- [PR]
政治
【土・日曜日に書く】論説委員・石川水穂 問題談話の総点検が必要だ
◆詐話師を信じた新聞
衆院選に向けた党首討論会で、自民党の安倍晋三総裁は朝日新聞記者の質問に答え、慰安婦の強制連行を根拠なしに認めた河野洋平官房長官談話の見直しについて、「有識者の知恵を借りながら考える」と述べ、有識者会議を設置する意向を示した。
安倍氏は「朝日新聞の誤報による吉田清治という詐欺師のような男が書いた本がまるで事実かのように日本中に伝わった。人さらいのように(慰安婦を)連れてきたという事実は証明されていない。このことは閣議決定されている」とも指摘した。
この安倍発言には、少し説明が要る。
吉田清治氏は戦時中、山口県労務報国会下関支部動員部長だったと名乗り、昭和58年に「私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行」(三一書房)という本を出した。昭和18年5月、韓国・済州島に部下9人を連れて上陸し、泣き叫ぶ朝鮮人女性205人をトラックで強制連行した-という内容だ。
この話は朝日新聞(平成4年1月23日夕刊「窓」欄)、東京新聞(3年12月6日夕刊)、赤旗(4年1月26日付日曜版)などで“勇気ある告白”として紹介された。
しかし、平成4年春、日本近現代史家の秦郁彦氏(当時、拓殖大教授)が済州島で現地調査を行ったところ、地元のジャーナリストや古老はそろって“吉田証言”を否定した。秦氏は吉田氏を「職業的詐話師」と呼んだ。
河野談話はその翌年の8月、宮沢喜一内閣から細川護煕連立内閣に代わる直前に出された。「従軍慰安婦」という戦後の造語を使い、その募集に「官憲等が直接これに加担したこともあった」などという表現で、日本の軍や警察による強制連行があったと決めつけた内容である。
だが、それまでに宮沢内閣が集めた二百数十点に及ぶ公式文書の中には、強制連行を裏付ける資料は一点もなく、談話発表の直前にソウルで行った韓国人元慰安婦16人からの聞き取り調査だけで強制連行を認めたことが後に、石原信雄元官房副長官の証言で明らかになっている。
◆朝鮮総督府幹部の遺言
また、元朝鮮総督府地方課長の大師堂経慰氏は生前、自分の実体験から、“慰安婦狩り”のような事実がなかったことを繰り返し本紙や雑誌「正論」で語った。大師堂氏は「河野談話が破棄されるまで私は死ねない」と言いながら、一昨年11月に亡くなった。
偽りの談話が20年近く、歴代内閣によって継承されてきたこと自体、不可解である。
日本維新の会代表の石原慎太郎氏は東京都知事時代の今夏、「訳が分からず(慰安婦強制連行を)認めた河野洋平っていうバカが日韓関係をダメにした」と述べ、代表代行の橋下徹大阪市長も「(河野談話が)日韓関係をこじらせる最大の元凶」と批判している。
自民党は政権公約で、教科書検定基準の改善と近隣諸国条項の見直しもうたっている。近隣諸国条項は昭和57年夏の教科書誤報事件で生まれた検定基準だ。
同年6月、日本の新聞・テレビは、旧文部省検定により、日本の中国「侵略」が「進出」に書き換えられたと一斉に報じた。中韓両国はこの報道をもとに、外交ルートを通じて当時の鈴木善幸内閣に抗議してきた。だが、そのような書き換えの事実はなかった。
にもかかわらず、当時の鈴木内閣の宮沢喜一官房長官は「政府の責任で教科書の記述を是正する」「検定基準を改め、近隣諸国との友好・親善に配慮する」との談話を発表した。鈴木首相の中国訪問を秋に控えていたという外交的な事情もあった。
この宮沢談話を受け、教科書検定基準に追加されたのが近隣諸国条項である。以来、歴史教科書で中国や韓国におもねるような記述が急激に増えた。
◆公教育を不当に縛る
安倍氏は自民党総裁選前の8月末、本紙のインタビューで河野、宮沢談話に加え、村山富市首相談話も見直す意向を示した。
村山談話は「遠くない過去の一時期、国策を誤り」と決めつけ、「植民地支配と侵略」への「痛切な反省の意」と「心からのお詫(わ)びの気持ち」を表明したものだ。終戦50年にあたる平成7年8月15日の閣議で唐突に出された。
民主党政権に代わった後の一昨年8月には、村山談話よりも踏み込んで韓国に謝罪し、日韓基本条約(昭和40年)で解決済みの請求権問題を蒸し返される恐れのある菅直人首相談話が発表された。
政府に謝罪外交を強い、日本の公教育を不当に縛ってきたもろもろの政府見解を、不透明な作成過程の解明も含めて徹底検証したうえで、見直すことを次期政権に求めたい。(いしかわ みずほ)
- [PR]
- [PR]