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姉弟=ふたり/実録番外編




デビューポエジー



それは偶然入手した動画

病理なのか
司法なのか
あるいは教材なのか

水着の跡の日焼け
素っ裸の女の瑞々しい死体

いきなりメスが頸部からYの字に差し込まれ
鳩尾から下腹部まで一気に裂かれる
感心する程の手際の良さ
まるで魚を捌くように
切り開かれ取り出されていく

有島武郎はどんな気持ちで眺めていたのだろうと思いを馳せ、
養老孟司の言葉を思い出す
“死体は真実を語る”

胸部から思いもかけずシリコンが取り出され、
顔を見合わせ苦笑いする解剖医達
丁寧に乳房に裏側から戻された
決して乱暴ではなく
必要以上にうやうやしくはなく……

はじめのうちに感じていた恐怖心は霧散し
冷静に眺めている僕を感じる

顔を被っていた布がずれ落ち、
若い美しい穏やかな死顔が覗く
生きているままの顔が揺れるその下方
切り開かれた喉から舌ごと
気管や食道が抜かれていく

もう胸も腹も空っぽ
ああ、ついに頭の皮がめくられ
回転ノコが頭蓋を一周し
カタンと蓋が落ちる

露出された脳
この女性の人生全てを記憶し
支配してきた魂の座
そんな感慨はなく
本当に頭の中身の殆どは脳なのだと改めて驚く

メスとハサミがぐいと差し込まれ
簡単に脳は頭蓋を後にする
顔の裏側がこそぎおとされ
空っぽの頭蓋
空っぽの胴体

カメラは既に彼女から離れ
台の上に並べられたものを映す
解説する英語は判らない
丁寧に説明しながらそれらを切り開き
構造を見せていく

心臓の弁
肺、肝臓、膵臓、腎臓
陰湿さの陰もない明るい光の金属台
途中から見れば例えは悪いがまるで調理番組

鮮やかに丁寧に
次々と切り開かれ切り分けられ
サンプルが採られていく
台の上に拡がるのは
膣ごと切り出された子宮と卵巣

女性の象徴
男の欲望の対象

あっさりと膣が縦に割られ
裏返されて子宮口が露呈し
その子宮も縦横に切られて内部を見せる

壁についていた固まりはいったい何だ?
NINE WEEKS と聞こえた気がした
卵巣もあっけなく割られて
排卵の跡が説明される

最後に残された脳
小脳が切り離されスライスされる
小羊の脳の料理がうまかった事を思い出す

断面を説明し
残された大脳もザクザクと
ザクザクと抵抗感もなく切られていくクローズアップで
動画は終わる

放心の僕には恐怖もなく
好奇心も失せて ただ思う
人も魚も猫も
バラしてしまえば同じようなもんで
案外に造りは単純で
それ故にこそ 生命の神秘を想い
それ故にこそ 人の尊厳を想う

有島さん
養老さん

死体は生き物は
単に肉に過ぎず
同時に
それ故に生命は
生きていると言う事は
単なる肉を高貴に輝かせるから尊いんだね

ああ、でも
それを僕に悟らせてくれた
とても荘厳なものを見せてくれた主役の
あの女性は
どんな人生を送った
どんな人だったんだろう

解体しつくされた彼女は
その後どうなったんだろう……





●倒錯の淫画●

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