空手道場の帰り道。
主人公・入野勇はそこで、壮絶な光景を目にする。
それは姉の相良蓮と虎のようにでかくて、ぞっとする程にぞろりと牙の生えた猫の化け物が対峙しているというものだった。
「今日も待ち伏せとはご苦労ね。今度は主人直々に。
そこまでして勇の血が欲しいか、純血種の吸血鬼!」
吸血鬼? あの化け物が吸血鬼?
姉は何を言っているのか。それに”勇の血”ってどういう事だ
蓮と化け物がものすごい勢いでぶつかり始めた。
否、正確には多分そう。
空手で速い動きには慣れているはずの主人公の目でも、ほとんど捉えることができない二人の動き。
明らかに人間離れした素早さ、それに力強さがある。
一撃一撃が、普通の人間ならば即死してもおかしくないようなもので、それは二人の周囲のものの破壊される様でわかる。
しかし。
いくら怪物の如くであろうとも、主人公の姉は人間で、その相手は見るからに化け物。恐怖よりも姉を助けなくてはという思いに駆られる。
現に蓮が相手に翻弄され始めている。
マズイ。
このままだと蓮はあの恐ろしい牙で食い殺されてしまうかも知れない。
そんなのはダメだ。
これまでずっと強くなるために空手をやってきたのだから、蓮を守れるような強さを手に入れるために今までやってきたのだから、見ているだけでは駄目だ。
主人公は突然の異常な状況にも思わぬ順応を感じながらも、自らを奮い立たせ化け物に向かう。
不意打ちをすれば!
「勇!? なにをっ!?」
思わぬ弟の乱入に驚愕する蓮をよそに、猫に似た化け物は気付いていたかの様に標的を蓮から勇へとあっさり変え、躊躇なく突撃してくる。
嘘だろ!!!!?
ぞっとするような鋭い牙を剥き出しにして。
丸呑みにしそうな程に大口を開けて。
食い殺されると思った瞬間──
「ぎゃッ!!?」
主人公の眼前で、自分のものではない悲鳴が上がる。
「──ッ!? ね、姉ちゃん!?」
主人公を庇うように蓮が前に立ち塞がり、化け物の牙をその身に受けていた。
どでかい牙が痛々しくも首から肩にかけて深々と突き刺さり、ドクドクと大量に血が流れ出している。
その血を化け物はさも美味そうに喉を鳴らして飲み下していた。
*
「吸血病の薬……くそっ……」
蓮がそう吐き捨てて、顔を思い切りしかめる。
二人は自宅に戻ってきていた。
あの後、何とか化け物を追い払うと蓮の指示で主人公は家に保管してあるという”薬”を探し出し、薬ビンにあった処方箋に従がって蓮に処方したのだ。
それは吸血鬼に噛まれたものを救う秘薬だという。
「もう大丈夫なのか?」
「はぁはぁ……勇、私が勇を襲いそうになったら……この短刀で私の心臓を突きなさい」
「な、なに言ってんだよ!」
「殺せって言ってるのよ! もし薬が効かなかったら、私もあいつらと同じ吸血鬼になって勇を襲うようになる……その前に殺すのよ……く、はぁ……っ」
「そんな……」
主人公が落ち込んでいると、蓮の様態が急変する。
苦しそうにその場にへたり込みそうになる。
勇が慌てて蓮を抱き留めると、
「ひっ!?」
主人公がビクッビクッと身体を震わせて悲鳴を上げた。
「さ、触らないでっ!」
蓮は力任せに主人公を突っぱねる。
そしてその場で自分を抱きながら、よだれを垂らしそうな勢いで口を半開きにして吐息を漏らす。
薬が効かなかったのか!?
「だ、大丈夫だ。薬は効いている……」
どうにもその様に見えないと主人公は再び処方箋を見る。
そこには副作用も書かれてあった。
この薬には催淫効果の副作用がある。
え?
モノスゴク発情します。
あの……
発散しないと狂います。
よく観ると蓮は片手で自分の身体を抱いて震え、もう片方の手を内腿に挟み込み、内腿をもじもじとさせて擦り上げていた。
自分の意中の人が、まるで自慰でもしているような姿に興奮する主人公。
ふーん。なるほど!
「ち、近寄るなっ……勇!」
蓮に一括されて我に返る。
だが発散しなければ狂うとまで書いてある。
思い人を抱きたいし、同時に守りたい。
「催淫効果が出てるんだろ?」
「大丈、夫……なにも心配しなくていい」
「でもっ」
「私とセックスする気!? 私達は姉弟よ……っ、なに、考えてんの……! くあ……っ、はぁっはぁっ、うぅ……」
でもなあ……。
「よ、寄るなって……言ってんのよ!」
「弟として出来る事があると思うんだ!」
……この物語は、吸血鬼たちとの壮絶な死闘と
凄まじい最強姉を弟が凄まじいHで堕とす物語である。
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