作品 |
てん |
幻市 | |
本稿はKなる人物により当編集部に持ち込まれた音声テープを文字起こししたものである。 当編集部はKが行った盗聴行為を決して肯ずる立場をとるものではないが、一方で本テープの内容の異常性、犯罪性に鑑み、本テープの確保、保管、そして公表の立場をとるに至ったものである。 | |
シリアス・人格異常 | |
第一章 | 靄(もや)の中の生活。恐らく母の死によって僕の頭の中の何かが外れてしまったのだろう。僕は現実感のない空間に身を置いていた。 そう、僕があの2年間で体験した不思議な出来事が果たして本当にあったことなのか、それとも幻なのか、今でもはっきりとは判別できない。 |
第二章 | 病院からも、警察からも何の連絡もなかったけれど、野杖医師に対しておこなった行為が何の咎めもなしに済まされるとは思えず、《シンイチ》は怯えていた。 |
第三章 | いつ自分が変身してしまうかも知れぬ恐怖から《シンイチ》は緊張して毎日を過ごした。 そのおかげで、しばらくは大人しくしていた《てん》だったのだが、事件が起きたのは3月だった。 |
第四章 | さあ、どこまで話したっけ。 そうそう、友達が来てるさなか、僕が発作を起こしたんだったよね。 このあたりから大きな距離のあった《シンイチ》と《てん》の間が急速に近づき始める。 |
第五章 | 平和に過ごしていたその10月、3ヶ月ぶりに病院に行った。 「野杖先生はな、東京の病院に戻ることになったがや」 《シンイチ》が茫然とした。 |
第六章 | 雨の日曜日。期末試験も近いため《シンイチ》は今日は朝から勉強机に向かっていた。 「信ちゃん、・・・チョットいい?」 ふすまの外で真純の声がした。 |
第七章 | ここまで《シンイチ》と《てん》の話をしてきたけど、理解できた? これから話すのは《シンイチ》と《てん》が融合した日の事さ・・・ |
第八章 | 僕の話ももうすぐ終わる。もうすぐ添島のヤツが来る。それまで僕の話を聞いててくれ。もうすぐ決着がつくからね。 |
第九章、付章(その@) | この数日間の練習で僕は「波動砲」をかなり上手に扱えるようになっていた。 「ごめんなさい。イヤな事、訊いちゃった?」 みどりが膝の上に肘を置いて身を乗り出した。 |
付章(そのA) | 柿崎は腹を立てていた。 決して柿崎の汗と涙の成果というものではないが、それでも騙し取られたという悔しさが消えない。 ※注 えっちなし |
付章(そのB) | 結局、昨日の名古屋行きでは「東信一」の残した痕跡を確認することは出来なかった。 この状態でみどりと対峙しなくてはならない。「当たり」か「外れ」か・・・。 ※注 えっちなし |