社説
森の防潮堤構想/代表の責務を果たす提案だ
震災で発生した宮城県内のがれきは約1795万トン。その処理は、国の当初目標通り本年度末で完了する見通しとなった。 ことし3月末時点での宮城県の処理率は、災害廃棄物64.7%、津波堆積物43.0%。岩手、福島両県を上回るペースで、それぞれ59%、40%としていた中間目標値もクリアした。 がれきの処理が遅れれば、その分、新たなまちづくりも遅れる。被災者起点で考えれば、国の方針を忠実に履行しようという宮城県の努力は、評価されてしかるべきだろう。 しかし、がれき処理の手法をめぐっては、全く別な視点からの政策提言もあった。「国の指示に従うだけでいいのか」と疑問を投げ掛け、論争を挑んだのが宮城県議会だ。 宮城県のがれき総量は、県内で排出される一般廃棄物の23年分に相当する。しかも、津波による海水塩の洗浄や放射性物質の検査が欠かせない。1トン当たりの処理費は、阪神大震災(2万2千円)の2倍以上の約5万円にまで膨らむ。 こうした事情を勘案し、県議会の総意で提言したのが「森の防潮堤」構想だった。 木材やコンクリート片などのがれきで盛り土を築き、広葉樹を植えれば、景観に配慮した防潮堤の整備と膨大ながれきの有効利用という二つの課題を同時に解消できると訴えた。 これに対して執行部は、木質がれきをそのまま埋めれば不法投棄と見なされ、廃棄物処理法に抵触すると反論。がれき処理論争は、双方の主張が真っ向から対立したまま今に至る。 がれきの広域処理が被災地支援の象徴のように扱われることにも県議会は、推進の立場と一線を画す見解を示している。受け入れ自治体では、搬入阻止のデモが勃発。意図しなかった事態に「処理が多少遅れても県内で自己完結すべきだ」と論陣を張る議員もいた。 一連の経緯を振り返り、誰のどの主張が正しいなどと言うつもりはない。ただ、震災復興の途上で避けては通れないテーマに、県議会が独自の切り口で問題提起した意義を見逃してはならないと考える。 法政大の杉田敦教授(政治学)の近著「政治的思考」(岩波新書)は、民意が形成される過程で重要な役割を果たす住民の代表による「演劇的はたらき」を解き明かした。 ある課題に対し、あらかじめ明確な意見を持っていない私たち「代表されるもの」は、議会や政党など「代表するもの」による論戦を見ることで「何が問題になっているか」を理解し、「政治的争点がどこにあるか」を知り、そして「自分は誰の意見に近くて、どの点が異なるのか」を考える。民意は、こうして形づくられる。 震災復興の急場にあっても、代表の責務を全うしようという宮城県議会の姿勢を買いたい。がれき処理の完了は数カ月後に迫っている。政策提言がどう決着するのか、県議会には最後まで発信を続けてもらいたい。
2013年06月01日土曜日
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