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【愛知】

嘆く客「もうやめる」 一宮競輪場「廃止」表明

場外レースの行方をテレビ画面で見守る来場者たち=一宮市羽衣の一宮競輪場で

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 来年三月での廃止が三日に表明された一宮市営の一宮競輪場。長引く業績不振を理由に、谷一夫市長が選んだのは「競輪場事業からの撤退」だった。六十三年間の歴史を持つ娯楽の拠点がなくなることに、ファンや選手、従業員は戸惑いや不満の思いが交錯した。

 谷市長が市役所で記者会見した三日午後。わずか八百メートル離れた競輪場は、通常通り営業していた。

 場内のレースはなかったが、他の競輪場で開催されたレースの車券を販売。売り場に設置されたテレビ画面の周りに、レース中継を見守る二千人のファンの人だかりができていた。

 「四十年間通ったから、そりゃ寂しい。ここがなくなったら、もう競輪やめるわ」

 市内の六十代の男性客は嘆いた。売り上げが最盛期だった二十年ほど前、レースがあるとスタンドは満員。売り場の窓口は車券を買い求める客で押し合いになったという。「赤字なら仕方ない。でも、競輪場の後に何をやるんか。はっきり説明せんと納得できん」と語気を強める。

 競輪場向かいの居酒屋「あららぎ」は、競輪場の営業日に合わせ店を開く。客の大半はレースの観戦客だ。店を営む村松恵美子さん(63)は「競輪場が廃止すれば、店にとっては廃業同然の打撃。廃止を決めた市には補償してほしい」と嘆く。

 一宮競輪場を拠点にする一丸安貴選手(41)はこの日午前、谷市長が撤退を表明した議員総会を傍聴し、「来る時が来た」と肩を落とした。

 日本競輪選手会愛知支部の支部長として、ファン獲得を目指し、全国でイベントを開いてきた。それだけに、今回の表明が競輪業界全体に及ぼす影響を不安視する。

 競輪場内の職場からは、市の対応に不満の声も。車券売り場の販売員や清掃員が加入する従業員の組合では、本年度の事業黒字化に向け、従業員の給与削減に取り組んでいた。

 滝和枝組合長は「本年度の結果も待たずに廃止を発表し、現場無視だ」と批判。「正式に廃止が承認されるまで、存続に向けて活動をする」と話す。

 谷市長の表明を受け、市議会は今後、正式に廃止するか決定する。議員の多くは「廃止やむなし」の考えで、反対の動きは限定的になる見通しだ。

 野村直弘議長は「撤退に関連した議案が出される秋以降に向け、議会内で意見集約していく」と語った。

◆いま撤退が最善 市長会見要旨

記者会見で競輪事業からの撤退を表明する谷一夫市長=一宮市役所で

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 【決断の背景】

 消費税が3%増税すると七千万円の経費増が見込まれる。配当率見直しなどの制度改革の先行きも不透明。継続すれば耐震補強など施設改修も必要になる。先送りしてより傷を深くし、税金を投入することになっては市民の理解が得られない。今の時点で撤退することが最善だ。有識者の検討委員会の提言だけでなく、議論の中で出た「粘るべきではない」「撤退を目指すなら、なるべく早くしたほうがいい」という声にも考慮した。

 競輪場の存続については市長就任時から考えてきた。当時、(自治体でつくる)組合が撤退し、競輪場を持つ一宮は撤退できなかった。余力があるうちにやめるのが賢明と判断した。

 【撤退費用】

 競輪事業の資金余力は六億四千万円あり、今なら退職金などの費用をまかなえる。建物の解体は他の競輪場をみると十億円以上、十五億円前後かかる。土地が計四万五千平方メートルあり、解体費用以上の資産がある。

 【これから】

 今日の表明が、手続きのスタートだ。従業員の再就職支援など具体的なことはこれから話し合う。跡地の利用方法も未定。場外レースの車券の販売継続も、他との調整が要るため決まっていない。本年度末まではレースの開催を続ける。

 (添田隆典、安福晋一郎、三輪喜人)

 

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