社説:原発事故の賠償 東電は誠実に対応せよ

毎日新聞 2013年06月02日 02時30分

 東京電力福島第1原発事故による被害者への賠償が進んでいない。

 裁判外での紛争解決を担っている政府の「原子力損害賠償紛争解決センター」は、東電の硬直的で不誠実な対応を原因の一つとして挙げる。福島県浪江町民1万人以上が先日、集団で和解仲介をセンターに申し立てた。東電は姿勢を改め、真摯(しんし)に賠償支払いに当たるべきだ。

 賠償請求に当たり、被害者は東電と直接交渉する。東電の提示をのめなかったり、賠償を拒否されたりした場合、センターに和解の仲介を申し立てられる。その交渉が決裂すれば訴訟で決着させるしかない。

 迅速、公平な解決を目指して2011年9月にセンターはスタートした。申し立ては先月10日現在約6300件で、申し立てた人は避難区域住民の1割程度だ。和解成立に至ったのは約2600件にとどまる。

 センターは約3カ月での解決を目指したが、平均約8カ月だった。当初の想定より時間がかかっている。

 弁護士らが務める仲介委員や調査官の人数不足などセンター側の事情もあった。だが、東電の対応にも原因があるとセンターは指摘する。

 センターへの回答を先延ばしするなど和解の遅延行為があったというのだ。また、直接請求と和解申し立ては両方できるが、被害者からは「センターへ申し立てをすると直接請求に応じてもらえない」「いったんセンターで和解して、その他の損害を直接請求しようとしたら拒まれた」などの苦情が相次いだ。文部科学省は今年3月、局長名で「誠意ある対応の徹底」を東電に要請した。

 賠償基準についても混乱している。文科省の審査会が賠償基準の大枠を指針で示していたが、資源エネルギー庁が昨年7月、独自の基準をまとめた。「指針を踏まえて賠償金支払いの詳細を定めた」と説明するが、被害者やセンターは東電寄りの基準と批判する。東電がこの基準に沿って申し立てに拒否回答するケースが多く、解決に時間がかかるのだ。

 公平な立場のセンターから「東電の対応は被害者いじめに見える」との声が出る現状は異常である。

 被災地では賠償を求める権利が来年3月以後、民法上の時効(3年)にかかることへの懸念も出ている。政府が今国会に提出した時効の例外を定めた特例法は成立した。だが、特例法はセンターに申し立てをしていない人を救済対象外としているので、来年3月に時効を迎える恐れが残る。特例法だけでは不十分だ。

 いまだ被害の全体像が見えない中で、申し立てに至っていない人も多い。全ての被害者が将来にわたって賠償請求ができる法的な仕組みを早急に整えるべきだ。

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