第1回電撃ゲーム小説大賞・金賞受賞作。
あらすじはこんな感じ。
スーパーコンピューターを導入して生み出された仮想現実でのゲーム。江崎という天才が作った。
その一般試写会に応募して当選した256名がプレイする。
プレイヤーは戦士・盗賊・僧侶・魔法使いから一つ職業を選んで、地下五階になるダンジョンを攻略して最下層にいる魔王を倒す。
プレイヤーは専用のカプセルの中で体中に電極をつけてヘッドセットをして入っているため、嗅覚以外は完全に再現されていた。
ただし痛覚自体は減らしてある。
主人公のゲイルは盗賊。攻撃力は弱いが敏捷にすぐれ、罠探知や地図スキルを持つ。
他のプレイヤーと出会ってパーティーを組む。何人でも組めるが、魔王の広間には同時に6人しか入れないため、必然的に最大人数は6人で組まれることになる。
ゲイルは探検を進めて女戦士のリリス、男戦士のシェインと出会う。リリスがリーダーに。
次に魔法使いの少年ユートと出会う。
さらに進んで、8人がもめているところへ出くわす。戦士僧侶魔法使いの三人パーティーと五人パーティーが出会い、一人だけいた僧侶モルツをスカウトしようともめていた。
リリスは余ったメンバー、戦士のケインと女魔法使いのミナを引き取る。
パーティーの職業バランスが悪いため、苦戦しながら攻略していく。しかも開始からかなり出遅れているらしく、宝箱などめぼしいものは残っていない。
装備が壊れて強い敵に襲われて絶体絶命になったところで、戦士ジャスティが率いる強いパーティーと出会う。装備を分けてもらう。
このゲームでは鼻が利かないという話題から香水の話になる。
地下三階に下りると戦闘の音がした。戦闘していたパーティーは一人残して全滅。
その一人が僧侶モルツだった。ケインとミナを裏切った奴だが貴重な僧侶だったためパーティーに加える。7人になる。
死んだキャラは消えるはずなのに死体はそのままになっていた。
シェインが「妙だおかしい、バグだ」と言い続ける。
僧侶モルツは魔力をケチってなかなか回復魔法を使ってくれない。
全員不満に思うが唯一の回復役なので強くは言えない。
しかし強敵が現れたところで、モルツはパーティーを見捨てて一人逃げ出す。
ケインが死ぬ。
戦闘後にモルツが戻ってきてみんなを回復させたあと、ちょうど6人になってよかったと言ったため、ゲイルがブチ切れる。モルツを殺そうとするが、モルツはさっさと逃げる。
しかし突然雷撃が落ちてモルツが死ぬ。
この迷宮を統べる魔王ギガントのしわざだった。見苦しいという理由で殺した。
シェインは地下四階へとパーティーを連れて行く。
案内する先に転職の泉があった。モンスターは出さないから大丈夫だと言った。
そしてシェインは説明する。シェインはゲームを盛り上げるために配属された、三人いる開発スタッフの一人だった。サクラみたいなもの。プレイヤーとして助言を出してゲームを盛り上げる役目。
しかしモンスターの数が多く、死んでも死体が残り、ログアウトもできず、プログラムにない魔王が勝手に現れる。
ここまでゲームを勝手にいじれる人間は総監督の江崎しかいなかった。
ゲイルはすべての罠や宝が記された地図をシェインから受け取る。
そこに魔王に扮した江崎が現れる。自分はゲーム開発者として最高にリアリティーのあるゲームを目指した。だからプレイヤーにもたかがゲームではなく、真剣にプレイして欲しい。そのために、ゲーム内で死んだら現実でも死ぬように作った。
嘘だなんだと騒ぐみんなの前で、実例として、そして違法に協力しすぎた罰としてシェインが殺される。
みんなは絶望するが、江崎は完璧なゲームを目指している以上、クリアできないゲームは作らないはずだ、だから頑張れば勝機はあるとゲイルは説得する。
そしてシェインに貰った地図ですべてのアイテムを漁り、魔王に戦いを挑む。
魔王はドラゴンだった。
苦戦の末に勝利の一太刀を浴びせて、そこで画面転換。
気がつくと病室にいた。
優勝者六人が目を覚まさないから心配したと言われる。
しかし別の病室から叫ぶ声が聞こえる。リリスの声だった。
騙されないわ! と叫んでいる。
ゲイルが会いに行くと、リリスは花瓶の花を顔に押し当ててくる。
匂いがしなかった。現実と思わせての仮想現実だった。
看護士の手に日本刀が現れ、襲い掛かってくる。
ゲイルとリリス以外やられる。
リリスを抱えて窓から飛び出すと、魔王の広間。
最後は二人で戦いを挑むがリリスもやられる。
ゲイル一人で勝つ。
エンディングテーマが流れて、現実世界で目を覚ます。
現実には様々な匂いがあったと知る。
ゲイルは喜びなんて感じなかった。激しい喪失感の中で、怒りに燃えていた。
下着姿のままでカプセルルームを飛び出して主制御室にいるはずの江崎を目指すが取り押さえられる。
ゲーム内の出来事を訴えても、誰にも信じてもらえず病院行きとなる。
そして主張するのをやめた。
退院して香水を買う。現実であることを知るために。
終わり。
VR(ヴァーチャルリアリティ)のゲームもの。
VRゲームものとしては元祖になるのでしょうか。
ゲーム自体の仕組みには真新しさがないけれど、今から15年も前の作品になるから、当時としては斬新だったのかな。
今の時代から見ると、とてもわかりやすいゲームシステムなので、設定で戸惑うところはなかったです。
ただ、MMORPGの感じはほとんど見当たらず、普通のRPGの影響、たぶんウィザードリィのシステムの影響が大きいです。
なので良く引き合いに出されるSAOと似ているかといわれると、全然違う、と思いました。
同じコンピューターゲームとは言っても、元になるシステムがドラクエとモンハンぐらい違うので、同じ印象は受けなかったです。
たぶん、クリスクロスは戦闘がターン制のような気がした。そういう意味でのドラクエ。
気になったのはモンスターとの戦闘で油断した隙を何度も突かれていること。
もうちょっとほかのパターンがあっても、とは思いました。
そして現実に戻ったと思わせておいてまだ仮想現実だったという、現実か幻か判断がつかなくなってしまうラストが、岡嶋二人「クラインの壷」と同じだったので、そこだけがなんだかもったいなかったです。
まあでもVRものでは現実と仮想現実の区別がつかなくなるのはある意味定番だから、当然なのかもしれません。
ストーリーは、中盤までの楽しくゲームを攻略する感じと、中盤以降の死んだら終わりという緊迫感とのギャップがよかったです。上げて落とす感じになってました。
構成はすんなりとしたオーソドックスな感じでした。
キャラクターは最後まで本名がわからないぐらいなので、血の通った人間ではなくキャラのままになってました。
おそらくそれが狙いだったのだろうけど、今となってはちょっともったいないかな。
例えば、階段のところで話し合ったときに、リアルでは何をやってるか、このゲームクリアしたら○○するんだ、とキャラたちに会話させておいて。
そして最後にゲイルがみんなの想いの場所を巡るというのでも良かったのかも。そこで、同じように香水を嗅ぐ女と出会って――とかだったら面白いかな。
でも、今読んでもゲームシステムがわかりやすいのでとても読みやすいです。
ストーリーもわかりやすくてすらすら読めました。
十五年前の作品とは思えないほどよくできた小説でした。
終わり。
「オンラインゲーとオフラインゲーだから全然違う」って、物凄い無理矢理な擁護ですねw
ジャングル大帝とライオンキングを観て「漫画と映画だからストーリーや設定がそっくりでも全然別物!」と言ってるレベルw