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社説

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がれき処理 見込み違いなぜ起きた(5月28日)

 東日本大震災を受けて環境省が県外処理を要請した岩手、宮城両県の災害廃棄物(がれき)の量が、当初推計の6分の1にすぎないことが判明した。

 有識者から「この量なら広域処理の必要はなく、地元で対応できた」との指摘も出ている。

 輸送コストを含めて、多大な予算を使う事業だっただけに「見込み違い」で済む話ではない。これほどの見積もり違いがなぜ生じたのか。政府はその原因をしっかり検証し、国民に説明すべきだ。

 がれき処理をめぐっては、受け入れ自治体を全国から募り、それが多くの市町村に混乱を巻き起こした。

 受け入れを表明した自治体の中には住民の激しい反対運動が起きたところがあった。受け入れないとした自治体にも、積極的に受け入れるべきだとする声が寄せられた。

 今回、広域処理が必要とされたがれきは、福島第1原発事故による放射能を含むおそれがあり、それが自治体の判断を二分したと言える。

 政府は将来の大規模災害に備え、今回の反省に立って基本方針を定めておく必要があるだろう。

 方針を策定する際は、放射性物質をどう取り扱うかの考え方や、その封じ込め技術の確立方法についても検討を急がねばならない。

 繰り返してはならないのは、がれきの受け入れを検討しただけで国から巨額の復興予算が流れ込んだ予算執行の仕組みである。

 がれきの量が減ったことで道内を含む7都道府県10団体が処理先から外された。ところが、ごみ処理施設整備費などの名目で、計107億円もの税金が支出された。

 環境省は「返還は求めない」としているが、それでは筋が通らない。

 国民には今年から25年間、「復興特別所得税」が課される。痛みを国民に強いる以上、予算の執行は厳格であるべきだ。

 被災地のうち、宮城、岩手両県のがれき処理は計画通り来春、終わる見通しとなる一方で、福島県は大幅な遅れが生じている。

 政府はすでに来春の完了を断念しており、がれき処理の工程を夏にも見直す方針だ。

 処理施設が帰還困難区域に編入されたり、一時保管先の確保が進まなかったりするなど、実際の処理まで到達できないでいるのが要因だ。

 今年3月、福島県を視察した安倍晋三首相は「時計の針が2年間止まってしまった。復興のスピードアップを図っていきたい」と明言した。

 被災地住民、とりわけ福島県民の安全と健康、丁寧な合意形成を何よりも優先し、対応を急がねばならない。一刻の猶予も許されない。

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