取り調べDVD:証拠は国民のもの…NHKに提供の弁護士
毎日新聞 2013年06月01日 10時48分(最終更新 06月01日 11時06分)
NHKの番組に刑事事件の取り調べの録画DVDを提供したことが刑事訴訟法で禁じられた証拠の目的外使用にあたるとして、大阪地検に懲戒請求された男性弁護士(大阪弁護士会)が毎日新聞の取材に応じ、DVD提供の理由や経緯を語った。【日下部聡】
弁護士は、けんかで弟を死なせたとして傷害致死罪で起訴され、2011年7月に大阪地裁の裁判員裁判で無罪(1審で確定)となった会社役員男性の弁護人を務めた。
NHK大阪放送局は4月5日に関西ローカルの情報番組「かんさい熱視線」で「“虚偽自白”取調室で何が」と題し、この事件などを例に密室での取り調べの問題点を指摘する番組を放送。公判で検察が証拠として提出した検察官による取り調べの録画映像の一部を、人物の顔にぼかしを入れた上で放映した。
同放送から12日後、弁護士の事務所に大阪地検検事から電話があり「DVDを提供したのですか?」と聞かれたという。弁護士は即答せず、同19日に地検に出向いた。
刑事訴訟法は弁護人による証拠の目的外使用について、対価を得る目的で他人に渡した場合にのみ罰則を設けている。19日の地検での事情聴取で、弁護士はDVD提供を認めた上で「対価はもらっていない。男性本人の了解も得ており、誰の名誉も傷つけていない」と反論。さらに「『証拠は検察のもの』という発想に立った規定自体がおかしい」と意見を述べた。検事は「違反はしています」と説明したという。調書は取られず、それ以降、地検から連絡はない。
弁護士は懲戒請求による不利益を避けるため匿名を条件に取材に応じ、DVD提供理由についてこう語った。
「取り調べの全面可視化を訴える番組の趣旨に賛同した。多くの国民は捜査当局の取り調べを受けたことがない。国民全体で可視化を議論するには、多くの人に現場の映像を見てもらう必要があると考えた」
検察による懲戒請求について、「放送で実害を受けた人は誰もいない。結局、検察から弁護士へのけん制の意味しかない」と分析する。そして「検察が税金を使って集めた刑事裁判の記録は国民の共有財産。自由に報道できないのはおかしい。言論の自由にかかわる問題だ」と指摘した。
懲戒請求に対しては、大阪弁護士会の弁護士らが弁護団を結成し、反論を支援する。