東京電力福島第1原発事故後の2011年3月24日に福島県須賀川市大桑原の農業の男性(当時64歳)が自殺し、男性の遺族が「自殺は原発事故が原因だった」として、原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)に交渉を求め、同センターの仲介で東電と和解したことが分かった。弁護団によると、原発事故による自殺に関する和解は初めてで、自殺者の遺族が訴えている民事訴訟の行方にも影響を与えるとみられる。【三村泰揮、深津誠、蓬田正志】
東電は因果関係を認めて賠償金の支払いを受諾し、5月末までに和解した。和解金は非公開。
政府は原発事故後の11年3月23日付の福島県知事あて文書で、福島県産のキャベツなどを「当分の間、出荷を差し控えるよう」指示。弁護団によると、男性は出荷を目前に控えており、この通知の翌日に自殺した。
弁護団は遺族から依頼を受けて東電と直接交渉を行ったが、因果関係を認めなかったため、12年6月に原発ADRに申し立てた。
口頭審理で、遺族は鑑定意見書を提示し、キャベツの出荷ができなくなり、男性が自殺する前に原発事故に対する絶望感を口にしていたことなどを訴え、それが和解につながったとみられる。東電広報部は「個別の申し立て内容については回答を差し控える」とコメントしている。
農業を通じて約20年間の付き合いがある知人によると、男性は何代にもわたって続く農家を継ぎ、キャベツをはじめコメやキュウリなどの無農薬栽培にこだわっていた。亡くなる約1週間前に会った際、男性の様子について「普段と変わらない様子だった。原発事故のことはあまり口にしなかったが、ショックを受けていたのではないか」と話した。現在は妻と次男が農業を継いでいるという。
原発事故後の自殺者を巡っては、福島県川俣町山木屋の女性(当時58歳)が避難生活で仕事や住居を奪われたストレスで自殺に追い込まれたとして昨年5月、遺族が9120万円の賠償を求めて福島地裁に提訴。また、同県相馬市の酪農家の男性(当時54歳)が原発事故で牛乳が出荷停止になったり、乳牛を殺処分するなどした後に自殺した。遺族は今年5月に1億2600万円を求める訴えを東京地裁に起こしている。
2013年06月03日 12時43分