橋下徹・大阪市長(日本維新の会共同代表)は、週刊誌によって「コスプレ不倫」が暴露されたとき、家族を動揺させながらも事実を認めるという「正攻法」を選んだ。
橋下氏は記者会見を行い「子どもたちにはすまない。まずは妻に説明しなければならない。家ではものすごいペナルティーが待っている」と述べた。たとえ不倫をしたとはいえ、家庭を大事にする男性だという態度を示したのだ。「コスプレ」についての質問には「(今後)娘に制服を着ろとは言えなくなった」ととぼけてみせ、日本中を笑わせた。人々が期待していたよりもさらに自虐的な対応に出ることで、世間の批判を和らげようとしたというわけだ。
橋下氏はこう発言したこともある。「僕は育児や家事を全くしない。子どもたちはかわいいおもちゃという感覚だ。こどもを作るときだけがいいと思うことも…。わが家は完全に金正日(キム・ジョンイル)体制だ。僕は『将軍様』だ」。
被差別部落の問題が取り上げられたときは「いいとこ取り」な戦略を貫いた。橋下氏はそれまで、被差別部落に当たる地域で育ったということを選挙で強調し庶民の票を得ながらも、被差別部落出身者という事実を否定した。また、週刊誌が家族の秘密を暴露したときは「父親が暴力団員だったということや、いとこが人命にかかわる罪を犯したという事実は、記事を見て初めて知った」とした上で「僕は大人だから問題ない。しかし僕にも子どもがいる。思春期の子どもだ」と訴え、同情票を買った。
「攻守」の時点を見定める動物的な感覚は、昨年10月に朝日新聞系列の週刊誌「週刊朝日」が『ハシシタ 奴の本性』と題する連載記事を掲載したときに発揮した。この記事は事実に基づいているものの、橋下氏をナチス・ドイツの独裁者ヒトラーに例え「敵対者を認めない不寛容な人格」「テレビがつくり出した汚物」といった極端な表現を用いたことで、橋下氏に絶好の反撃の機会を与えた。橋下氏は記者会見で「遺伝子によって人格が決まるという恐ろしい血脈主義」と激しく批判し、朝日新聞系列の取材を拒否した。
日本の多くの国民は、テレビを通じ訴える橋下氏の肩を持った。この事態により支持率はむしろ上昇した。連載記事はたった1回で中止され、週刊朝日を発行する朝日新聞出版の社長が謝罪文を発表し辞任した。また、問題の記事は週刊朝日のデータベースからも削除され、記事を書いた「ノンフィクションの巨人」佐野眞一氏の名声も地に落ちた。
だが、問題の記事にはこのような主張が盛り込まれていた。
「橋下氏には古臭い弱肉強食の思想があるだけだ。不遇な環境で育った成長過程は逆に(個人的な成功に対する)取るに足らない自負心を増幅させ、エリート実力主義や大衆迎合的な思想をつくり上げた。最も大きな問題は、その卑しい性格の根源にある橋下氏の本性だ」