修繕工事承惜の拒絶
修繕工事承惜の拒絶
貸借人は内装工事を自分の費用でする場合にも賃貸人の承諾を得るきまりになっています。工事が一方的に強行された場合には、賃貸借を解除できるでしょうか。
無断改装と義務違反
借家契約においては、賃借人は他人所有の建物を賃借使用することになりますので、もともと用法道守義務(民法616条、594条)ないし保管義務(民法400条)を負担しています。そのため、禁止特約がなされているかどうかにかかわらず、賃借人が無断で改装を加えることは、上記用法遵守義務ないし保管義務に違反し、許されないというのが原則です。しかしながら、賃貸借契約関係は継続的な法律関係でありますし、賃借人はこの契約関係を基盤として社会生活関係を築いているわけですから、そのために無断で多少の改装がなされたとしても、信頼関係の破壊を導かないものとして、賃貸人が認容しなければならない場合もあります。
契約解除との関係
上記のように、賃借人が無断で改装することは、原則として債務不履行になり、賃貸人に契約解除権を行使させる機会を与えることになります。ただ、賃貸人はまず賃借人に対し、相当の期間を定めて、違反行為を中止し修復して原状に回復するように催告することが必要であり、それでもなお賃借人がこれに応じないときに限り、契約を解除することができます。これが原則ですが、賃借人の違反行為の程度が強く、もはや賃貸借契約の継続を著しく困難ならしめるような不信行為と認められるときは、例外的に賃貸人は催告をすることなしに解除することができます。また一方、賃借人が無断で改装をし、これが義務違反になるとしても、前述のように賃貸人との信頼関係を破壊するに至らない特段の事情があるときは、賃貸人の契約解除が制限されることになります。
判例は、おおよそ以上のような考え方を前提にしておりますが、具体例では、賃借人に無断改装の義務違反があっても、解除を認めないものと認めたものがあります。
解除を否定したものとして、東京地裁昭和31年12月14日下民集7巻12号3627頁は、建物の根本構造を変えず、建物の価値は増加し、かつ、やむを得ない事情による場合は、賃貸人に著しい不利益を与えない限り、解除できないとしています(土間を板張りにし、ガラス戸を入れ替え、壁を塗り替えるなどして、畳屋からパーマ屋に変えた。だが、以前も模様替えをしていたが、賃貸人は異議を述べなかった)。
解除を肯定したものとして、横浜地裁昭和28年8月17日下民集4巻8号1152頁は、建物の保存上の危険率が増加し、またその復元が困難で建物毀損にあたるから、保管義務違反で解除できるとしています(果物屋からパチンコ屋に変えるために、柱2本を切り取り、別に柱1本を切り込みをせずにかすがいも用いずにあてがった)。
以上の裁判例も示すとおり、一般的にいうと、賃借人の無断改装が、小規模で復旧が容易で、あり、借家の利用上必要かつ有益なものであるような場合は、信頼関係の破壊にあたると認めるに足りない特段の事情があるとして解除は認められませんが、反対にそれが建物の構造自体を変更する大規模なものであったり、原状復旧が困難であったり、あるいは賃貸人のたびたびの制止を無視して強行したものである場合には、上記の特段の事情もなく解除が認められることになります。
実例
以上の裁判例から導かれる一般的な考え方をもとにすると、壁紙を張り替えたりカレンダーをかけるためのフックを壁につけたり、ガラスに紫外線防止のシールを張ったりする程度のことは、賃貸借解除の理由にはならないでしょう。