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国際
【主張】拉致犯初聴取 主権侵害の実態解明急げ
政府の拉致問題対策本部が初めて拉致実行犯に接触し、事情聴取を行った。脱北した朝鮮人民軍元幹部の証言は、1980年代に青森県沖で日本漁船を襲って若者だけを拉致し、残りの船員らは船ごと沈めたという凄惨(せいさん)かつ残忍な内容だ。
事実とすれば、許し難い国家犯罪であり、強い憤りを覚える。日本の主権が及ぶ海域なら、海上保安庁が漁船の安全と船員の命を守り切れず、主権も侵害されていたことになる。
元幹部が直接関与したとするケースは、80(昭和55)年10月に6人の釣り客らを乗せた漁船が遭難した事故と酷似しているが、証言と一致しない部分もある。海保はまず、符合するケースの洗い出しに全力を挙げるべきだ。
80年代なら、本紙が北朝鮮工作員によるとみられる3組のアベック蒸発事件を報じた同年1月以降だ。日本海沿岸などで起きた蓮池薫さんらカップルや横田めぐみさんらの拉致は、70年代後半に集中していたとされる。
80年代に入っても、日本海での拉致が見逃されていたとすれば、海保の警備体制に問題はなかったかの検証が改めて必要だ。
また、元幹部によれば、海上での日本人漁船員拉致は「対日漁民作戦」と名付けられ、「対南(韓国)漁民作戦」と並行して、62年から85年まで繰り返し実行されたという。日本の中小漁船を装った工作船で日本漁船に近づく手口で、10~30代だけを拉致し、高齢者や抵抗した乗組員は殺害したとされる。
証言通りなら、拉致された漁船員は10人余、殺害された日本人はその数倍に上る可能性がある。
この時期の63年5月、石川県沖で寺越武志さんと叔父2人の乗った漁船が行方不明になった。後に、武志さんと下の叔父だけが北朝鮮で生存していることが分かった。海保や警察当局はこのケースを含め、当時の海難事故も徹底して洗い直す必要がある。
現在、政府認定の拉致被害者はめぐみさんら17人で、このうち蓮池さん夫妻ら5人とその家族が帰国しただけだ。安倍晋三首相は参院決算委員会で、政府認定の被害者に加え、拉致された可能性のある特定失踪者の帰国も北朝鮮に求めていく考えを示した。
警察の集計で、特定失踪者は868人に上る。不明の漁船員を含む失踪者の再調査も急務だ。
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