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美しく見せるという思惑がないところでの"キレイさ"。その"意外性"が面白いのかも。
『工場萌え』['07年]『工場萌えカレンダー 2008
』『超高層ビビル 日本編 (Skyscrappers Vol 1)
』['08年]/映画「ブレードランナー
」より
「工場」と言うより「コンビナート」のタンクやパイプ、煙突群の「構造美」を捉えた写真集で、「工場萌え」とは工場の景観を愛好する行為だそうですが、著者(石井氏)のmixiのブログに端を発して、ちょっとしたブームになっているらしく、カレンダーやDVDまで出ています。
高層ビルや吊り橋など人工の建造物を写真に収めることを趣味とする人は結構いるようで、最近では中谷幸司氏の『超高層ビビル 日本編』('08年/社会評論社)という写真集が刊行され、更には全国のダムを撮った萩原雅紀氏の『ダム』('07年/メディアファクトリー)などというのもあります(こちらも続編『ダム2(ダムダム)』('08年)が刊行され、DVDも出された)。
この内、『超高層ビビル 日本編』は、日本全国の高さ100メートル超の高層ビルを写真に撮って並べたもので(但し、トップにきているのはビルでなく「東京タワー」。次に「六本木ヒルズ」)、キャプションとしては高さ・階数・建設年月・所在地が記されているだけですが、このカタログ的な並べ方が逆にいいです。
写真も、変に意匠をこらさず、それぞれビルの全体像が分かるような(主に正面から見た)撮られ方になって、この本はある建築家がお薦めとしていまいしたが、建築・建設関係者の間では密かに人気を得ているようです(著者=撮影者はJavaのプログラマーであるとのことで、あくまで趣味の世界からスタートしている)。
こうした写真集はある種の「機能美」を追ったものであり、とりわけ高層ビルや吊り橋に関しては、そうした「外見上の美しさ」というものが予め設計段階で織り込まれている―それに対し、「コンビナート」が美しく見えるというのは、そうした思惑がないところでのことで、その"意外性"が面白いのかも(但し、個人的には『超高層ビビル』の方が若干好みだが)。
ただそれだけに、「鑑賞スポット」とでも言うか、見るポイントが限定されてくるわけで、本書の後半では、そうした撮影ポイントを地図と写真入りで紹介しており、更に"鑑賞"のための基礎知識として、「歩きやすい靴で」とか、近くにコンビニさえ無いことが多いから「飲み物を忘れずに」とか、色々な注意点が親切に書かれているのが、普通の「趣味ガイド」みたいで何となく面白い。
最後に「おすすめ工場コンテンツ」というのがあり、工場を知るための入門書や、工場のイメージを効果的に使った映像作品、工場に親しめる小説などが紹介されています。
映画「ブレードランナー」より
その中にはリドリー・スコット監督の映画「ブレードランナー」('82年/米)や笙野頼子氏の『タイムスリップ・コンビナート』('94年/文藝春秋)(これ、芥川賞作品の中ではかなり異色ではないか)などがあったりして、"系譜"と言えるかどうかは別として、「コンビナート」的な「構造美」に惹かれる部分は意外と多くの人が持っていて、ただそれが、無機的であるとか、大気汚染とイメージリンクしてしまうとかで、隠蔽されてきた面もあるかも。
また、映画「ブレードランナー」に関して言えば、'82年の公開時は大ヒット作「E.T.」の陰に隠れて興業成績は全く振るわなかったのが、後になってジワジワと人気が出てきたという経緯があり、当初カルトムービー的に扱われてたものが、やがてSF映画のメジャー作品としての市民権を得たという点や、ファンの多くが、映画のストーリーだけでなく、或いはそれ以上に、視覚的な背景などの細部に関心を持ったという点で、「工場萌え」ブームに共通するものを感じなくもありません。
あの映画の妙というか、観客に視覚的に強いインパクトを与えた部分(個人的にはまさにそうだったのだが)の一つは、未来都市にもダウンタウンがあり、ネオン塔や筆字体の看板などがあって、そこに様々な人種が入り乱れて生活したり商売したりしている"生活感"、"人々の蠢(うごめ)き感"みたいなものがあった点ではなかったかなあ(80年代にシンガポールで見た高層ビルの谷間の屋台群を思い出した。シンガポールまで行かなくとも、新大久保のコリアン街でも似たような雰囲気は味わえるが)。
但し、「工場」にはそうした生活感のようなものが全くない(とりわけ夜の工場には)―その、"純粋"機能美が、それはそれでまたウケるのかも知れませんが。
『工場萌え』というタイトルが面白いし、効いていると思います。「萌え」というのは、本来はキャラクター的なものを対象としていることからすれば、ある意味パロディでしょう。
確かに、視点や時間帯で様々な景観を示すコンビナートは、未来都市の一角のようで美しい(特に夜景が"妖しく"キレイ)と思ったけれども、個人的には、「こんなのが好きな人もいるんだ」という珍しさが先に立って、自分自身が「萌える」というところまではいかなかったかな。
「ブレードランナー」●原題:BLADE RUNNER●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:マ
イケル・ディーリー ●脚本:ハンプトン・フィンチャー/デイヴィッド・ピープルズ●撮影:ジョーダン・クローネンウェス●音楽: ヴァンゲリス●時間:117分●出演:ハリソン・フォード/ルトガー・ハウアー/ショーン・ヤング/ダリル・ハンナ/ブライオン・ジェイムズ/エドワード・ジェイムズ・オルモス/M・エメット・ウォルシュ/ウィリアム・ サンダーソン/ジョセフ・ターケル/ジョアンナ・キャシディ/ジェームズ・ホン●日本公開:1982/07●配給:ワーナー・ブラザース
●最初に観た場所:二子東急(83-06-05)●2回目:三軒茶屋東映(84-07-22)●3回目:三軒茶屋東映(84-12-22)(評価:★★★★☆)●併映(2回目):「エイリアン」(リドリー・スコット)/「遊星からの物体x」(ジョン・カーペンター)●併映(3回目):「遊星からの物体x」(ジョン・カーペンター)
二子東急 1957年9月30日 開館(「二子玉川園」(1985年3月閉園)そば) 1990(平成2)年頃に閉館/三軒茶屋東映 1955年オープン、後に三軒茶屋シネマ