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【社会】

ナチス提灯の警鐘 大戦前夜 防共協定で戦意高揚

2年ぶりに修復された「ナチス提灯」を手にする水島教授=東京都新宿区の早稲田大で(村上一樹撮影)

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 負の歴史を忘れてはならない−。憲法学者の水島朝穂(あさほ)早大教授(60)が、東日本大震災で破損した「ナチス提灯(ちょうちん)」を修復した。第二次世界大戦前の一九三七年に都内の後楽園球場(当時)で開かれた「日独伊防共協定記念国民大会」の提灯行列で使われた提灯は、戦争へと突き進んだ歴史からの警鐘でもある。 (村上一樹)

 提灯は、水島教授が五年ほど前に古物商から入手した。ドイツに提灯はなく、式典に参加したドイツ大使を喜ばせようと特注され、市民が手にしたと考えられる。水島教授は「第二次世界大戦を引き起こした重大な協定の象徴」と指摘する。

 震災時に早大研究室で棚から崩れた本に押しつぶされ、破れた。損傷が激しく、昨年秋にようやく愛媛県内で修理を請け負う業者が見つかったという。

 ナチスの党章だった逆かぎ十字「ハーケンクロイツ」は欧米では禁忌されており、ドイツでは展示なども禁止されている。

 戦意高揚をあおった提灯の修復について、水島教授は「提灯は戦争前夜に咲いた日独の不幸の象徴。振っていたのは普通の人たちで、軍人と政治家だけでなく、国民が熱狂し、戦争へ突き進んでいった」と語り、「市民が戦争に向かう提灯を再び振ることがないように」(水島教授)との自戒を込めた。

 水島教授には、改憲論議や歴史認識で右傾化傾向が目立つ最近の政治情勢が、挙国一致を掲げて戦時体制に突入していった当時と重なり「政党政治から翼賛体制へと進んでいった当時とどこか似ている」と警鐘を鳴らす。

 憲法改正の発議要件を緩和する九六条の先行改憲は、夏の参院選の争点にも浮上している。反対する学者らでつくる「九六条の会」(代表・樋口陽一東大名誉教授)にも、発起人の一人として名前を連ねた。

 提灯を修復した「伊予提灯工房」の店主日野徹さん(49)も話す。「また何十年も時を重ね、戦争があったことを伝えていってほしい」

<日独伊防共協定> 1936年に締結された「日独防共協定」にイタリアが加わり、37年11月に締結された。対共産主義が名目だったが、これにより第2次世界大戦のいわゆる枢軸国が結成された。「日独伊防共協定記念国民大会」は37年11月25日に後楽園球場(当時)で開催。大会後、皇居の二重橋を経由し、皇居近くの東京会館前まで提灯行列が実施された。協定は40年に日独伊三国同盟へ発展し、太平洋戦争の開戦につながった。

 

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