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» 2009年08月20日 00時00分 UPDATE

Analog ABC(アナログ技術基礎講座):第5回 トランジスタには接続方法が3つ (1/2)

アナログ回路を設計する上で、トランジスタの基本的な動作や特性、接続方法を理解するのは大切なことです。本連載でも、トランジスタを活用したさまざまな回路を紹介する予定です。まずはその前準備として、トランジスタの動作や接続方法について大まかに説明します。

[美齊津摂夫,ディー・クルー・テクノロジーズ]

 アナログ回路を構成する重要な部品の1つがトランジスタです*1)。アナログ回路を設計する上で、トランジスタの基本的な動作や特性、接続方法を理解するのは大切なことです。本連載でも、トランジスタを活用したさまざまな回路を紹介する予定です。まずはその前準備として、トランジスタの動作や接続方法について大まかに説明します。

 トランジスタの回路記号を図1に示しました。実は、この回路記号そのものが、トランジスタの動作を良く表しています。この記号を考えた人はすごいなと、回路記号を見るたびにいつも感心しています。

*1) 今回は、バイポーラ・トランジスタについて説明します。CMOS構造に使われる電界効果トランジスタ(FET)も基本的には同じ動作をするのですが、微妙に異なる部分もあります。混同しないように、別の機会に改めて紹介します。

図1 図1 トランジスタの回路記号 回路記号は、トランジスタの動作をよく表しています。

回路記号が動作そのもの

 具体的に説明しましょう。まず、ベース(B)端子とエミッタ(E)端子の間に「矢印」が書かれています。これは、矢印の方向にだけ、電流が流れることを示しています。矢印の方向にしか電流を流さないダイオードが入っているのです。

 次に、ベース端子とエミッタ端子の位置関係にも注目してみましょう。図1(a)のNPN型トランジスタではベース端子がエミッタ端子より上側に、図1(b)のPNP型トランジスタではエミッタ端子がベース端子より上側にあります。これは、トランジスタのバイアス(駆動)状態を表現しています。つまり、NPN型ではベース端子の電圧(ベース電圧)がエミッタ端子の電圧(エミッタ電圧)より大きく、PNP型ではエミッタ電圧がベース電圧より大きいのです。通常、約0.7Vの差があります。

 最後に、コレクタ(C)端子に目を向けましょう。先ほどと違って、このコレクタ端子とベース端子の間には矢印がありません。これは、電流が流れる方向に制限はなく、どちらの方向にも電流を流せることを意味します*2)。ただし大抵の場合は、エミッタ端子に付いている矢印の向きに従って電流が流れます。NPN型であれば、電流がトランジスタ外部からコレクタ端子に吸い込まれ、PNP型であればコレクタ端子から吐き出します。

 では、なぜ矢印が記載されていないのかというと、「電圧が決まらない」からだと筆者は考えています。先ほど、ベース端子とエミッタ端子の電圧の差は約0.7Vと書きましたが、コレクタ端子の電圧(コレクタ電圧)はトランジスタ単体では決まらないのです。これは、コレクタ端子が一定の電流を流し続ける電流源となるためです*3)。従って、どの程度の負荷を、どのようにコレクタ端子に接続するかが決まらないとコレクタ電圧も決まりません。

*2) 例えば、NPN型の場合、ベース電圧がコレクタ電圧より高くなると、ベース端子からコレクタ端子に向けて電流が流れます。この状態では、ベース電流が増えてしまい、電流増幅率(β)や周波数特性といった諸特性が大きく変化するので注意する必要があります。

*3) 電流源については、本連載第2回「回路はすべてオームの法則から(前編)」を参考にしてください。


「きっかけ」はベース電流

 それでは、トランジスタではどのような順番で電流や電圧が決まっていくのでしょうか。NPN型トランジスタの場合、次のような順番になります(図2)。

図2 図2 トランジスタの動作 ベース電流(IB)をきっかけにして、ベース電流の電流増幅率β倍に相当するコレクタ電流(IC)が流れます。
  1. ベース端子とエミッタ端子間に電圧V1を印加する。
  2. ベース電流が(IB)、ベース端子からエミッタ端子に流れる。
  3. ベース電流のβ倍のコレクタ電流(IC)がコレクタ端子に流れ込む。
  4. 負荷抵抗とコレクタ電流の値によって、コレクタ電圧VCがV2−ICR1と決まる。

上の順番で2番目のステップから始めることも可能です。すなわち、「ベース端子とエミッタ端子間に電流を流す。その結果として、ベース端子とエミッタ端子間に電圧が発生する」という流れです。

 ここで注意すべき点があります。「コレクタ電流=電流増幅率β×ベース電流」の関係があるので、ベース電流がβ倍に大きくなってコレクタ電流として流れているように見えるかもしれません。実際はそうではありません。ベース電流がエミッタ端子に流れたことが「きっかけ」となって、コレクタ電流がエミッタ端子に流れるのです。

 この現象は、横断歩道の風景にそっくりです。横断歩道のこちら側(コレクタ側)で大勢の人が赤信号で立ち止まっています。そこに無茶な人が1人、どこからともなく(ベース端子に)現れて、向こう側(エミッタ側)に渡ってしまった…。そうすると、横断歩道を渡った1人の動きを見た大勢の人が、「みんなで渡れば怖くない」とばかりに横断歩道の向こう側に渡ってしまう。これと似たようなことがトランジスタでも起こっていると想像すると分かりやすいです。

グラフの外形が特徴的

 具体的に、電流や電圧にはどのような関係があるのでしょうか。イメージしやすいように、NPN型トランジスタのベース-エミッタ端子間電圧とベース電流、コレクタ電流の関係、コレクタ電圧とコレクタ電流の関係を図3に示しました。

図3 図3 電流や電圧の変化の様子 (a)はべース-エミッタ間電圧と、ベース電流やコレクタ電流の関係。(b)はコレクタ電圧とコレクタ電流の関係を示しました。

 図3(a)を見て下さい。ベース-エミッタ端子間電圧の変化に対して、ベース電流とコレクタ電流が指数関数として増加しています。「ある電圧」から急激に電流が増える格好になり、この電圧を「しきい値電圧」または「オン電圧」と呼びます。縦軸(電流軸)を拡大したり縮小したりしても、グラフの形は変化しません。指数関数の面白いところです。

 図3(b)は、コレクタ電圧とコレクタ電流の関係です。トランジスタについて記載した参考書でよく目にするグラフだと思います。ベース-エミッタ端子間電圧(またはベース電流)をパラメータにしています。一般にトランジスタは、グラフの曲線が平らな領域で動作させます。コレクタ電圧が変化しても、流れるコレクタ電流が変わらない電流源として使うためです。コレクタ電流が電圧に対して変化する領域は、「飽和領域」*4)と呼びます。この領域では、電流増幅率βや周波数特性が大きく変化して、トラブルが発生しがちです。なるべく使わないように回路を設計する必要があります。

*4) MOS FETでの「飽和領域」とは、まったく逆の意味になるので注意が必要です。


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