夜目

深夜のネットカフェ。
人はまばらで店員の数も少ないようだ。
「それでは21番の席にお願いします。」
店員にそう言われた沙耶はまず漫画と飲み物を取ると、21番のブースに向かって歩き出した。
目当てのバンドのライブを見るために初めて一人で上京してきた沙耶は、
地元へ帰る終電を逃してしまったために、ネットカフェで始発まで時間を潰すことにしたのだった。
バッグを壁にかけて漫画と飲み物を机に置くと「ふーっ」と一息をついて自分の席に座る。
二人分の椅子がある余裕のある座席で手を伸ばして伸びをする。
しばらくパラパラと漫画をめくっていたが、しだいに睡魔が訪れる。
そのまま自分のブースの机に突っ伏したまま寝てしまった。



それから数時間後、ガタッっと小さな物音がしたが沙耶は目を覚まさずに寝息を立てている。
「んっ………。」夢の中にいた沙耶が奇妙な感覚を覚えて覚醒させられる。
自分の胸を撫でられる感覚に驚いていきなり目が覚める。
「いやっ…ち、痴漢!」瞬時にそう思った沙耶だったが恐怖と驚きのあまりすぐには声がでない。
おそるおそる目を開くと男がいつのまにか自分のブースに入ってきていて
自分の隣の椅子に座りながら胸を触っているのだった。
「こっ怖い…。」と思いながらもこんなことをされた事に対して怒りも湧いてくる。
ともかく誰かに助けを求めなければと思い、
男の手を振り解きながら、意を決して大声で
「誰かっ!助けて!」そう叫ぼうとした所だった。

声を出すのよりわずかに早く男と目が合う。
そのまま男の目に吸い寄せられると
まるで男の目から強烈な光を浴びたかのような感じになった。
高いビルから落ちたような感覚でぐるぐると目が回る。
「だ…。」とわずかに息を吐き出すように言った後、目の焦点を失い
ダランと力が抜けて椅子にもたれかかってしまった。
目の焦点を失い、全身の力が抜けて口を半分開けたまま無防備に姿を晒す沙耶。
「ふーっ」今度は男がそう一息ついて沙耶をしっかり椅子にもたれかかるよう座りなおさせる。
「背の割に思ったより大きいし、顔も中々可愛いな…。」じっくりと沙耶の全身を見つめる男は
そう思いながらも引き続き沙耶の胸の感触を堪能する。

一方、沙耶は生まれて始めて体験する奇妙な感覚に困惑していた。
圧倒的な幸福感と脱力感、そして全身に押し寄せる快感。
見知らぬ男に胸を好きなように触られているというのに。
意識は普通にあるのだが、男の目を見たとたんにまるで
自分の体ではなくなってしまったように指一本動かすことができなくなった。

本当なら怒りと恐怖と嫌悪感でいっぱいなはずなのに、
そんな感覚は心の隅に追いやられて
まるで家でリラックスしているような非現実な感覚。
しかし理性はまだ残っている。男の手にされるがままに形を変える自分の胸の感覚が嫌で仕方が無かった。
「な、なにこれ…いやっ!…なんとかしないと…。」そう思い必死に腕を上げて今も触られている胸を庇おうとするが、
ピクッっとわずかに指先が動いただけで、それ以上はどうしても動かすことができなかった。


「まるで変な薬でも打たれたみたい…」実際には麻薬などはやったことのない沙耶だったが、
そう思うのだった。
「どうして動かないの?どうなってるの?」様々な疑問が沙耶の頭を駆け巡る。

ドクンドクンと心拍数が上がる。恐らく今の自分は顔が上気してとても真っ赤になっていると思う。
そう思いながら沙耶はされるがままになっていた。

やがて、つーっと指が下に下がっていく感触。本能的に「ヤバイっ!」そう思った沙耶だったが、
相変わらず体を動かすことはできなかった。
もし体に自由があるなら手当たりしだい近くの物を投げてしまいたい沙耶だったが、
その願いも虚しく動いてるのは呼吸をするたびに小さく上下する沙耶の腹くらいだった。
そうして指の感覚がその腹を通ってへそを通り、沙耶の両足の付け根の部分、つまり股間に到達したのだった。
フリルの付いたスカートの上から股間を撫でられる感覚。
見知らぬ男に生まれて初めて触られたそこを触られながら
「いゃぁ…。」あぁ…。」とかすかな吐息を漏らすことしか彼女はできることがなかった…。

そのままひとときの間、黙って股間を撫で回していた男だったが、触っていないもう片方の手で
自分のあごをさすりながら「うーん…。」となにやら一息ついたと思うと、
小声で沙耶に向かってつぶやき始めた。

「これから3つ数えると君はいつもの君に戻るけど、今から言うことが必ず本当になるよ。」
突然何を言い出すのかと沙耶は思ったがその声に聞き入ることしかできなかった。


・・・


「じゃあ3つ数えると目が覚めるよ。3、2、1、ハイっ。」
パッと意識が切り替わり目が覚める沙耶。目には光が戻り体が動く。
「ん?あれっ?」目を覚ました沙耶だったがすぐに自分の陰部に対する初めての感覚に気づく。
なんと男の手がいつの間にかスカートはおろか下着の中にまで侵入して直接沙耶の性器を撫でているのだ。
一瞬ビクッっと体を強張らせ足を閉じた沙耶だったが、なぜかすぐに抵抗をやめてしまった。
「ん?どうしたのかな?」男がそうつぶやくと沙耶が答えた。
「いえっ、なんでもないですよ…。」
沙耶はそう平然を装って答えたが頭のどこかに意に知れぬ違和感があった。
頭の中ではドクンドクンと心臓の音が鳴り響いている。なにかの危険を知らせるサインのように。

「股間や体を触られるのは当たり前、全くおかしくも無いし変なことでもない。」
「何をされてもそのまま触らせておくのが普通。嫌な気は全くしないし当たり前のこと。」
そう沙耶の頭に響く。


「目の前の人が私のショーツに手を入れて撫でているだけ。」それだけなのに何に警戒していたと言うのか。
戸惑う沙耶だったがすぐに何に戸惑っているのかもわからなくなった。
だが一方で不思議と不安感もある。
「でも何かが変かも…」
沙耶はそう思いながら静かに自分の性器を撫でている男の腕をじっと見つめる。
その後周りを見渡しながら
「うん、おかしな所は何もない。」
そう確認した沙耶だったが、心拍数はこれまで一番緊張した時や全力疾走した時のように上がったままで、
心の隅では男にされていることが不に落ちなかった
その証拠に「なぜか」私の手が本能的に男の手を振り払おうとしている。
振り払いたいという衝動も湧いてくる。いかにもそれが当たり前のように。

しかし「理性」の声が沙耶の頭を支配して思い直させる。

「当たり前のことをしてるのになぜ手を振り解かなければいけないの?」
「知らない人の手をいきなり払いのけるなんて失礼じゃない。」

失礼の無いように手をどかすなんて駄目。
そう沙耶は思い直すと一度は男の手に行きかけた自分の両手に力を込めてぎゅーっとグーの形にする。
手をどかしたい衝動を振りのけてに静かにプルプルと腕を揺らしながら無理矢理自分の太腿の上に持っていき「ふーっ」と一息をついた。
「うん、これでいいの。」声には出さないが頭の中ではっきりと復唱する。
「後数センチで手を払いのけられるのに…」と「なぜか」また一瞬そう思ったが頭を振って考えを打ち消した。

沙耶の頭にはまた別の考えが浮かぶ。
「ああ、そういえば前に通学の電車で痴漢にあった時、オジサンにスカートの上からお尻を触られたけど、
一瞬で手を捕まえて警察に突き出したんだっけ。それが癖になってるのかな?」
それで両親や弟に武勇伝として話をしたんだった。
弟も「さすが姉ちゃんだね……」と複雑な表情で笑ってたっけ。

「でも今は電車の中じゃないし、おかしなこともされてないよね。」
そう自分で思うことにした。

そうこう頭を巡らせていると、「ちょっと痛いんだけど…」男が軽い笑みを作りながらそうつぶやく。
ぐっときつく両足を閉じてしまっていたために男の手が自分の股間にぎゅーっと挟まれてしまっていた。
「あっ、ごめんなさい」気づいた沙耶があわてて答える。
早速、沙耶は男が触りやすいようにちょっとだけ足を開く。
それに合わせて男の手がスルっと股間に忍び込んでくる。
その時に一層ドクンと危機を知らせるかのように
また胸が高鳴ったが沙耶にはもう何のことだか理解することはできなかった。

相変わらず男の手は沙耶の性器を撫でている。
羞恥は完全になくなっていない沙耶は
「当たり前のこと、おかしいことは何もしていない」
と自分に言い聞かせながら全身を真っ赤にしてされるがままにしていた。


「漫画も飽きて暇だったので話しかけてきた男と話すことにした。」
「両隣に人はいないが、遠くに他の客や店員がいるので必ずつぶやくように耳元で小声で
話さなければならない。」

そう沙耶の頭に考えが浮かんだ。


しかし相変わらずされるがままの沙耶は黙って今も自分の性器を撫でている男と話そうにも
何を話したらいいかすぐにはわからずとりあえず自分の携帯電話を取り出して見ることにした。
ケータイの画面が示す時刻は始発まで1時間ほど、それとメールの着信が来ていたようだった。
メールの着信ランプに気づいた男が声をかける。
「ん?着信かな?誰からなの?。」
一瞬プライベートなことを聞かれ迷った沙耶だったが、

「どんなことでも素直に正直に答える。嘘をつくのは嫌だしなんでも話すととても良い気分になる。」
そう沙耶の頭に響く。


そう思い直すと沙耶は愛想笑いをしてつぶやいた。
「えーと今から見てみますね・・・うーん母から見たいです。」
男がつぶやく「どういう内容なの?」
沙耶が答える「「家にもう着いた?」だそうです。」
「今日はここに泊まるもりだったんじゃ?」男がつぶやく
「いえ、最初はそのつもりじゃなかったんですけど、終電が行ってしまって…。」沙耶が答える。
「でももしかしたら終電逃すかもしれないって母に行っておいたんで多分大丈夫だと思います。」
と沙耶が続けた。
男は丁寧に受け答えするんだな。見た目どおりの娘なんだな…と思った。

「それでなんて返すの?」
「えーと、ネカフェに泊まることにしましたって。」
そう言いながらメールの返信を始めた。

ここでふと、男は思った。実家暮らしの場合なら母親は家にいるんじゃないのかと。
沙耶に聞くと両親は温泉旅行に行ったそうで数日家を空けてるとのことだった。

「じゃあ家には誰も?」
「ええ、あぁっ…、んっ…、弟も友達の家にぃ…泊まりに行ったみたいで今は誰もいないですねぇっ…。」
「ふーん弟君がいるんだね」
男が使っていなかったもう片方の手で胸も揉み始める。
沙耶はその手を見ながら、
「はい…2つ下の…。んっっ…。」
「じゃあ今日も明日も誰もいないのかな?」
「えぇ……。」
「……。」


このように二人は奇妙な雑談を続けていった。段々と沙耶の声に媚声が混ざっていくのだが。
沙耶は全く「おかしなことはしていない」つもりなので、
どうしてだかわからないが股間と胸に感じる、触られているうちに快楽に変わる不思議な感覚を男に悟られまいと
隠すように饒舌に何でも答えていくのだった。


・・・


「じゃあ3つ数えると目が覚めるよ。3、2、1、ハイっ。」
はっと沙耶が目を覚ます。
「あ…あれ、私今何してました?」
「ちょっとボーっとしてたんじゃない?」 男が呟く。
ああ、そうですかと沙耶が答える。
「じゃ、そろそろ電車の時間だね」
「ああ、そうですね」沙耶が携帯の時計を見る。
「じゃ、色々話をしてもらってありがとうございました。」
沙耶はそう呟くとビニール袋に入った自分のショーツの入ったバッグを手に持ち席を立った。
散々弄ばれて汚れたショーツを男が脱がして入れておいたのだ。
スカートの下には何も穿いていない沙耶だったが、
ショーツを「付けている」つもりになっている沙耶は全く気にする様子もない。
ただ、「ショーツを何度直しても食い込んでくる」と男は付け加えておいた。
そのために家に帰るまで何度も実際には付けていないショーツをこっそり直す羽目になるのだが。


さんざん沙耶の個人情報を聞き出して全身を弄んで満足げな男は、後姿を見届けながら
「沙耶もいいけどやっぱりこっちにするよ、沙耶にはお土産もあげたしね。」
と呟くと沙耶の先に目を付けていた女性達のブースに向かって歩き出すのだった…。


その後、
「家に帰ったら真っ先に風呂に入り激しい自慰をすること、
その後風呂から上がって体を拭いたら「なぜか」下着と服を着るのを忘れてしまうこと、
そのまま脱衣場を出たら「なぜか」普段着を着たつもりなってその後、家を出ない限り寝るまでそのままで過ごしてしまう。」
を実行してしまう沙耶であった。

しかし外出していないはずの弟が予定変更して家に居たため、
「姉ちゃんっっっ!!!…ふふふ服はっ!?」
「は?いつもどおりでしょ?どうしたの?」
「へ…??えええ……??」
と、いつもなら下着姿を見られただけで顔を真っ赤にして物を投げつけては怒る沙耶が
全裸のまま、直立不動で弟と押し問答することになるとは男も思いもよらないのであった。


僕は友達の家に泊まって遊ぶはずだったのに結局、人が集まらなくて
遊ぶことは遊んだが宿泊はお開きになってしまった。
そのまま夜に家に帰ってきて疲れて風呂に入った後すぐに寝てしまった。

朝になり目を覚まして時計を見るとちょっと遅い朝を示す時間。小腹が空いたので母ちゃんが今回、旅行に行くに当たって
作って行ったカレーを食べながらいつものようにTVを見ていた…はずだった……。



「ガチャッ!」勢い良くリビングのドアが開く。

「あ、あ、あ…。」僕は目の前に現れた光景に対して開いた口が塞がらなかった
家に帰って来て風呂に入っていたようだった姉ちゃんがいつものように…ではなく、
いままで見たことの無いありえない格好で立っていた。
いつものように頭にバスタオルを巻いていたまでは同じなのだが、

その下は…なんと何も体を覆うものが無い……つまり真っ裸!!!!!だったのだ。

一瞬で思考が止まる。全身も固まっていたと思う。そして次に大量の情報が頭を駆け巡る。
これは夢?ついに姉ちゃんの頭がおかしくなった?それともおかしくなったのは僕?
・・・・・。


僕が朝の低いテンションが一瞬でぶっ飛ぶくらいにパニックになって考えを巡らせている間、
姉ちゃんはいつものように一目だけ僕を見るとそのままTVに視線を変えた。
TVを見ながら髪を拭いている姉ちゃんは体を全く隠そうともせず素っ裸のまま立っていた。

僕は自然と姉ちゃんの体に目が行ってしまう。
思ってた通り着やせするタイプのようで(不慮の事故で下着姿は見てしまったことがある)
小柄な身長の割には大きくて綺麗な形の胸、そして…姉ちゃんの下のほうにある毛の部分……。
「ゴクン」と自分の唾を飲み込む音を聞きながらまじまじと見つめる。
小さな頃は一緒に風呂にも入っていたがそれとは全く違う思春期を迎えた女性の裸……
それどころか実際に生でまともに女性の裸体を見たのは初めてだった。

「姉ちゃんもやっぱり生えてるんだ…。」とそんなことを思いながら凝視してしまう。
その間も姉ちゃんは直立不動で手だけを動かして髪を拭いている。

(こ…この事態に…ど、どうリアクションを取ればいいんだ…。)
僕はそう思いながらも頭に浮かんだ考えを直球で伝えることにした。

「姉ちゃんっっっ!!!…ふふふ服はっ!?」
「は?いつもどおりでしょ?どうしたの?」
「へ…??えええ……??」

いつもどおりって何だ。さらに頭が混乱する。頭を駆け巡らせても今まで一度も姉ちゃんがリビングで裸だったことなんてない。
それどころか元々羞恥心が強いらしく、必要以上に肌を見せることなんてなかった。

「だ、だからっ、ふっ、服は??」僕は続ける。
「ん?だからいつものT−シャツでしょ?」

そう言って姉ちゃんは腰元に手を持ってきてヒラヒラさせる。
まるでそこに服があるかのように…。

「ん?」そう言うと姉ちゃんは僕を見つめる。
「あんた熱でもあるんじゃないの?顔が真っ赤よ?」

「そりゃあこんなもの見せられたら…。」と僕が思っていると
プルンっと胸を揺らしながら姉ちゃんが近づいてきた。
そして僕を近くで凝視する。
顔が近づくということは胸も近づくということで、至近距離に胸がやってきた。
心臓が止まりそうになりながらついつい見つめてしまう。
胸のピンク色の中心部分もはっきりと見える。
ツーンとシャンプーの香りか姉ちゃんの香りなのかわからない良い匂いがしてクラっとする。
僕はアドレナリンが最大に分泌されているのか、頭はバクバクとして、変な汗がどんどん出てきて
今までに無い真っ赤な顔になっているようだった。

「やっぱり熱があるわね。それ食べたら薬飲んでさっさと寝なさいよ。」
そう僕を見つめながら言うと、姉ちゃんは僕に背を向けてキッチンに向かった。
あっけに取られた僕は小ぶりな姉ちゃんの尻を現実感の無いまま見つめているだけだった…。

「ど、どういうことなのだろう…姉ちゃんは僕をからかっているのか…。」
僕は姉ちゃんの真意を測りかねていた。
カレーを胃に駆け込むと急いで皿を片付ける。
姉ちゃんはというとキッチンで裸のまま仁王立ちでコップの牛乳を飲み干すと、
ベランダのほうに向かっていた。ガラス越しに外を見て、
「今日はあまりいい天気じゃないみたいね。」
と曇り空を見ながら独り言なのか僕に語りかけてるのかわからないが姉ちゃんがつぶやいた。
ガラスに顔と体を近づけたために姉ちゃんの胸が直接ガラスに押し付けられて窮屈そうに形を変えていた……。


「こ、これはおかしい。。何もかもがおかしい…。」
僕はとりあえず頭を冷やすために自分の部屋へ逃げ込むように向かった。
「ガチャン。」自室のドアを閉めてもたれかかる。

「どういうことなのだろう……。」
相変わらずパニックでたくさんの思考が行ったり来たりしている。

メールで友達に相談しようか?   ― いや、写真を撮って送れとかネタにされてきっと状況がひどくなるばかりだ…。
母ちゃんや父ちゃんに電話で相談? ― 母ちゃんになんて言えないし、父ちゃんはかわいい一人娘の痴態に卒倒してしまうだろう…。

「どうしよう…どうしたらいいかわからないし、ほっとくしかないのかな…。」
でもどうしてこんな非現実な事態になっているのか、かなり気になる。
さっきの会話からして姉ちゃんはどうやら服を着ている「つもり」になっているようだ…。
演技なのかもしれないが…。でも演技などする意味もないし演技とはどうしても思えない。
「と、とにかくまた姉ちゃんの所に行ってみよう…。」

そう思って再びドアを開ける。廊下に出てふと考える。
「とりあえず顔を洗ってから行こうか…。」
僕はまたあの非現実な空間に飛び込む勇気が湧かないのと気を紛らわせるために顔を洗ってから行くことにした。


脱衣場兼洗面所の扉を開ける。
「ふーっ。」顔を洗って一息つく。
鏡に映る自分の顔を見ながら「これは夢なのかな?」なんて思っていた。
ふと、周りに目をやると姉ちゃんの服が置いてある。
その上には下着が綺麗にたたまれて置いてある…。
なにかまずいものを見た気になったが姉ちゃんはここにはいない。それをいいことにまじまじと見つめる。
「これは…。」……そう。これは姉ちゃんがいつも着ている部屋着と下着、つまりさっき姉ちゃんが言ってた「いつもどおり」だ。

風呂から上がった後に着るために置いておいたのだろう。
「姉ちゃんはドジ過ぎて服を着るのも忘れてしまったのか…。」姉ちゃんは昔からドジどころかしっかりしてる性格なのだが。
まさかそんなわけはない…すぐに気づくだろうと自分自身につっこむ。

そんなことを考えながら意を決してリビングに向かうことにする。
「ガチャッ。」リビングのドアを開ける。
視線を彷徨わせると姉ちゃんがソファに座ってカレーを食べながらTVを見ている。
相変わらず何も身に付けていない全裸。夢ではなかったと思い直す。

「あんた寝たんじゃなかったの?風邪をこじらせると大変よ?」
そう視線はTVのまま変えずに姉ちゃんが僕に話しかける。

姉ちゃんの警戒心が無いことをいいことにじっくりと体を鑑賞する。
「綺麗な肌してるな…。」とその通り実際とても綺麗な肌だった。
そんなことを考えながら意を決して姉ちゃんに話しかける。

「それより姉ちゃん、服にカレー付いてるよ?」

「えっ?どこどこ?どのへん?」そういいながら姉ちゃんは身に付けていない服のカレーの染みを探そうとしている。
やっぱり姉ちゃんは服を着てる「つもり」なんだ…。
どうしてそうなったのかはわからないがちょっとだけ状況を理解した。

「ああ、ごめん、ごめん、見間違いだった。」僕が言うと、
「もう。しっかりしてよ。」そう姉ちゃんは言う。
そういいながらも姉ちゃんは着てもいない服を一応確認している。
実際に着てもいない服の染みを探す。
その姿はまるでパントマイムをしているピエロのようでとても滑稽だった。

僕は「ふー」と深呼吸をする。一瞬躊躇ったが、ついに核心をつくことにした。
「姉ちゃん。今裸だよね?」この言葉を言うのには勇気が必要だった。
だが姉から返って来たのはこんな反応だった。

「は?そんなわけないでしょうが。。。あんたさっきから何なのよ?」
「服がなんとかとか、裸がどうとかセクハラしないでよ変態!」
「言葉だって十分セクハラなんだからね。」

いや、変態はそっちだろ…と心の中でつっこみながら、もう姉ちゃんに裸の事をつっこむのは諦めた…。
変態呼ばわりされてムッと来たこともあって、
きっと小さい頃から僕をいじめた罰が来たのだと勝手に思い込むことにした。


もうなるようになれと思った僕は一つ悪戯を思いついた。それを実行してしまっていいのかはわからない。
もし演技で僕をからかって服を着たフリをしているのなら流石にこれは怒るだろう。
それを確かめる意味もある。僕は自分にそう言い聞かせた。

もしこのまま裸で姉ちゃんが外に行ってしまったり、
明日になって親が帰ってきてしまったら、どうなるのかという心配や不安な気持ちもあったのだがそれは心の隅に追いやった。

最新型の携帯電話。両親にテストの点が良かったらと言う交換条件でつい最近買ってもらったものだ。
携帯用としては最大級の画素数らしくて意外と綺麗に写真や動画が撮れる。

じっとケータイを姉ちゃんに向ける。いかにもふざけたように「はいはい撮るよー」と言う。

買ってもらったときには姉ちゃんや家族をためし撮りして遊んだものだ。
平然を装ったがかなりいけない事をしている気がして内心バクバクしている。頭の中に心臓の音がドクンドクンと響く。
当然だがファインダーというか画面ごしに姉ちゃんの裸が写っていて改めて感動する。綺麗だな…と思わず思ってしまう。
姉ちゃんはさっきから、からかわれてると思ったのか、僕に無視を決め込んでTVを見ながら片手でメールを打っているようだ。
僕は無視されてるにもかまわずそのまま続ける。
「はい!」そう掛け声をかけてスイッチを押してシャッター音が鳴る。
それでも姉ちゃんは「はいはい。」という感じで無視したまま反応しなかった。

ケータイの画面にRECのランプが表示される。撮っているのは動画だ。
僕はゴクッっと息を飲み込む。背徳感が僕の中に生まれる。
顔から胸…そしてその中心部分のピンク…贅肉の無い腹、全身をくまなく撮っていく。
数十秒?数分?実際にはその程度しか立っていないのだが僕にはこの時間が1時間にも2時間にも感じた。
しばらくすると姉ちゃんは「もう…うっとうしいなあ…。」とつぶやく。
カメラを持って周りをうろちょろする僕に嫌気がさしたのか、
姉ちゃんは体を隠すように体制を変えた。

「!!※!※※!!」僕は思わず姉ちゃんに目が釘付けになる。
姉ちゃんはソファに足をちょこんと乗っけて体育座りをちょっと崩したような座り方になっている。
これは普段からよくする姿勢でこのままよくTVを見たりケータイをいじっている。
ただ今日の場合は姉ちゃんが真っ裸ということだ…。
ソファに足を乗っけて丸まっている姿勢。姉ちゃんは体を隠そうとしたのだろうが、裏目にでてしまった。
確かに胸は姉ちゃんの太ももに形を変えてぐっと押し付けられて見えなくなっている。
しかし、脇から見ると足を上げたことによって姉ちゃんのアソコ…女性器が強調されるように丸見えになっている。
頭から蒸気が出るなんて表現を昔の漫画で見たが実際にそんな気分だった。

初めて見る女性器…食い入るように僕は見つめた。
カメラも当然着々と映像を録画している。
「うわ…。すごい…」心臓がより一層バグバグいっている。
姉ちゃんが普段なら絶対に見せないだろう光景に頭の中が真っ白になる。
いけないものを撮っている…そういう罪悪感もあったが、目を背けることも録画を止めることもついにできなかった。
僕はただ固まったように撮り続けることしかできなかった。

しかしこの状態も長くは続かない。数秒?数十秒?経っただろうか。
姉ちゃんがパチっと自分のケータイを閉じたと思うと両方の胸をプルンと揺らしながら勢いよく立ち上がった。
「じゃあ私、昨日あんまり寝てないし、これから寝るから。起こさないでね。」
「あんたも風邪引いてるんだからさっさと寝なさいよ。じゃなきゃ勉強でもしてなさい、
前にちょっとテストが良かったからって次に良い点取れるかはわからないのよ。」

そういい残すと姉ちゃんは食事の後片付けをしてリビングから去っていった。
その光景を僕は嵐が去った後のように、ただ立ち尽くして見ていた。



一瞬ぼーっとしていたが気を取り直すと僕も自分の部屋に向かうことにした。
リビングを出て廊下に出るとトイレから出てくる姉ちゃんとかち合った。
用を足してきたのだろう。相変わらず全裸の姉ちゃんの中心部分を見て、
アソコから用を…と思うと気恥ずかしくなった。
僕と姉ちゃんは特に会話もすることなくお互いの部屋に入っていった。

僕は自分の部屋に入ると布団にもぐりこんで先ほど録画した動画を食い入るように見るのだった。
はっきりと記録されている姉ちゃんの全て。体を動かすたびに揺れる胸もしっかりと写っている。
誰にも見せたことの無いはずの姉ちゃんの大事な部分も…

相変わらずこの非現実なできごとに色んな思考や妄想が駆け巡り、
心臓はバクバクして頭はガンガンしてきた。
痛い頭を無視するようにしばらく動画を見ていたがいつしか夢の中に入ってしまったようだった…。

保管庫へ戻る