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原子力安全協定  関電は対象範囲改めよ

 滋賀県の嘉田由紀子知事と長浜市の藤井勇治市長が関西電力に対し、原発の安全協定対象に長浜市を含めるよう申し入れた。
 東京電力福島第1原発事故などを機に、滋賀県と県内市町は、福井県に原発を持つ関電などと、原発の現地確認や事故時の損害賠償などを盛り込んだ安全協定の締結を目指している。
 ところが、関電は、原発の立地市町と隣接する自治体だけを対象にする方針だ。長浜市と高島市はいずれも美浜原発(美浜町)から半径30キロ圏内に位置するにもかかわらず、美浜町と隣接しない長浜市を除外する案を示している。
 福島の事故で、放射能に汚染された地域は30キロ圏を超える広範囲に及んだ。40キロ以上離れた飯舘村も全村避難を強いられたほどだ。
 事故による放射性物質の拡散範囲は、原発からの距離や地形、風向きで変わり、自治体境界は全く関係ない。30キロ圏内に市民約8800人が住む長浜市が安全協定を求めるのは当然だ。関電は方針を改め、申し入れに応じるべきだ。
 福島の事故の教訓は、原発災害に対する備えも大きく変えた。原子力規制委は、福島のような過酷事故が全国の原発で発生した場合の被害想定を公表し、事故に事前に備える「原子力災害対策重点区域」を、半径10キロ圏から30キロ圏に拡大することを決めた。
 これまで、重点区域の自治体は15道府県45市町村だったが、滋賀県や京都府を含む21道府県135市町村まで広がり、各自治体は来年3月までに計画をつくる。
 共同通信がまとめたアンケートによると、新たに対象になった自治体の7割が電力会社との安全協定締結を求めている。住民の避難計画などをつくらねばならない自治体が、原発の安全性確認に関与を求めるのは当然だろう。
 関電は、重点区域と安全協定は別物としているが、協定対象を隣接自治体に限る方針に、何らの根拠も説得力もないのは明らかだ。安全協定が広がることに対する警戒感も感じられる。
 今年7月、大飯原発の再稼働をめぐって、必要な地元同意をどの範囲にすべきかが議論になった。現在は立地自治体に限られるが、周辺自治体への拡大を求める声は強い。アンケートでも、約6割の自治体が「周辺自治体の同意も必要」と回答している。
 今回、滋賀県などが締結を目指す安全協定に、再稼働同意など立地県並みの権限はない。しかし、協定の有無にかかわらず、周辺自治体の意見を尊重する姿勢をみせなければ国民の信頼を得られないことを、関電は自覚すべきだ。

[京都新聞 2012年11月24日掲載]

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