ミクシィ新社長、挽回のシナリオ
東洋経済オンライン 6月1日(土)6時0分配信
■ 期待を裏切ったミクシィ
かつてミクシィは、日本のネット業界でスター候補の筆頭にあった。脚光を浴び始めたSNSで国内最大、かつ、熱心な利用者を抱えていた。06年9月の上場時の公募価格が予想PER(株価収益率)で100倍を越えていたことも期待の高さを物語る。
しかし、その後の成長は完全に期待外れだ。一時期、SNSで2位だったグリー、SNSに後から参入したディー・エヌ・エーが、ソーシャルゲームという金脈を掘り当て利益を急成長させたのに対し、ミクシィの業績は停滞。時価総額は比較にならない。
直近の13年3月期は、売上高126億円(前期比5・3%減)、営業利益25億円(同17%増)。ゲームの課金収入が伸びたことで、かろうじて増益を確保したが、従来の収益源だった広告収入の落ち込みに歯止めがかかっていない。14年3月期は2期ぶりに営業減益となる見通しだ。
苦戦の要因は、事業の基盤となる利用者が落ち込んでいること。会社が公表する月間利用者は12年8月の1470万人(PC、スマホの合算)を更新できないまま。08年5月に日本市場へ参入した米・フェイスブックに国内での利用者数で11年6月に追い抜かれた(PC経由。ニールセン調べ)。
現在の主戦場であるスマホ分野では11年6月にサービスを開始した無料通話・メールアプリの「LINE(ライン)」が躍進。LINEの登録ユーザーは1億5000万人(うち国内は4500万人)を超える。ネット業界でミクシィの存在感はますます薄れている。
■ アグレッシブに変身
こうした状況で朝倉氏が描くミクシィの挽回策は「SNSのミクシィだけではない、それ以外のサービスを作ること」。
具体的には、前年度末2本だったスマホアプリを1年間で50本に引き上げる。SNSだけにこだわっていないため、「ライバルはフェイスブック、LINEだけではないし、ミクシィのブランドを冠さないものもある」という。
一方で、SNSのミクシィで培った資産も最大限に利用する。7月にはネット広告子会社を設立。単にミクシィ向け広告の獲得を強化するだけでなく、ユーザー属性や趣味嗜好のデータなどを広告主が活用できる支援ツールなども提供する。
また、積極的には行ってこなかった投資事業も本格的に開始した。上場時に調達した70億円に加え、年々積み上げた現預金130億円から50億円規模の投資枠を設定。新体制発表から1週間後には早くもスマホアプリ会社2社に出資した。
つまり、どちらかというとコンサバティブな従来路線を否定し、アグレッシブな新生ミクシィとして生まれ変わることになる。その役目を担うのは朝倉氏一人ではない。6月の総会では川崎裕一氏(36)と松岡剛志氏(35)という二人の執行役員も取締役に就任する。特にネットベンチャー、はてなの副社長も務めた川崎氏は最高事業責任者として朝倉氏をサポートする役目だ。
創業者の笠原氏は経営には直接タッチせず、新規事業の創出に専念する。ただ、「保有株数を減らすつもりはない」ため、大株主としての絶大な影響力は残る。朝倉氏は「万が一意見が対立した場合は筆頭株主として社長を解任してもらっても構わない。それぐらいの覚悟で改革を進めていく」と言い切る。
ミクシィは輝きを取り戻すことができるのか。騎手を夢見た男は新しいレースに挑む。
(撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2013年6月1日)
二階堂 遼馬
最終更新:6月1日(土)10時5分
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