かぐや姫の宝物は五行相当なのか?(4)掲載順序の再検討
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以上、見てきたように、かぐや姫の宝物は、その記載順序において、 そもそも、五行属性を念頭に置いていない可能性がある。 イトウの知る限り、こうした古典物語において、 五行配置が意識されることはごく稀であって、よくいっても四方四季どまりである。 例えば、『竹取物語』 からも出典をとっているとされる 『源氏物語』 においても、 五行属性については、全くと言ってよいほど、感知されない。 多くの先行物語や詩歌を参照しながら、紫式部の大々的な世界観が創出されると謂われる 「玉蔓十帖」 においては、光源氏が大造営した六条院は、次のような空間である。 南東 : 春の町 : 光源氏 ・ 正妻 (紫の上や女三宮) ・明石の姫君 が居住 南西 : 秋の町 : 秋好中宮 の里邸 北東 : 夏の町 : 花散里 ・ 夕霧 ・ 玉蔓 が居住 北西 : 冬の町 : 明石の御方 が居住 ※ 画像は、池浩三考証 (秋山虔・小町谷照彦編 『源氏物語図典』 小学館、1999、27頁より転載) 正方形の邸宅内であるから、 真東 ・ 真南 ・ 真西 ・ 真北 が存在しないことは、当然である。 ここで着目されるのは、 南優位 ・ 北劣位 東優位 ・ 西劣位 春秋優位 ・ 夏冬劣位 という (あくまでも紫式部の価値観であるが) 、方角と季節の序列である。 この場合、六条院の主人であるスーパー貴公子 光源氏が 南 ・ 東 を陣取り、 次に、もともと六条院の所有者であって、入内後立后している秋好中宮 が次席の 南 ・ 西を陣取り、 その次に身分の高い 花散里 (某女御の妹) 、及び、光源氏の嫡男が、北 ・ 東 に住み、 最も身分の低い 明石の御方 (首領階級出身) が、北 ・ 西 に住まわされる。 つまり、四方四季ですら、登場人物の身分によって恣意的に改変されるといえる。 さらにいえば、古典文学の中で記載順序が厳しく意識されるのは、 実は、四方四季や何かよりも、登場人物の身分なのである。 ここのところを前提として、今一度、『竹取物語』 に立ち返りたい。 掲載順序は、下記の通り。 この記載からも解るように、ここで意識されているのは、 1)皇子2人 2)右大臣 3)大納言 4)中納言 という身分の序列なのである。 つまり、『竹取物語』 において、最も注意を払われていたのは、 宝物の記載順序ではなくて、それを求めることとなる貴公子の記載順序なのである。 しかし、とはいえ、ここで、疑問に思うのは、 ということである。 例えば、『竹取物語』 の作者が貴公子の身分の序列を意識したとしても、 皇子 左大臣 右大臣 大納言 中納言 とやってもいいところを、 なぜ、皇子をわざわざ2人にしたのか、 大臣クラスをなぜ、1人だけにしたのか、 が疑問である。 この点について、イトウは、 と、見る。 次回以降、この点について考察する。
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