俺の足には鰓がある
出会い
ある時、我が輩が函館に旅行に行った返りのこと。
駅の売店を見ながら電車がくるまでの時間を潰していたわが輩の目に、ふと一冊の文庫が目に留まった。「俺の足に
は鰓がある」何とも奇妙な題名だと思った。あまりに奇妙な題名だと思ったので、手に取ってみた。
そして、衝撃が駆け抜けた。
主人公が「悪」の怪人となる設定。似たような話をかつて考えたことはあった
が、それが現実として存在しようとは!
まだ巻頭数ページのカラーイラストを見ただけだが、これは何か凄そうだ!
だが、我が輩に残された時間は余りにも少なかった。帰ったら本屋に注文しよう、そう心に決めて我が輩は発車が迫る
ホームへと走っていった。
「絶版になっているようです」
その結果が、本屋の店員のこの回答である。
その日から、我が輩の苦行の古本屋行脚が始まったのである。古書店は作家に利益が還元されないと言うが、こういう
絶版がある限り、古本屋も無くなるまい。そこらへんを考えろ、出版社。
それはさておいて苦節二万数千件目(誇張)、遂に我が輩は再びそれを手中にした。
そして、第二の、そして絶大な衝撃を受けた。
「悪の秘密結社」の中で繰り広げられる「日常生活」、怪人を容赦なく「殺害」する「正義の味方」・・・
三葉虫男(主人公・悪の怪人)「てめーに聞く、愛のために戦うのは正義か?」
アバドーン二号(正義の味方)「無論だ!」
三葉虫男「ならば、俺の愛のために死ね!」
マルレラ「生きて、帰ってくるのよ。でなきゃ、嫌いになってやるから」
女王リリス「悪は弱いが、しかるが故に強いとも言える。敢えて悪を選ぶことにより、正義の重圧にも耐えられると、
思ったのだが・・・」
それは、正義とは何か、悪とは何かを我が輩に思考させるのに充分であった。
(詳しくは、今までの悪の博士の人生体験より導きだされた個人的信条。で)
このインパクト、生涯忘れまい。例え昨今ではまがい物が多くなった(「HyperHibridOrganaizetion」など)が、その程度で
、揺らぎはしない。
その一方で、軟体動物に愛着を抱く解説好きの教授や特撮談義、こたつに座ってうどんをすする怪人など、笑え
る要素も多いのも又事実。
手に入れるのは難しいだろうが、読む価値のある逸品。