片瀬久美子がなにを間違えているか
2013/06/01 22:40:00

[info]メカAG
このエントリ

  LNT説とALARAの関係に関する勘違い

俺としては気を使って一般化して批判したつもりなのだが、逆に本人にはわかりにくかったようだ。

シノドスの元記事からメカAGのいうような話は読み取れないという人が多い。シノドスの記事単体では、片瀬久美子が勘違いしている部分が読み取りにくい。俺もこの記事単体なら批判しようとは思わなかった。

今回の問題のポイントは、記事の表面的な内容ではなく、それを書いた片瀬久美子のLNT説やALARAに関する認識にある。そしてこれは片瀬久美子にかぎらず、多くの人が誤解している点だということ。

   *   *   *

すでに書いたことの繰り返しなのだが、どうも「追記」を読まない人が多いので、本文としてもう一度書いてみる。発端は片瀬久美子が俺の下記の記事を批判したこと。

  菊池誠も放射線についてはトンデモ

に対して

  http://twitter.com/kumikokatase/status/338639007762219008
  | LNT仮説によって癌死者数を算出する事について、この疑似科学ニュース は誤解している様です。「公的機関の公式発表としてそういう試算を発表すべきかというと、控えるべきだろうという話」ではなく、一般的な適用の注意として指摘がされています。

と述べている。ICRPの文書がしばしばわかりにくいのは、ICRPが政治的判断をしているから、という俺の主張に対して、片瀬久美子はなにやら異論がある様子。しかしこれだけではよくわからない。続いて下記のツイートが出てきた。

  http://twitter.com/kumikokatase/status/338639578984509440
  | 線形閾値なし( linear no-threshold: LNT )モデルについてのありがちな誤解についての解説はこちらに書きました。 http://bit.ly/157cvLv  そしてICRPは、LNTモデルはALARAの原則と組み合わせて使うことを推奨しています。

つまり俺の元のエントリに対する片瀬久美子の反論がシノドスの記事だと言っているわけだ。

   *   *   *

俺の主張はICRPの説明は政治的なものであり科学ではないというものだから、片瀬久美子の主張はICRPの説明は科学であるというもののはず。

その裏付けとしてALARAを出してきたのだから、ALARAは科学であるといっていることになる。片瀬久美子の中ではそういう認識なのだろう。

LNT説は科学だが、ALARAは科学ではない。たとえばLNT説は温度計のようなものだ。癌にかかる確率はいまこれだけですよ、と数値を示す。いま室温は30度ですよと温度計が示すのと同じ。

それに対していまの温度は人間にとって快適か?というのは、次元の違う話だ。同様に癌になるリスクをどれだけ許容できるか?というのも、それは人間の価値観の問題であって、純粋な科学ではない。

   *   *   *

ICRPは政治的にそういう部分についても(政治的に)判断を行なっているというのが、俺の元のエントリの話であり、それに対して片瀬久美子は「ちがう」というのだから、片瀬久美子の中では科学と科学でないものがごっちゃになっているわけだ。困ったことに片瀬久美子にはその自覚がない。間違っている人は自分ではどこが間違っているかわからないものであはるが…。

ところで閾値説というのは、なんとか科学を駆使して許容範囲を設定したいという人間の願望が生み出したものだ。「100ミリシーベルト以下ならALARAにもとづき政治的に許容範囲だ」では満足できない人が、「100ミリシーベルト以下なら科学的に無害だ」と言いたい人が、一生懸命それを実証しようと研究している。

俺からすれば閾値説は願望が生み出した不毛な学説に見えるが、それ自体は一応科学の手続きを踏んでいる(踏もうとしている)。だからLNT説も閾値説も科学の領域の問題。

しかしALARAはくりかえしになるが科学ではない。政治的な問題だ。

   *   *   *

それを一緒くたにしようとする片瀬久美子は、人間の価値観(政治)に属する問題を、科学で正当化しようとしている。これは閾値説を研究している人たちの動機と同じであり、片瀬久美子自身は自覚がないようだが、実質的に閾値説を主張しているのと同じだということ。

何度も言うけれど片瀬久美子にかぎらず「ICRPの文書にこう書いてある」で一括りにしている人が多い。ICRPの文書には科学的な部分と政治的な部分がある。科学的な部分はLNT説にもとづいている。ICRPの文書でLNT説を否定しているように読める箇所というのは、ALARAの部分であり、それは政治的な判断の部分。この区別をつけることが大事。片瀬久美子は区別がついていない。

   *   *   *

あと、ライターの話。別に俺はライターという職業を馬鹿にしているわけではない。そういう人達は社会に必須。しかし何が正しいのか?という議論の相手には適切ではないと思っている。ライターはあちこちから情報を集めてそれをまとめる仕事だ。片瀬久美子自身、一生懸命文献を読みあさって勉強したと言っている。

しかし情報を集めたからといって判断力までつくとは限らない。もちろん付く人もいるだろうけれど、そういう人はもはやライターというよりも研究者の域だ。「この文献にこう書いてあった」「この人がこう言っていた」というデータが駆使できるだけでは、応用問題は解けない。

で、以前から感じていたことだけど片瀬久美子は、応用問題が解けないタイプだろうな、と。そういう人とは議論は無意味。自分では判断できないのだから。そういう意味を込めて「受け売り」と述べた。事実、今回の件もまともな反論が返って来ないよね。感情的な非難ばかりで。


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