ニュースとコメント

2013年06月03日号

【都立江戸東京たてもの園】
「デ・ラランデ邸」贋作問題で刑事告発へ
鷲見一雄のコメント


●詐欺容疑で刑事告発手続さる
 本誌でもユーチュウブ・バップルテレビの「司法ジャーナル」でもとりあげてきた、東京都小金井市にある、都立江戸東京たてもの園で、4月20日から公開が始まっている、展示名称「デ・ラランデ邸」(正しくは「北尾次郎邸」)贋作問題に関して、ついに民間研究者から捜査当局に対する刑事告発手続がとられたことが、3日わかった。

 告発状によれば、1999年に実施した、信濃町にあった洋館をたてもの園に移築するための、解体格納工事に伴う建造物解体調査報告書作成過程で、実際には、1892年に北尾次郎博士が自ら設計し創建していた、平屋洋館建物が解体時点まで良好な状態で存在していたことが判明したにもかかわらず、同報告書では、総括部分で、「設計者名が明らかである。ゲオルグ・デ・ラランデの作品。創建時建物は、国指定重要文化財となっている神戸の旧トーマス住宅(風見鶏の館)の設計者であるゲオルグ・デ・ラランデの自邸であり、数少ないラランデ作品の一つである。」として、被告発人らは、実際の竣工年より18年間も後の、1910年竣工のデラランデ設計作品と断定する記述をし、この解体調査報告書を欺罔手段として、東京都を欺罔し、錯誤に陥れ、実際はデラランデ設計などではない、北尾次郎東大教授による素人設計の洋館を、「重要文化財級」(東京都)のデラランデ作品として誤信せしめ、2011年から総工費5億6000万円もかけた、移築復原工事を行わせしめた。

 1999年に解体調査を行い、デラランデ作品として、東京都を欺罔する報告書を作成していた、一級建築士の A氏経営の設計事務所が、2011年に始まった実際の復原工事でも設計をし、設計監理料を都から元請け会社経由で得ていた所為が、詐欺罪(一項詐欺、三角詐欺)に相当するので、公益的見地から告発する、というのが告発状の概要である。

 一口に贋作被害といっても、建造物の場合は、展示中止や被害回復が容易でなく、恒久的に維持管理費用や補修費、光熱費、火災保険料などが、都民の負担として大きくのしかかり、今後、毎年たてもの園の予算を請求するたびに、贋作の維持管理費負担の是非が問題となるため、将来に向かっての金銭的被害も甚大であることから、刑事告発に及んだ、とある。

 詐欺罪成立の根拠とされた判例は

 詐欺罪の場合、まず欺罔行為があり、相手方が欺罔され、錯誤に陥り、財物が交付され、損害が発生して、はじめて既遂となる。

 これに対して世間一般の、「詐欺的行為」といわれる事件では、詐欺罪で処断しようとしても、この厳密な構成要件を満たさないことが多く、刑法上の詐欺と、世間でいうところの詐欺では、相当程度の感覚上の乖離があるものだが、告発状によれば、1999年に行った、解体調査を行い、欺罔手段とされる問題の解体調査報告書を作成した建築設計事務所所長と、2011年以来、移築復原工事の設計監理担当事務所所長が同じであることに着目し、欺罔者が、最終的に財物交付までをも受けていたこと(欺罔行為者と利得者が同一人物であること)が証明できたので、構成要件を満たすと判断し、詐欺罪での告発になった、とされている。

 最高裁判例上からも、たとえ価格相当の商品を提供していたとしても、もし真実を告知していたら、相手方が金員を交付しないような場合において、ことさらに、真実に反する誇大な事実を告知して、相手方を誤信させた場合は、詐欺罪が成立する旨判示することから(刑法判例百選㈼44)、具体的に、移築復原工事が完了していたとしても、本件ではあくまで、デラランデ設計作品を復原する工事との前提で予算化されたものであった以上、公立の建築博物館として、わざわざ故意にデラランデ作品の贋作を造らせるはずもありえないので、明らかに詐欺罪が成立する、と告発人は主張している。

 なお、同告発状によれば、大学等の研究者や、学芸員ら、複数名が共同正犯として告発されている。

「欺罔手段」にも処罰をもとめる根拠が
 今回の事件では、東京都が、「東京都歴史文化財団 江戸東京たてもの園」を作成名義とする、『三島邸解体調査報告書』に書かれた内容をもって欺罔され、東京都側も告発人に対して、この報告書を基に「デラランデ氏の創建による」と生活文化局総務部長が昨年2月に東京都議会で予算説明を行ってきたことを文書で回答してきていることから、調査報告書と錯誤に至る過程には、相当な因果関係があることが、既に証拠上明らかになっている。

 また、告発状では、設計者は誰かという歴史的史実を争う趣旨ではないとされ、あくまで被告発人らが解体調査報告書で、解体格納工事をしていく中で、北尾次郎が既に建てて、生活していた一階部分が、外観を含め、良好な状態のまま、窓や外壁、四隅の装飾付き柱までもが解体時点まで残されていたことを書いているのに、なぜ、1892年の北尾次郎の創建から、18年も経ってから、この家に借家人として住み着いただけの、ドイツ人建築家の設計作品、すなわち「デラランデ氏による創建」とされなければならなかったのか? 
まさに、被告発人ら自身が、建物構造上、デラランデの設計ではないことを予め認識していたうえで、「設計者名が明らかである。デ・ラランデの作品」として、故意に、具体的設計者名をあげて、欺罔行為に及んでいたことが、詐欺罪の構成要件に該当するとして指摘されている。

 中でも、本件が異例であるのは、本誌でも紹介してきた、問題の解体調査報告書が、これまでは一切公開されることなく、閲覧請求しても断られるなかで、東京都情報公開条例でやっと部分開示決定を得て、ようやく内容が知られるようになった経緯があり、都民からの内容確認がとれないような形の公文書を使って、東京都を騙したこと、いいかえると、「秘密扱いの公文書が詐欺の欺罔手段となった点」が、特に処罰を求める根拠とされている。

 さらに処罰を求める根拠として、被告発人らは、たてもの園公式ホームページなど、たてもの園の指定管理者・東京都歴史文化財団運営の電子媒体まで使って「デ・ラランデによって建て替えられた建物」と、解体報告書にも書かれていなかった“建て替え話”をでっち上げており、工事期間中にも、設計者捏造問題が発覚しないように欺罔行為を重ねた、とあり、税金を原資とする媒体を悪用して、こともあろうに、東京都職員を欺罔した可能性が指摘されている。

 告発状の附属陳述書では、次のように、告発人の所見が結びにあらわされている。

「本件については、被告発人らが作成した、解体調査報告書の中に、ほとんど全ての証拠が揃っていることが、一般の詐欺事件にはない特徴でもあり、歴史的問題を根拠に、当局が公判で振り回される危険性はありません。
 あくまで、被告発人らが、1999年時点で、既に旧三島邸をデラランデ設計作品とはできない、具体的解体調査結果を得ていたにもかかわらず、東京都庁の担当者が、解体調査報告書全文を時間をかけて読むことなど、実務上ありえないことを知悉していた被告発人らは、報告書総括部分で、東大教授らの氏名をもって、デラランデ設計作品に間違いがない旨断言してさえおけば、移築工事計画は実現可能であり、設計監理料を手に入れることが出来るばかりか、デラランデ設計説を唱えてきた建築史家たちの面目も保てるので一石二鳥、と共謀し、こともあろうに、公費で調査実施した、解体調査報告書という公文書を欺罔手段とし、東京都と都議会を騙した、巧妙かつ悪質な犯行であった、といわざるをえない次第であります。」

●鷲見一雄のコメント
 事実上のオール与党状態の都議会選挙が、今月告示、投票される。争点なき都議選だけに格好の論戦テーマといえる。猪瀬知事は逃げずに説明責任を果たすべきだ。石原ならそうすると思う。

 もし心ある候補者ならば、政党を問わず、東京都が贋作で6億円もの被害を蒙ったとされる問題について、街頭演説で有権者に所信を問うべきであろう。

戻る