#173 特集 アイドル戦線 異状アリ!?
“Help me!!”に続き、“ブレインストーミング/君さえ居れば何も要らない”で11年ぶり二作連続オリコン・ウィークリー・シングル・チャート1位を記録、と明るいニュースが報道された4月下旬。もちろん、その主役はモーニング娘。だ。『FLOOR net』でモーニング娘。……!? いま、新たなムーヴメントはアイドルの戦線で巻き起こっているのだ。
本特集ではモーニング娘。をはじめ、Berryz工房や℃-uteなど、ハロー!プロジェクト所属アーティストを手掛けるプロデューサー:つんく♂に取材を試み、「アイドル×ダンス・ミュージック」の真相について問うた。
取材・文/佐藤公郎
昨年4月、「モーニング娘。が“恋愛ハンター”という曲でダブステップに挑んでいるらしい」という話題で編集部が騒然とした。確かにダブステップの要素が楽曲に採用され、到底日本を代表するアイドル・グループが歌っている曲とは信じがたいほどの衝撃を受けたのは記憶に新しい。しかし、思い返せばモーニング娘。をはじめ、これまでに数多くのアーティストを手掛けてきたつんく♂がプロデュースを担う楽曲にはダンス・ミュージックのエッセンスがちりばめられたものが散見されたのも事実だ。だが、“恋愛ハンター”以降の作品に顕著なように、これまでとは明らかに何かが違う。それは例えば、キックやスネアの硬度、ミュージック・ビデオにおける印象的なフォーメーションが組まれたダンス、要素は様々だ。最新のトレンドを追うことはヒットへの近道となるが、それを意識しつつも、完全なるオリジナル・スタイルで勝負を挑んできている。アイドルがアイドル然とした楽曲を歌わなくてはいけない時代は、もう過去の話なのかもしれない。いま、ダンス・ミュージックのムーヴメントをアイドル・グループが作り上げようとしている—いったいつんく♂に何が起きたのか。多忙を極めるプロデューサーに取材を試みた。
—モーニング娘。をはじめ、Berryz工房や℃-ute、インディーズにおいてもJuice=Juiceなど、ハロー!プロジェクト所属アーティストによる昨今の楽曲のクオリティには目を見張るものがありますが、きっかけとなる出来事はあったのでしょうか?
「もともとモーニング娘。は初期からダンス・ミュージックに根差した楽曲を採用してきたこともあったんですが、表現するにはまだ物足りない気持ちもあったんですよ。どうしてもアイドルがダンス・ミュージックを取り入れると、ただの“にぎやかな楽曲”になってしまう傾向があった。いまのモーニング娘。の楽曲できっかけがあったとしたら、鞘師(里保)と石田(亜佑美)の踊れるメンバーの加入。もちろん、これまでのメンバーも踊れるようにはなっていくんだけど、幼少期からダンスで鍛えられた人間が加入したことは大きなきっかけになりましたね。いまは彼女たちがエッジとなって見映えするサウンドを意識してます」
—確かに過去の作品からもダンス・ミュージックのエッセンスは感じ取ることができますが、“恋愛ハンター”以降は確実にトラックの強度が増しているように思います。
「以前からエッジを効かせたトラックでいきたい、という気持ちはあったけど、効かせすぎると歌が乗ってこない。トラックばかりが尖っていると、曲として成立しないんですよ。バランスを保たせる作業が必要になり、そのときのメンバーで曲をモンタージュして合致する部分を探す。例えば、歌が格段にうまいメンバーがリード・ボーカルを務め、その声を加工してしまうと、違和感が生じてしまう。いまのメンバーは平均年齢が全体的に若く、ボーカルを加工したり、エッジを効かせても違和感が生まれることはほとんどないので、モーニング娘。はいまなら何をやってもこなすことができるような気持ちがあるんです。昔はその挑戦がアルバムの収録曲だったりしたんですが、いまではシングル単位で勝負できていますからね」
—この数年だけでもモーニング娘。“恋愛ハンター”におけるダブステップや、“One・Two・Three”のEDM、Berryz工房“アジアン セレブレイション”のディスコ・サウンドの導入など、諸作のアレンジを担当している大久保薫さんや平田祥一郎さんとはどんな話し合いをするのでしょうか?
「アレンジャーとは常に音探しの日々です。個人的には流行を追いかけないようにしているけど、EDMは大きなカテゴリのチョイスの1つとしてチェックしています。いかに“飽きさせない作り”をするかが大事で、メロディをいかに“ステイ”させるかが肝となってくる。『良い曲を作らないと!』という意識は、どうしてもコードに振り幅を持たせてしまって、歌謡曲っぽくなっていってしまう。でも、実際に(コードが)行き来する曲は聴いていてしんどい部分もあるので、僕はそこを昔から“ガマン”と言っています。それと、“恋愛ハンター”以降は極力、バックトラックの音数を減らしています。以前、高橋(愛)がメイン・ボーカルだった時代は、ロック色が強く、ギターやストリングスなどオケも分厚かったんですが、いまのモーニング娘。はトラックそのものを音で埋めないようにしているんです。じつは、そういったスタイルでチャレンジできる方が、音楽家としては非常に楽しいんですよね。K・ポップと5年〜10年間水をあけられてしまった刺激の差を、指をくわえて見ていなくちゃいけない歯がゆさがありましたが、いまようやく攻めることができている感覚はあります」
—どのような点でK・ポップと差を付けられたと感じましたか?
「シンコペーションの強さ、ビブラートのうまさ、声帯の域、タイム感、そしてリズムに対する意識の高さ。日本はリズムをディレクションできるディレクターが少なく、結果音楽解析能力に乏しくなってしまうんです。リズムの効いた曲を聴いて育たないと、三連符や符点が続く曲をリズミックに歌いこなすことは難しいわけですから」
—そこにはBPMも大きく関与してきますか?
「昔のユーロビート、ディスコ時代はテンポは124が限界と言われてきたんですが、パラパラのムーヴメントが起きて以降、140〜160も当たり前になった。でも、踊るに適したBPMは130前後だと思っているので、いまは130から140未満が多いですね。速くしすぎてしまうと、やはりただのにぎやかしになってしまう危険性もありますからね」
—ただのにぎやかしにならないクールなダンス・トラックでありながら、歌詞はつんく♂さんらしい、非常にユニークなものですよね。
「ありがたいことに作詞作曲を任せてもらっているから成立していることであって、リズムに対して歌詞をどう乗せるか、韻を踏むか踏まないか、心では『一小節くらい歌わせて!』と思っているかもしれませんけど、あえて歌詞を1文字ずつ切って歌わせるという行為も、常に心掛けている言葉遊びの一環です」
—つんく♂さんが手掛けたダンス・ミュージックに則った楽曲で、自身のターニングポイントとなった楽曲を教えてください。
「初期だと“サマーナイトタウン”(98年)ですね。海外ではスパイス・ガールズやデスティニーズ・チャイルドといったガールズ・グループ、国内でもSPEEDやMAXが絶頂期を迎えていた時代に、“モーニングコーヒー”でフォークっぽくデビューしたモーニング娘。がダンス・サウンドで勝負を仕掛けたら、受け入れてもらえたんですよね。その次はやっぱり“LOVEマシーン”(99年)。僕が中高生時代に聴いていたディスコ・サウンドをあの時代に再現できたことは素直にうれしかった。それからしばらくあいて、“この地球の平和を本気で願ってるんだよ!”(11年)、“ピョコピョコウルトラ”(12年)、“恋愛ハンター”(12年)でダンス・ミュージックへの受け入れ体制の確認を経て、“One・Two・Three”(12年)かな。それに引っ張られてBerryz工房や℃-ute、スマイレージの意欲も向上して、ハロー!プロジェクト全体がグッと上がってきてますからね」
—近年におけるニコニコ動画やYouTubeなどにアップされる「踊ってみた」は、ハロー!プロジェクト所属アーティストの楽曲が飛躍的に増加したと思いますが、チェックはしていますか?
「ツイッターでメンションがきたり、話題になっているものに関しては時間ができたら見るようにしています。いまは国内だけじゃなく海外の子たちが踊ってくれているのは純粋にうれしいですよね。モーニング娘。の曲を男の子たちだけで踊るグループは面白かったですね」
—ダンス・ミュージックに特化した楽曲はしばらく続きますか?
「時代的なものもあるかもしれないけど、ラッキーなことにいまは良い方向に転がっている。インディでデビューしたJuice=Juiceにも良い曲(“私が言う前に抱きしめなきゃね”)を提供できたし、盛り上がりは感じています。でも歌える人間が出てきたら、また変わるかもしれませんね」
—プロデュースを手掛ける上で必要不可欠なものとはどんなことでしょうか?
「スター性やタイミングも重要ですが、アーティストの鮮度です。アーティスト自身に鮮度を保ってもらえると、自分のモチベーションもアップする。例えば、モーニング娘。のメンバーの誰かの目が輝き出すのを見ると、その人のために曲を作りたくなるんです。それはすごくいい相乗効果であって、互いに良い関係を築いていくこともできますからね」
—最後に、今後つんく♂さんが提案していきたいサウンドを教えてください。
「研究を怠ることなく、そのときの最大限を出していきたいと常々考えています。作品に関して言えば、僕自身が歌っていて気持ちのいい曲がじつはハマりがいいんです。“One・Two・Three”や“Help me!!”のような大人が歌っても成立する音楽。アイドルはこうでしょ、音楽ってこうでしょ、と意識しすぎると枠から飛び出すことはできない。僕自身が歌ってもかっこいいと思えるものを提案していきたいですね。日本代表、アジア代表として」
プロフィール
つんく♂
1968年生まれ。音楽家/エンターテインメント・プロデューサー/作詞家/作曲家/TNX株式会社代表取締役社長。1988年にシャ乱Qを結成、92年のメジャー・デビュー後はミリオン・セラーを続々と記録。その後、モーニング娘。のプロデュースを皮切りに、数多くのアーティストのプロデュースを手掛ける。
シャ乱Q 結成25周年記念ライヴ・ツアー 2013
秋の乱~シハンセイキ伝説~
8月31日(土) @Zepp東京
9月6日(金) @Zepp名古屋
9月7日(土) @Zeppなんば大阪
9月14日(土) @仙台イズミティ21
Interview with 大久保 薫
モーニング娘。をはじめ、ハロー!プロジェクト所属アーティストの楽曲のアレンジを数多く手掛ける鬼才に直撃!
—大久保さんの音楽的ルーツを教えてください。
「初めて影響を受けたアーティストはプリンスです。その頃はプリンスばかり聴いていたんですが、それを真似て作ってみたくなり、最初に制作したのは同じパターンで永遠に4分間ずっとループしているような曲でした。それだけではバリエーションがないので、プリンス自身が影響を受けたジェームス・ブラウンやP・ファンク、あとザップやジャム&ルイス、テディ・ライリーの作品を聴いていましたね。その後、インディーズでバンド活動を続けながら、作家事務所に所属することになり、J・ポップの作曲やアレンジの仕事をすることになりました」
—ダンス・ミュージックにおけるトレンドを楽曲に採用したい気持ちは常々持っていますか?
「最新のトレンドは常にチェックしています。最近だとR&Bから派生したエレクトロ・ミュージックに影響を受けますね。ただ、自分がアレンジを担当している作品の多くはJ・ポップの枠組のものなので、入れられる要素があれば入れたりしています。ダブステップの要素は最近のモーニング娘。作品に採用することが多いですね」
—アレンジを手掛ける際、つんく♂さんとはどんなディスカッションを行うのでしょうか?
「とにかく何度もやりとりを繰り返し、完成させています。例えば、ここのリズムは4つ打ちの方がいい、シンセの音色をもっとバキバキにするべきだとか、その他BPMなどに関しても細かく話し合います」
—自身が手掛けた楽曲でターニングポイントとなった作品は?
「いろんな意味でモーニング娘。“One・Two・Three”です。ダンス・ミュージックというカテゴリでも注目していただくきっかけにもなった一曲ですので。自分のなかでもリミッターを外して表現できた作品になったと思います」
—アレンジを手掛ける際、もっとも重点を置いている部分は?
「最初はメロディにどんなグルーヴが合致するか探りつつ、リズム・パターンやベースラインなど、どれか1つ主軸を作るところに時間を費やします。アレンジを進めていくうちに突拍子もない音色やフレーズ、メロディを無視したベースラインが浮かんでくることもあるんですが、そのへんもあまり深く考えずガンガン進めていきます。その方が勢いが出たり、いままでなかった感じの曲に仕上がることがあるんですよね。また、自分がアレンジを担当した曲はコーラス・ラインにもすごくこだわっています。そのコード感で最終的に自分らしいアレンジになっているかな、と思っています」
◆プロフィール◆
大久保 薫
1972年生まれ、大阪府出身。1995年よりコンポーザー/アレンジャーとして活動を開始。“One・Two・Three”をはじめ、モーニング娘。の近年の代表作のアレンジを担当。他にもナオト・インティライミの初期作品からアレンジを手掛けている。
Interview with 白服
ニコニコ動画でおなじみ「踊ってみた」カテゴリの貴公子、
白服に「なぜ、いまモーニング娘。で踊りたいのか?」を直撃!
—perfumenとしてニコ動「踊ってみた」でperfumeをメインに踊っていましたが、なぜいまはハロー!プロジェクトに?
「もともと中学時代からモーニング娘。が大好きだったんです。去年、ニコ動の公式生放送『ニコラジ』でMCを務めていたときにスタッフがサプライズで僕の推しメンの鈴木香音ちゃんのコメントを取ってきてくれて、そこで『モーニング娘。でも踊ってください!』と言われたことがきっかけです」
—もともとダンスの経験は?
「いえ、未経験です。大学生になってニコ動を見るようになり、ダンスを始めたのはそれからです」
—モーニング娘。“恋愛ハンター”を皮切りに、“ワクテカ Take a chance”や“One・Two・Three”と動画がアップされ、男性版モーニング娘。“むすめん。”が結成されたわけですが、踊ってみて発見などは?
「あの人数だからダンスが映えるんだろうな、と思っていたんですけど、実際に僕らが同じ人数で踊ってみると合わせるのが難しいんです。誰か1人がうまくても意味を成さないんですよね。でも、踊っていて本当に面白い。むすめん。のメンバーは北海道から関西までみんな居住地はバラバラなんですけど、もともとモーニング娘。を熱狂的に好きな人たちばかりではなく、『踊ってみた』カテゴリで知り合って声をかけた人もいて、『いまのモーニング娘。ってこうなんだ?』ってハマってくれた人もいますね」
—「踊ってみた」カテゴリをはじめ、YouTubeなどでも近年、モーニング娘。を踊る面々が一気に増えましたよね。
「曲のクオリティが高く、ダンスのフォーメーションも面白い。本当に爆発的に増えたと思います。でも、負けたくないのでがんばります」
—ちなみに近年のモーニング娘。の楽曲で強く印象に残った曲は?
「“恋愛ハンター”からちょっと変わったかな、という印象は持っていたんですけど、“One・Two・Three”で革命が起きたと思いました。加工されたボーカルに抵抗を覚えたリスナーもいたかもしれないけど、とにかく新鮮でした。モーニング娘。は“LOVEマシーン”の頃からずっと好きですけど、いまのモーニング娘。が一番好きです」
—むすめん。としてオリジナル曲も発表されましたね。
「こんなに長く続くとは思っていなかったんですが、“恋愛ハンター”の動画を本家に見てもらえたことから、自分たちの目標も作ろうと。ハロプロの聖地である中野サンプラザでのライヴを目指します! 最後に、ズッキ(鈴木香音)はずっと応援してます!」
◆プロフィール◆
白服
モーニング娘。ヲタ歴13年。現在はメンバーの鈴木香音推し。むすめん。のオリジナル楽曲“War Cry~アイドル気取りで何が悪い!~”配信中。
Twitter @shirofuku_nico むすめん。@info_musumen
photo by Shinsuke Ishikawa