企業には通常、社会貢献活動のノウハウが不足している。だからその分野の専門家であるNPOやNGOと協働するわけだが、独自のプログラムを開発することはなかなか難しい。NPOにはどこでも推進中のプログラムがあり、そこには深い想いと経験とノウハウが詰まっている。そこでそのプログラムに乗っかるというのが、これまでのCSR活動の現状だ。そのほうが企業にとっても効率が良い。しかし、独自性は打ち出せない。特にNPOの優れたプログラムには参加企業も多くなり、広告と違って社旗貢献活動には競合他社の参加もありなので、差別化という意味では難しくなる。
もし、企業が自社のCSR活動の差別性・優位性を大きく訴求したいと考えるならば、独自のプログラムを開発する必要が出てくる。その時に、社外CSR部員の大きなネットワークと、新しいプロジェクトのコンセプトと、NPOとの協働で得られる経験と知見があれば、独自のNPOを立ち上げることができるわけだ。これが、筆者が考える「CSR活動のスピンアウト」である。
このスピンアウトの社会的メリットは、大きな社会的インパクトを与えられる活動を、企業の力でどんどん生み出していけることにある。「偉大なNPO」が増えることは、社会にとって良いことに決まっている。そこに貢献することが「CSR4.0」ではないかと筆者は考えている。
CSR4.0に向けた方向性②:
ルール作り戦略への進化
そして、ふたつ目の方向性は、『ルール作り戦略への進化』である。現在のみならず、今後のグローバル競争においてもっとも重要なことは「ルール作り」である。自社に有利な国際的なルールをいかに作るか? そこにグローバル企業の、そして国家の成長性がかかっている。そのあたりの事情は、経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤井俊彦氏の著書『競争戦略としてのグローバルルール』(東洋経済新報社)で詳しく伝えられている。これは、CSR部の人間にとっても必読の書だと筆者は考えている。なぜなら、今後の国際的なルール作りにCSRが深く関わってくるからだ。
国際的なルールを作るということは、世界中の国々のコンセンサスが必要だ。その時にものをいうのが“絶対的な正義”である。もちろん、世の中に絶対的な正義というものは存在しない。イスラム圏のある種の地域においては、夫や彼氏に逆らった女性の顔に硫酸をぶっかけることが正義だったりする。正義というのは、それほどまでに相対的なものというか、ローカルなものなのだ。しかし、国際的なルール作りには、グローバルに説得力のある“絶対的な正義”が必要となる。その正義を生み出し、国際社会で納得させ、そのうえで自社に有利なルールを作る。将来的にはこれがCSR部の最重要の業務になる、と筆者は感じている。