南海トラフの巨大地震が、いつ、どの地域を中心に、どんな規模で起きるか。それを直前に予知することは難しい。国の有識者会議がまとめた最終報告書はそう認めた。[記事全文]
学校の運動部活動で、指導者による生徒への体罰(暴力)と、本来の指導の違いはどこにあるのか――。文部科学省の有識者会議がそのガイドラインをまとめた。[記事全文]
南海トラフの巨大地震が、いつ、どの地域を中心に、どんな規模で起きるか。それを直前に予知することは難しい。
国の有識者会議がまとめた最終報告書はそう認めた。
政府の地震対策は、見直しを迫られる。東海地震への対策の法制度は、予知は可能であり事前避難ができるという前提で組み立てられている。
東海から九州にかけての広い地域が、不意打ちで大地震にみまわれる。そうなっても被害を最小限に食いとめ、人とモノの支援が被災地に行きわたるようにするには――。
そんな視点で対策をたてなおさねばならない。
多くの人命にかかわる原発や新幹線、高速道路、地下街などの安全対策は急務だ。
一方で、いつ来るかわからないからこそ、各地域で今からできることを地道に積み重ねることが大切になる。
自治体はまちづくり計画の見直しを始めるべきだろう。
たとえば、大津波からの避難が難しい地域では、建築に一定の制限をかける。お年寄りや幼い子ども、障害のある人の施設は高台に移すか、高い建物に建てかえる。報告書はそんな策を列挙している。
避難者は最大で全国1千万人近くにおよび、避難所の不足がみこまれる。被災地にとどまらなくてもよい人には、帰省や疎開をすすめる。そういう提案もしている。
まちづくりの見直しも、避難所不足の解消も、地域で話し合わなくては進まない。裏を返せば、地域の防災力を高めるかぎは共助だといえる。
アパートのあの部屋に、独り暮らしのお年寄りがいる。あちらの家族は地元を離れられない仕事だ。うちは県外に親類がいる。そうした個人情報を、地域でどのように、どこまで共有できるかが課題になるだろう。
もう一つ、報告書が強調しているのは防災教育だ。予知できない震災に備えるには、将来の世代に防災の知恵を受け継ぐことが大切だからだ。
災害の科学的な知識を学ぶ。自分が住んでいる街の危ない場所を知る。避難訓練をする。
いまはそうした内容がいろいろな教科に散らばっている。しかし、学んだことが行動に結びつくには、もっと体系的に教える必要がある。文部科学省はそのためのカリキュラムの検討を進めている。
いざというとき自ら行動し、身を守れる実践的な力を養う。世界有数の地震国にはそういう教育が欠かせない。
学校の運動部活動で、指導者による生徒への体罰(暴力)と、本来の指導の違いはどこにあるのか――。
文部科学省の有識者会議がそのガイドラインをまとめた。
昨年12月、大阪市立桜宮高で体罰を受けた生徒が自殺した問題をきっかけに、議論してきた。6月中に全国の中学、高校に配られる。
「体罰は許されない」ことを前提に、具体的な指導の仕方まで例示したガイドラインは初めて。体罰を根絶する試みの一つとして、その意味合いは小さくない。
ガイドラインは、教育上必要な指導例や、厳しい指導として認められる例を示した。
一方で、体罰や暴力に当たるとして許されないケースも例示している。殴る、けるなどのほか、パワハラやセクハラ、人格を否定する発言などだ。
さらに、長時間にわたって無意味な正座をさせる、熱中症が予想される状況で水を飲ませずに長時間、ランニングをさせる。これらも許されない事例に挙げられた。
おおむね妥当な内容だろう。
ただし、実際には「厳しい指導」と体罰や暴力の線引きはそれほど簡単ではない。有識者会議でも、細かく例示することの是非をめぐって議論が揺れた。
その意味で、ガイドラインはあくまで目安に過ぎない。
これを機に、それぞれの学校で、指導者や教師、保護者をまじえ、部活動のあるべき姿や指導方法を議論してはどうか。
ガイドラインは、科学的な指導方法を学ぶ研修など、指導力の向上を促している。
しかし、顧問の教員だけにさらに負担を強いるのは現実的ではないだろう。
朝日新聞社が全国の公立中学300校(有効回答95%)を対象に1月に実施したアンケートでは、84%の中学で外部指導者を招いていた。
部活動の環境は急速に変化している。対象を外部指導者にも広げて研修をするなど、現状に応じた手立てを探りたい。
体罰問題にとどまらず、部活動の位置づけそのものを問い直すことも必要だ。
学習指導要領は、部活動は生徒の自主的、自発的な取り組みの場と位置づけている。
だが、実際には部活動の成績が最優先になり、生徒の自主性が無視されているケースも少なくない。そんな体罰を生む土壌を断つためにも、生徒の声を反映させる工夫が欠かせない。
ガイドラインに魂を入れるのは教育の現場である。