これまでの放送
海に浮かぶ巨大な物体。
長さは140メートル。
イギリスで開発が進む、波の力を電気に変える発電装置です。
直径6メートルの大きなタービン。
こちらは、潮の流れで回転して発電します。
今、太陽光、風力に続く自然エネルギーとして海洋発電の実用化が近づいています。
イギリスでは、2020年までに原発2基分の電力を海洋発電で賄う計画です。
イギリス政府 特別委員会 会長
「海洋発電は原子力や化石燃料と同じ安定した電源として使えます」
イギリスと同様、海に囲まれた日本。
海洋発電に適した場所が多いとされています。
しかし、開発を支援する環境が整っていないため、実用化に向けた研究開発は遅れています。
開発企業 社長
「4年か5年でできるかなと考えていましたがとんでもない話で、倍かかっても先が見えない」
新たなエネルギー戦略が求められている日本。
海洋発電は選択肢の一つになるのか。
開発現場の最前線を追います。
イギリス・スコットランド地方のオークニー諸島。
ここに、海洋発電開発の一大拠点があります。
ヨーロッパ海洋エネルギーセンターです。
日本の企業として初めて大手重工メーカーがここで開発を進めることになりました。
発電装置の試験を行い、実用化の足がかりにしようというのです。
開発チームのリーダー、平松秀基さんです。
平松秀基さん
「発電装置を設置する海底の状況は調べていますか?」
「いくつかの候補地の海底調査をすでに終えています。」
平松さんたちは、潮の流れを利用して発電する装置を設計しています。
来年には、直径18メートルのプロペラを持つ発電装置を海に設置して実験を始める予定です。
なぜ、平松さんたちはイギリスで実験をするのか。
それは実用化に向けた開発環境が世界で最も整っているからだといいます。
この日、視察に訪れたのは実験場の中心施設です。
沖合にある発電装置から海底ケーブルが伸びていてこの施設につながっています。
中には、発電装置の情報を集めて処理する機械が並んでいました。
発電量や気象データ波の高さや潮の速さなど実用化に不可欠なデータがリアルタイムで記録されます。
開発中の発電装置が完成すれば、すぐにでも設置して実験を始められるよう整備されていました。
この海域が、平松さんたちが装置を設置しようと考えている場所です。
平松秀基さん
「我々のサイト(実験場)はこの辺りになります。
ちょうど島と島の間に挟まれまして、速い潮流が流れる場所となっております。」
近くの海域ですでに、ほかの企業が実験を行っていました。
潮の流れの中に設置されたやぐら。
6年前から実験を続けているといいます。
直径6メートルの大きなタービンが回転しています。
潮の満ち干(ひ)で生じる海水の流れを捉える潮流発電装置です。
平松さん、開発が進む海外のライバル企業の勢いを目の当たりにしました。
「実際に見ると迫力ありますね。
早くしないと市場を押さえられてしまいますので、早く追いつかないといけないなと痛感しますね。」
海洋センターでは現在10を超える発電装置が開発されています。
装置の性能が認められると電力会社と契約できるため開発競争がさらに激しくなっています。
●海洋発電 イギリスの戦略
イギリス政府が実験場の整備など海洋発電開発の支援に乗り出したのは9年前。
海洋発電を、自然エネルギーの柱の一つにしようと考えたからです。
イギリス エネルギー・気候変動委員会 ティム・ヨウ会長
「私たちは2020年までに自然エネルギーを全電力の15%にします。短期的には風力ですが、長期的には海洋発電でまかなおうと考えています。
なぜなら、信頼性が高く、電子力や化石燃料と同じ安定した電源として使えるからです。」
●海洋発電 近づく実用化
国の手厚い支援により装置が大型化し、実用化に迫るものも登場しています。
これは波の力で発電する装置。
長さ140メートルです。
名前はペラミス。うみへびという意味です。
1基でおよそ1000世帯分の電気を生み出せます。
大型化して発電量を増やしたことで相対的に発電コストも下がったといいます。
どんな仕組みで発電をしているのか、中を特別に見せてもらいました。
内部は筒のような構造で発電に関わる装置が所狭しと並んでいました。
「あそこに見えるのが油圧を使ったピストンの1つです。」
このピストンが発電の要です。
波で揺れると黒いチューブの部分が伸び縮みします。
それに合わせてチューブにつながる青いピストンが左右に動きます。
そしてピストンの中の油を圧縮。
その力で発電機を回します。
ペラミスを開発した会社は3人の研究者が14年前に設立。
模型の実験から始めました。
その後、政府などから開発資金の支援を受けて90億円という巨額の資金を調達。
どんどん大きな試作機を作り上げてきました。
今、耐久性と発電効率をさらに上げる調整を行っています。
数年後には、発電コストも、普及が進む風力発電に迫るとしています。
発電コストとともに重要なのが電気の安定性です。
電力会社による検証実験も始まっていました。
4年前に設置されたこの潮流発電装置。
生み出した1500世帯分の電気は岸辺の変電所で電圧を整え実際に送電線に乗せて街に届けています。
検証の結果この発電装置の稼働率は風力発電の2倍。
天候の影響をほとんど受けず、安定した電気を供給できることが確かめられたといいます。
電力会社 ゼネラルマネージャー リアム・モロイさん
「今の海洋発電は、20年前、普及を始めようとしていた時の風力発電と同じ勢いを感じます。
現在は、商業化する一歩手前まで来ていて、我が社では2030年頃には40万から50万キロワット規模の商業運転を行っていることになるでしょう。」
和歌山県南部、すさみ町。
ここに、波の力を使った発電装置があります。
大学発のベンチャー企業が10年前から開発を続けています。
2年前行った実験では、45キロワットの発電に成功。
今、発電量を倍増させようと新しい装置の開発を進めています。
しかし、課題があります。
設置する場所によって、波の強さや向きが違い、発電量が大きく変わってしまうのです。
多くの場所で実験を重ねて、どんな波でも効率よく発電できないと実用化は見込めません。
この装置の開発を進める古澤達雄さんです。
先月、新しい実験場所を探して青森県庁を訪れました。
ベンチャー企業 社長 古澤達雄さん
「ぜひその海域で(実験)できれば長期的にやらせて頂きたいなと。」
「やはり最後は漁師さんとの折り合いがどうつけられるかというところで、なかなか進められなくなったという話も聞いていますし。」
県の協力は取り付けましたが漁協をはじめ、関係する組織との調整の重要性を指摘されました。
古澤さんは、この10年間、実験の相談に30か所以上の地域を訪ねてきました。
「東北、下田、太平洋側の方はずっとまわりました。」
しかし実験にこぎ着けたのはこれまで、まだ2か所だけです。
海は管理する組織が多く、権利が複雑です。
自治体や漁協をはじめ、関係する国の省庁などからの了解も必要です。
調整に時間がかかるうえ1か所でも反対があれば実験はできませんでした。
ベンチャー企業 社長 古澤達雄さん
「本来であれば、私はもう4年か5年でできるかなというふうに考えてたんですが、もうとんでもない話で。
もう、約倍かかってるわけですね。倍かかっても、まだ先が見えない。」
日本で、イギリスのような公的な実験場を作れないのか。
実は、設置を希望する自治体が出てきています。
その一つが岩手県です。
東日本大震災の復興事業として実験場の設置を考えています。
岩手県 科学・ものづくり振興課 佐々木淳課長
「それぞれ違う地形のところでいろんな実験ができると思うんですね。
いろんなデータをそろえて、国の方に働きかけていきたいというふうに思っています。
海洋再生エネルギー関係の企業を呼び込むとか、地元の企業が実際にものを作るとかいうことで、新しい産業を三陸にそこに定着するというか根づかせていくということが大事だと思っています。」
しかし、設置には少なくとも30億円の予算が必要です。
また、広い海域を実験場にするには法律に基づいた環境への影響調査など国との調整が必要です。
県単独で進めることは難しく、まだ設置のメドは立っていません。
開発が進まないもう一つの大きな要因は、資金の問題です。
ベンチャー企業の社長、鈴木清美さん。
5年前から潮流発電装置の開発に取り組んでいます。
鈴木さんが開発しているのは潮の流れをプロペラで捉えて発電する装置です。
これまで自己資金に加えて、国から9000万円の補助も受け、長さ6メートルの装置で発電に成功しました。
今、実用化を想定した大きさが3倍の装置の設計を始めています。
しかし、課題に直面しています。
装置の大型化には、これまでの数倍の資金が必要ですがそのメドが立っていないのです。
「何の見積もりですか?」
「これは油圧関係の見積書です。
だいたい9100万円、1億近いお金がかかります。
ざっと今、見積もっていて6億と思っていますけど、それで収まるかどうかはわかりません。」
これは自然エネルギーに対する投資を各国で比較したものです。
日本はイギリスの半分以下。
導入目標が低く支援制度が少ないため投資が集まらないのが現状です。
実用化を進めたい鈴木さんは先月知り合いのアメリカ人に頼んで海外の投資家への説明会を企画しました。
「きょうは投資と今後の開発について説明させてください。」
実用化を急ぎたい鈴木さん、焦りが募っています。
ベンチャー企業 社長 鈴木清美さん
「ちょっとやってストップしてまた資金調達、ちょっとしてまた資金調達ということでもう時間ばかりが過ぎていった感じですね。
そのへんがね、海外と比べて大きく違う部分だと思います。」
一方、海洋発電をエネルギーの柱の一つに掲げているイギリス。
先月、新たに30億円の資金援助を発表。
開発に乗り出す企業が増えています。
自然エネルギーに対する国の姿勢の違いが日本との差をますます広げています。
●海洋発電 日本の課題
木下さん:15年前までは、国のプロジェクトがあったんですけれども、それ以降、すっかりやめてしまったということで、そのときから、日本のエネルギー政策というのが一点集中になって、原子力と、あと自然エネルギーでは太陽光ということで、風力のほうもあんまり進まなくなってしまいまして、それが大きい。
しかし自然エネルギーというのは、基本的に各所各所の一番適したものを、優しく集めていくということですので、そこが非常に大きな失敗点だったと思います。
●日本での開発の難しさ
木下さん:まず、場所を見つけるのがとても難しいんですね。
というのは、漁協の方が一人でも反対すると、組合長は首を縦に振れないと、そういうことがあります。
そうすると、次の漁協に当たってみる、あるいはどうのこうので2年、3年はあっという間にたってしまうんですね。
もう一つはそのそこでやったとしても、2年間、いいですよって言われて、2年後に非常に大枚かけて作った海底電線、電力、送電線ですね、それまた撤去しなきゃいけないということで、効率がとっても悪いわけです。
(国からの支援は、)やっとぼちぼち始まったというところでして、まだまだ欧米の各国に比べると、断然小さいですし、中国や韓国に比べても見劣りするものです。
特に諸外国は数年先まで、中期的な見通しを国として出すと、そういうところが日本にはないものですから、難しいと思います。
●イギリス したたかなエネルギー戦略
山崎記者:イギリスは海洋発電をやると決めたときにはもちろん漁業権の問題も日本と同じようにあったんですね。
だからこそ、個人や企業がやるのではなくて、国がもうこのエリアを使ってくださいということで、権利関係全部処理して作ったのがあの海洋センター。
だからどんどん開発が自由にできるということなんですね。
あと資金についても、例えば海洋発電の電気を使うと、電力会社の優遇策があるんですね。
そういう支援策がある。
だからこそ、そこにお金が集まる。
大体官民合わせて500億円以上のお金が集まっているというふうにいわれてますね。
●問われる日本のエネルギー戦略
木下さん:再生エネルギーには2つの面があると思います。
1つは自前のエネルギー、すなわち国のエネルギーのセキュリティーですね、そういう面があります。
もう1つは安全保障ですね。
その(エネルギーを海外から)買ってくるのでそれは間に合うんですけれども、2つ目は雇用対策というか産業政策というか、そういう面は、どうしても国でやったほうがいいと。
特に海洋エネルギーが雇用政策に向いているのは、すそ野産業が自動車産業と同様にとてもあることなんです。
そういう意味で、よく話し合えば合意が必ず取れる問題だと思うんですが、今のところ水産組合法ということで、漁業組合は事業者になれないとかそういう規制がありますので、それは時間を、そのうちに直していく、ということですね。
そうすると、どんどん問題の8割方はそれでどんどん解決されて進むと思います。
県が非常に主導してやってくださってることはありがたくてですね、これから地元住民の方ですとか、あるいは漁民の方と、これから話し合いが始まると思うんですけど、そうした中で、ここにしようということが決まって、そこで海洋センターが出来たりなんかしますと、そういう成功例を見て、日本国中の漁民の方、あるいは漁村の産業の方が、積極的に取り組んで理解が進んでいくと、そう思っています。
●原発から自然エネルギーへ 課題は
山崎記者:去年の福島の原発事故以降、今の政府は、脱原発、原発を減らしていくというふうに政策を見直すと言っておるわけですね。
ことしの夏に向けて、抜本的にエネルギー政策を今、議論しているんですが、ことしのこの12月の予算では原発関連の予算が4000億円、自然エネルギー関連はその半分、2000億円なんですね。
政府の方針とその政策の金額とはまだ合っていない、そして今の夏に向けた議論も、まだ自然エネルギーの、具体的にどれをどういうふうに導入するかっていうのが、まだ議論がされていない。
海洋発電というのはそこの中の議論にもまだ挙がっていないという状況なんですね。
木下さん:再生エネルギー全体の国としてのヘッドクオーターを持って、ロードマップを作って、中間的なマーケットが、この年代にはこのぐらいのマーケットがあるぞということで、事業者なり、研究者が進んでいくと思います。