発信箱:神の言葉はどこに?=布施広

毎日新聞 2013年05月30日 東京朝刊

 ユダヤ教の聖職者に中東和平の見通しを尋ねて、「今はどんな人々が預言者なのか、ご存じでしょう」と反問されたことがある。どういう意味? ある大学生に尋ねると、旧約聖書のタルムード(解説書)には「ユダヤ教の神殿が破壊されてから、神の言葉は愚かな人々や子供にしか与えられなくなった」と書いてあるそうだ。訳知り顔で神の意思を語るほど愚かじゃない、と聖職者は言いたかったらしい。

 そんな体験があるので、韓国の中央日報の論説委員が1945年の日本への原爆投下やドイツ・ドレスデン爆撃は人間の手を借りた神の懲罰−−という趣旨の主張をした時は、いやはやと思った。ワル乗りにも程があろう。この人は27日、遺憾の意を表明したが、謝罪ではなさそうだ。

 日本の歴史に詳しいイスラエル・ヘブライ大のベン・アミー・シロニー名誉教授は、韓国側の主張に首をかしげる。「ならば50年代の朝鮮戦争は韓国人の罪に対する神の懲罰で、中国の文化大革命や東日本大震災だって神の罰と言うことも可能になる。奇妙な論法です。そもそも、一つの悪で別の悪を正当化することは道徳的に容認できない。日本軍が残虐行為を働いたからといって、原爆投下が正当だったとはいえません」

 碩学(せきがく)のシロニー氏は戦争の幕引きに原爆は不要だったとの立場を取る。「当時のトルーマン米大統領が、米国の原爆保有とソ連参戦の可能性を日本に告げれば、原爆を使わずとも日本は降伏したかもしれない」。他方、米国には、原爆が日本の降伏を早め、多くの命を救ったという伝統的な主張がある。歴史認識の谷は深い。愚かな私にも神の言葉は聞こえてこない。(専門編集委員)

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