ヘイトスピーチ:横行 普段着の参加者、激化する中傷 外国人差別、規制求める声
毎日新聞 2013年06月03日 大阪夕刊
特定の外国人を標的に差別的な言動を繰り返す「ヘイトスピーチ(憎悪発言)」が関西でも週末ごとに繰り返されている。政治団体の街頭宣伝活動とは異なり、普段着姿の参加者が目立つ。一部の過激な発言はネット上に流れ、海外メディアも問題視する。こうした活動について、深刻な差別行為と位置付けて規制が必要だとの声が上がる一方、表現の自由を尊重する立場から慎重な意見もある。
「従軍慰安婦なんてウソ」「朝鮮人は帰れ」。先月25日、大阪市中央区の繁華街。韓国から来日した元従軍慰安婦の講演会を前に、市民団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)のメンバーらが1時間にわたり声を張り上げた。大学で看護学を学んでいるという岡山県の男性(20)は「差別はいけないが、日本にとって彼らが危険だから出て行ってと言ってるだけ」と話す。危険と感じる訳を尋ねると「沖縄の人が『米軍出て行け』と叫ぶのと同じですよ」とまくし立てた。
参加者の多くは社会人だ。大阪府内の運送会社員の男性(26)は、活動に何度も加わっている。草野球が趣味という男性は「在日コリアンは他の外国人にはない『特権』を持ち、戦後、日本人から財産を奪った」などと主張。情報源はもっぱらインターネットで「スポンサーの意向が反映するマスコミの情報は信じない」と話した。
2月下旬には在日コリアンが多く住むJR鶴橋駅(大阪市天王寺区)前で女子中学生がマイクを握り「大虐殺を実行しますよ」などと叫んだ。父親は在特会に同調する団体の幹部。発言は動画サイト上で話題になり、英国や韓国などのメディアにも取り上げられた。
ヘイトスピーチは昨年以降、在日外国人が多く暮らす東京・新大久保や大阪・鶴橋を中心に盛んになった。安倍晋三首相は先月7日の参院予算委員会で「他国を誹謗(ひぼう)中傷することで、まるで我々が優れているという認識を持つのは間違いだ。結果として我々自身を辱めていることになる」と非難した。
大音量でのスピーチに、近隣住民や買い物客らの多くは顔をしかめる。「レイシズム(人種差別主義)は人類の敵」などのプラカードを掲げ、対抗する市民の動きも生まれている。反対運動を続けるクリエーターの凛七星(りんしちせい)さん(51)は「『殺すぞ』『ゴキブリ』などの醜悪な言葉を他人にぶつけることが言論の自由なのか」と疑問を投げかける。