こちらアピタルです
2013年5月24日
「あのとき、アルコール依存症と分かっていたらと思うと…… どれだけ悔やんだか分かりません」
「子どもや家族の心が病んでいないか、心を寄せて下さい」
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5月11日、名古屋市内で開かれた「アルコール健康障害対策基本法! 制定を願う集い!」の最後に登壇した女性が、集まった400人以上人たちに向けて語りかけた言葉だ。
夫の多量飲酒に苦しみ、気づいたときはアルコール依存症だった。十分な仕事ができなくなるだけでなく、家庭内での生活、家族関係も崩れていく。
この言葉は、アルコール依存症やその手前の多量飲酒の人たち自身のことだけではなく、家という社会からあまり見えないところで家族をも苦しめていることを示している。アルコール問題は、本人の健康や治療だけではないということを痛切させられる。
基本法制定を目指す団体や個人の集まり「アルコール関連問題基本法推進ネット」(アル法ネット)が目指す基本法は、富士山に例えるならこうだ。
頂上付近
▼断酒が必要な「依存症」の人たち。
→治療・ケア・支援を切れ目なく行う。
中腹付近
▼「ハイリスク飲酒」の人たち。
例えば、1日純アルコールを60グラム以上を消費する多量飲酒の人。日本酒に換算すると、1日平均当たり日本酒換算で3合だ。生活習慣病のリスクを高める多量飲酒は、さらに低い男性40グラム以上、女性20グラム以上。もちろん、これも純アルコール量だ。
→進行を予防する介入を行う。
裾野付近
▼「ローリスク飲酒」の人たち。
1日純アルコール量で20グラム以内といった「節度ある適切な飲酒」が保たれている人たち。
→発生を予防を行う。
このように裾野から頂上までを対象にしている。
基本法の骨子では、医療関係者にとどまらず、国、地方自治体、お酒の製造販売業者、健康増進事業者、そして国民にも「責務」を緩やかながら設ける。その上で、国と都道府県が基本計画をつくり、進捗率をチェックしていく。教育から保健指導、医療体制の整備、社会復帰の支援など幅広い。もちろん、法案の骨子案では、お酒の表示や広告、販売などの方法についても「不適切な飲酒を誘引することとならないように、必要な施策を講ずる」とされている。
ただ、法律は簡単につくれない。目指すは国会での議員立法。厚生労働省など政府が提案する法律ではない。この日の集会も、かぎを握る国会議員の動きを促すために行われた。
国会議員で出席したのは民主党の中川正春衆院議員。あいさつの中で「内閣府の特命大臣をしているときに、政府に持ち込んで進めることが必要だったが、大臣の期間が短かった」と反省した。だが、まだバッジを付けているはずだ。
中川議員が、参加者にお願いした「それぞれの地域の国会議員に説明してほしい」「法律のあるなしにかかわらず、具体的な政策要望を挙げることも大切」ということも、その通り。しかし、治療やケアを抱えた患者たちや、様々な課題を抱え込む家族に、過分な課題を投げかけても、そう簡単に打ち返せるわけではない。アルコールに詳しい臨床医ら専門職種の人たちも限られている。
自民党の中谷元議員も、長い電報を寄せた。その中で、党内に議連をつくり、合意手続きを進めている内容を説明していた。
この日の集会では、大阪府の新生会病院の和気浩三院長が講演した。テーマの一つは、患者の高齢シフトだ。
例えば「定年アル中」といわれる60歳での退職後にアルコール問題を抱えてしまう男性。和気院長は、定年後の男性に飲酒が増えていく理由として、5つの課題を挙げた。
この隙間に、アルコールが入っていかないようにすることも大切だという。
和気院長は、他にも認知症との関係のほか、保健所や介護サービスを提供する人たちとの連携や知識の共有など課題を挙げ、それを総合的に進める「基本法」が必要だと訴えた。
NPO法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)の今成知美代表は「法律は不適切な飲酒による健康障害」が対象だとしたうえで、「何か動くときの根拠になる。根拠がないと、行政は自分たちの仕事ではないとなるから」だと発言した。
集会では、アルコールが関連した様々な人が登壇した。児童虐待や自死を防ぐ活動をする各団体、断酒会、飲酒運転をなくす運転条例を目指す議員……、アルコールが関係する社会的問題の裾野は幅広い。アルコールは、医療機関の中、家族の中にとどまっていない。
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