生産性、高くなるって思っています。