【法務省「刑事罰の対象になり得る」】
昭和23年に創立し、図書だけでも約840万冊の蔵書数を誇る国立国会図書館(東京都千代田区)。1日に1300人が利用し、日本の出版物のほぼすべてが集まるといわれる。膨大な資料の中から1冊の写真集が今春、開館史上初の児童ポルノと認定され、利用禁止となった。
「清岡純子写真集 Best Selection!」(平成4年、辰巳出版)。ロリータ写真の大御所、故・清岡純子氏(3年に死去)が生前に撮影した作品を編集したもので、120ページ以上にわたり計9人の少女のヌードが掲載されている。
児童ポルノ禁止法が施行されたのは平成11年。当然、この写真集がその7年前に出版、販売されたこと自体はこの法律に抵触しない。だが、法施行後に販売した人物が平成14年9月、同法違反で有罪が確定していた。
写真集は裁判所に児童ポルノと断定されたことになるが、館の職員らはこれを知らなかった。今年4月に外部からの指摘で初めて知り、あわてて利用禁止を決定。それまで、この写真集は閲覧できる状態にあった。
「内容に問題があるとはわかっていたのですが…。新聞記事や法律関連の雑誌などに掲載された判例に目を通していたが、有罪になったとは知らなかった」
幹部職員はバツの悪そうな表情で、こう話す。
国立国会図書館法に基づき、館は出版社に対し、出版する書籍や雑誌などの納本を義務づけている。当然、児童のヌードを掲載したものも、それらの中に含まれている。
館は、国民に資料を最大限に享受できるようにする義務を負うとされているが、すべてが閲覧できるわけではない。裁判の有罪判決などを根拠に、わいせつな写真集や雑誌、プライバシーを侵害したものは閲覧制限できると内規で定められているからだ。
児童ポルノ禁止法の施行後、館は児童ポルノに対しても同じような措置をとることを内規に盛り込み、疑いがあるものについては、職員の目が届くガラス張りの別室を閲覧場所に指定。昨年7月の法改正で提供行為が禁止されたのを契機に、閲覧方法のあり方がますます問題になっていた。
そこに来て、前出の清岡氏の作品の件が発覚。途方に暮れた担当者は法務省に相談し、これまでに有罪、あるいは起訴された事件の写真集の題名などの情報を求めた。
だが、返ってきた答えは「リストはない。条文を見れば、児童ポルノか判断できるはず」。それどころか、館の全職員を震撼させる言葉が告げられた。
「児童ポルノを提供していることになれば、国会図書館も刑事罰の対象になり得る」
追いつめられた館は今年7月から、児童ポルノの疑いがある資料を順次選定。現在、120点について閲覧制限を行っている。少女ヌードの「封印」が始まった。 (宇野貴文)
|