ワールドカップ最終予選。日本代表はオーストラリアと引き分けて、「ワールドカップ本大会出場」を決めたが、試合は引き分け。3月のヨルダン戦に続いて、またも勝ちなしとなった。もっとも、試合内容は悪いものではなかった。突込みどころはある。前半からゲームをコントロールした日本は、遠藤保仁・長谷部誠のボランチを起点として本田圭佑に預け、再三チャンスは作っていた。だが、あまりにボールのコースが一本調子。相手のペナルティーエリア正面から、こじ開けようとする力攻めばかりが目立った。

もちろん、それが日本のサッカーの特徴であり、ストロングポイントではあるが、同じことの繰り返しでは相手に完全に覚えられてしまう。サイドからドリブルを仕掛けるなり大きなサイドチェンジを使うなり、あるいはミドルシュートを狙うなり、ボールを動かすコースはいくつか用意しておきたい。ブルガリア戦で前線にボールが収まるポイントがなくて苦労した日本代表。本田圭佑が復帰して「収まりどころ」ができたので、ボールを持ったら、まず第一に本田を探してとりあえず預ける。本田は本当によくがんばった。しかし、あまりに本田一辺倒では、強い相手だったら、むしろそこでのカットを狙われるだろう。今後、6月には最低でも4試合は戦えるのだから、ゲームと日々のトレーニングの中から、攻めの多彩さを身に着けていってほしい。

そういった、物足りなさは確かにあった。だが、この日の日本の試合運びは十分すぎるほどの及第点といっていいだろう。猛攻をかけながらも、しっかりカウンターもケアしており、バランスはこれまでの試合の中でも最高の部類だった。もちろん、「引き分けでもいい」という状況だったこともあるが、守りは完璧だった。中央のケーヒルに対しては、今野泰幸と吉田麻也がしっかりとマーク。ヘディングの競り合いでは互角以上に勝っていた。しかも、カタールでのアジアカップ決勝ではオーストラリアの右サイドバックのウィルクシャーに自由にクロスを上げさせてしまい、空中戦で苦戦を強いられたが、今回の対戦ではウィルクシャーをしっかり抑えたことで、ケーヒルに良いボールを供給させなかった。

日本のセンターバックはケーヒルのマークに忙殺されるから、オーストラリアのサイド攻撃に対する対処は、日本のサイドバック2人に負担が集中する。とくに、オーストラリアの右サイド(日本の左)は、2列目のクルースとウィルクシャーが絡んでくる。つまり、長友佑都はクルースに対応しながら、後ろから上がってクロスを狙うウィルクシャーにも気を配らなければならなかったのだ。しかし、長友は完璧に守備のタスクをこなした。ウィルクシャーが上がっても、右足でクロスを上げさせないことをしっかり気にしていたのだ。ウィルクシャーが左でパスを通そうとしても、それほど脅威にはならないからだ。センターバックがケーヒルを封じ込め、しかも、ウィルクシャーにクロスを上げさせなければ、オーストラリアのロングボールも怖さは半減である。

こうして、日本は6分の遠藤保仁のFKを皮切りに、再三再四オーストラリアのゴール前まで攻め込み続ける。吉田がCKに頭で合わせ、遠藤がミドルを狙う。だが、GKのシュウォーツァーの好守もあって、日本はどうしてもゴールをこじ開けることはできなかった。空中戦を封じられたオーストラリアが何度かカウンターからチャンスを作っていたが、後半に入って、日本は攻め急がずに、しっかりと組み立て、前半以上に完全にゲームを支配し続けた。日本は引き分けでも予選突破が決まる。一方のオーストラリアも、今後、ホームゲームを2試合残しているだけに、日本とのアウェーは勝点1でも大きな価値がある。「このままゴールレスドロー」というのは、両チームにとって悪い結果ではない。

72分には、オーストラリアは、トップ下のホルマンに代わって、ビドシッチを投入して、ケーヒルとツートップを組ませた。すると、ザッケローニ監督はすぐに前田遼一を退けて、代わりに栗原勇蔵を入れたのだ。栗原というストッパーを入れることで、ツートップに変化したオーストラリアのをパワープレーを防ぐ。そして、攻撃の局面では長友の位置を1列上げることによって攻撃力も落とさない。残り時間を考えれば、きわめて妥当な判断だった。こうして、スコアレスドローという、両チームにとって悪くない結果が両チームの選手の頭の中で大きくなっていった。

ところが、81分、左サイドでオアーが上げたなんでもないクロスが内田篤人に当たってコースが変化し、日本のゴールに吸い込まれてしまった。サッカーというのは、本当に理不尽というか、不条理なスポーツだ。あれだけ、攻めていてもボールがゴールに入らない限り、勝利には結び付かないのだ。そして、チャンスに決められないでいると、いつかはこういった失点を喫してしまう。それにしても、あまりに不運な事故のような失点……。サッカーというのは、まさに不条理なスポーツである。

こうして、流れがオーストラリアの方に向けて一気に変わっていきそうな状況だったが、そこから粘れるところがこの日本チームの長所でもある。CKからつないだクロスがマッケイの手に当たり、なんとハンドによるPK。流れは完全に日本に戻ってきたのだった。終わってみれば、両チームにとっては、何も問題のない引き分けという結果に終わりはしたのだが、あまりにも不条理な、サッカーの怖さを垣間見たような試合だった。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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