芸能界というキラキラした世界の恋に
みんなが憧れ、そして、ときめいた!!
主人公・萩原未央(はぎわらみお)はドラマを中心に活躍するアイドル。隣の家に住む、同じくアイドルの森本輝臣(もりもとてるおみ)に想いをよせ「ずっとそばにいたい」一心で仕事を続けていたが、同じ中学生でありながら天才演出家である熊谷一哉(くまがいいちや)に出会い次第に惹かれていく……しかし、一哉が未央に求めていたのは“恋”ではなく“女優としての才能”だった!? すれ違う想い、そして、アイドルとしての立場……前途多難なふたりの恋の行方は!?
女の子なら誰でも一度は憧れるであろう華やかな“芸能界”を舞台に、アイドルの恋愛を描き人気を集めた『ハンサムな彼女』。
「随分と時間がたってしまったのでウロ覚えなのですが(笑)この作品は確かキレイな子を描きたいって思いからスタートしたんですよ。普通の学校よりも芸能界のほうがキレイな子がいて自然だし、ストーリーも派手にしやすくていいかなってことで、こういう設定になったんです。また、私自身、当時は映画が大好きだったので、映画をあつかった作品を描いてみたいと思ったのも、この作品が生まれたひとつのきっかけですね」
芸能界という特殊な世界を描くことに関しては「よくわからないだけに勝手に描けるというか。まんがだし、ちょっと間違えていても面白ければいいじゃん♪ という気持ちで、特に気負いなく楽しんで描いていました」という吉住さん。
「ただ、資料集めだけはちょっと苦労しましたね。撮影現場の写真を撮りに映画『あぶない刑事』とドラマ『君が嘘をついた』の現場に取材に行ったんです。それは貴重な体験でとても楽しかったんですけど、肝心の資料の撮影はというと、カメラのシャッター音を立てるたびにスタッフの方々がみんな振り向くので……“邪魔になっているのかな?”とついビクビクしてしまって。結局、控え室のドアしか撮ってこれなかったという(笑)」
写真は撮れなかったものの(笑)、スタジオに足を運び現場の空気を感じて作られたまんがの世界は読者を“撮影ってこんな感じなんだ!”とリアルにワクワクさせた。ついつい、芸能界の裏側を見ているような気分で読んでしまっていただけに“登場人物は実在のアイドルをモデルにしたのかどうか?”ということもまた気になるところ。
「モデルは特にはいないんですよ。ただ、未央の“いつもヒロインの敵役ばかりまわってくる”という設定は伊藤かずえさんを参考にしました。かといって未央のモデルが彼女というわけでなく、あくまでもその設定だけなんですけど。当時、大映ドラマとかでよくそういう役ばかり演じてらしたじゃないですか」
そんな主人公の未央だが、読者的には中山美穂さんをイメージしている子が多かったそう。
「“実写化するなら未央役は中山美穂さんがいい”っていうお手紙をよくもらいましたね」
実はこの作品、諸事情により実現しなかったものの、実際に実写化のオファーが来ていたんだとか!! そのとき、未央役にあがっていたのが宮沢りえさんだった。
「もし、今実写化するなら誰をキャスティングするか? 今は誰だか想像もつかないけど……当時は“後藤久美子さんがピッタリかな”って思っていましたね」
初の長期連載だっただけに
戸惑うこともたくさんありました。
「実は『ハンサムな彼女』は私にとって
初めての長期連載作品なんですよ」
『りぼん』の表紙を飾るのも、メインの付録のイラストを手がけるのも、コミックが2巻以上出るのも……「すべてが初体験だった」という吉住さん。それだけに、戸惑うことも多かったようで!?
「もう、わからないことだらけでしたね(笑)。まず驚いたのが“連載の終了を自分で決めることができない”ということ。ある日“あと数回でこのストーリーは終わります”っていうのを編集部に伝えたら“ちょっと待ってくれ!!”と呼び出されまして。急遽、素敵なレストランに編集長と副編集長と担当編集が集合し、そこでこんこんと“せっかく読者がついたのに、今終わるのはもったいない”と説得されたんですよ。でも、私的には“そうはいっても……終わっちゃうんです!!”という状況だったので(笑)。相談に相談を重ねた結果、とりあえず
一部は終了ということで、新しく二部をスタートさせようということになったんですよ」
未央と一哉の恋を追った一部。一哉が映画の勉強のために渡米してしまう二部。このような展開になったその裏にそんな秘密があったとは!? また、連載の仕事以外にもこんな“よくわからず戸惑ったこと”が(笑)。
「ある日『りぼん』を開いたら『ミス・りぼん』の募集記事が載っていて。そこに“合格者は吉住渉先生とアメリカの西海岸に旅行に行ける!!”って書いてあったんですよ(笑)。それを見て、初めて“え、そうなの!?”って。要は知らされてなかったんですよね(笑)」
この作品を語るにあたって真っ先に思い出すのが「当時の担当さんのこと」と笑う吉住さん。「内容には口出しせず、自由に楽しく描かせてもらえたので感謝しています。でも、それと同時に、すごくフリーダムで面白い人でもあったので(笑)。ビックリすることも多々あったんですよ」とか!!
「一部と二部にしようという話し合いのときも、編集部サイド、私サイドのどちらの肩を持つわけでなく、その担当さんだけ黙々と食事していて。やっと発言したと思ったら、その言葉は“エスカルゴを注文していいですか?”(笑)。この場面だけはなぜか今でも鮮明に覚えているんですよね(笑)」
その担当さんとはこんな事件も!?
「ある日“まんがの描き方ビデオ”に出演することになって。担当さんから“材料や道具は全部こっちで用意しているから”といわれてスタジオにいったんですよ。そして、いざ撮影ってときになって“定規がない!!”ってことに気づいて。急いで担当さんが買いに行ったんですけど、文具店がもう閉まっている時間だったんですよね。そして、やっとのことで手に入れてきたのが
金物屋さんで買ったとてつもなく長い鉄の定規(笑)。“本当はこんな定規使ってないのになぁ”と思いながら線を引きました。あのビデオを見た人の中には“吉住さんはあの定規を愛用してるんだ”って真似した人もいると思うんですよ。それがずっと気になってて……今、訂正します!! 私はあんな鉄の定規は使ってませんっ(笑)」
そんな話も今では笑い話。「そういう事件ほど、面白く記憶に残るものなんですね」と笑う吉住さん。
「私にとって『ハンサムな彼女』は、そんな“初めて”だらけの新鮮な驚きと喜びに満ちた作品。そして、多くの読者に初めて受け入れてもらうことのできた、私にとって記念すべき作品でもあるんです」
(取材・文/石井美輪)
*毎週木曜日更新予定
次回は10月2日 吉住渉『ママレード・ボーイ』(1)