元自衛官が「内部文書」元に証言、「私は自衛隊で毒ガスサリンの製造に関わっていた」(4/5)
週刊金曜日 5月31日(金)19時25分配信
毒ガス製造を示す手書き文書
男性(仮に「Aさん」という)は一九七〇年代初めに大宮駐屯地に配属され、七〇年代半ばから八〇年にかけて化学学校の研究部装備研究課に所属。Aさんはそこでサリンなどの毒ガス製造に関わったという。「これが当時の内部文書です」。Aさんは数枚の紙をバッグから取り出した。
ワードプロセッサー(ワープロ)さえ普及していなかった七〇年代。手書きで記された文書には、「サリン」や「VX」の文字が並ぶ。
「秘」と大書きされた文書には「サリン」とあり、数枚にわたり段階別の製造法が記されている。
「VX」と書かれた文書は「昭和五二年つまり一九七七年の文書です」とAさんは言う。文書には「5月23日(月)」から「27日(金)」までの五日間で、「準備」から始まり、いくつか製造工程を経て、「除染」までの工程表が記されている。その年の曜日を調べると、確かに一九七七年五月二三日は月曜日だった。
「毒ガスの性状」と題する一覧表になった資料文書もある。左欄には、窒息ガス(ホスゲンなど)から始まり、神経ガス(タブン、サリンなど)、血液中毒ガス(青酸、塩化シアンなど)の順に計二五の毒ガスの化学式・記号が列記され、上の欄にそれらの分子量や凝固点、沸騰点、揮発度、分解温度、解毒の速度、安定度などが記されている。きわめて専門的な記述内容だ。
「これは発行元も日付もありませんが、米軍の資料ではないかと思います」と、Aさんは推測する。
自衛隊専用用紙に複雑な化学式
前記したように、日付の入った文書もあるが、作成部署・作成者名など発行元はなく、これらがAさんの言うように「陸上自衛隊化学学校」で作成、使用されたことを示す表記もない。
いつ、どこで、誰が作成したのかが不明である文書は通常「怪文書」とされる。
しかも、化学式や構造式が並べられ、専門的な記述による工程などが記されていても、それを判読するだけの知識と経験のある人はごく少数だろうし、「どこかの研究所から出た文書」だと言われても判定のしようがない。
その旨を話すと、Aさんは別の文書を提示した。横罫の入ったレポート用紙風の紙に、手書きで「タブン合成」と書かれ、なにやら複雑な方程式のような化学式が並ぶ。
「ここを見てください」とAさんが指で示した欄外を見ると、左端に〈起案用紙2号〉、中央部に〈陸上自衛隊〉、そして右端に〈(財)防衛弘済会納〉と印字されている。
Aさんは説明する。
「これは当時、陸上自衛隊で使用されていた専用の用紙です。ここに書かれているのは、タブンの合成法です」
しかし、これもまた発行元や作成年月日などが特定されていないため、その内容はともかく、どの程度の信憑性を担保できるのか、依然として疑問符がつく。かりに陸上自衛隊の専用用紙だとしても、これが化学学校発出の文書だと明記された記載もない。
さらにAさんは数枚の文書を取り出した。いわゆる青焼きコピー文書をさらにコピーしたもので、紙全体が黒ずんでいるが、文字ははっきり読み取れる。
73年に最新毒ガスBZ合成に成功?
Aさんは言う。
「これは、研究員が化学学校長に提出した命題研究の報告書の一部です」
命題研究? Aさんが続ける。
「化学学校の研究には命題研究と自主研究の二つがあって、予算の付く命題研究が九九%で、残りが自主研究です。この文書はBZ(ビーズィー)の合成法が書かれていますが、この中に合成した年度がはっきりと書かれています」
BZガスとは米陸軍が開発した無能力化ガスで、当時としては最新の毒ガスだという。
「これを吸い込むと一時的に身体機能が奪われ、瞳孔が拡大し、錯乱し、銃さえ持てなくなるということです。死ぬことはなく、数時間で元に戻るそうです」
(Aさん)。
文書にはこうある。
〈S47年度において、No.2の物質を合成し動物実験によって性状抗力を検討した結果、期待された効果が得られなかった。〉
〈S48年度以降、残されたNo.1の物資及びその同系列物質を合成し、各種実験を行なった結果、極めて良い成果が得られた。この結果、無能力化剤BZは次の化学構造であると推定した。〉
ここでは「No.2」および「No.1」の化学物質が何かを明示しないが、「S47年度」=一九七二年度から「S48年度」=一九七三年度にかけての実験によってBZの合成に成功し、化学構造を明らかにしたことが報告されている。
また、そのBZを「紫外線吸収スペクトル」という分析機械で特定した記述や、「半数致死量試験」に「マウス♂」が使われたことも記されている。他の文書には「犬を用いた実験」を実施した記録もある。
Aさんは言う。
「当時最新と言われたBZの製造を一九七三年に成功したとすれば、サリンやタブン、VXなどはそれ以前に合成に成功していた可能性があります」
しかしこの文書もまた、作者名も発出先もなく、誰が誰(どこ)に出した文書なのか、明示されていないのである。(つづく)
最終更新:5月31日(金)19時25分
記事提供社からのご案内(外部サイト)
世界が警戒する歴史観 安倍晋三首相の本音 |