騒音
騒音
賃借人の隣人から、入居者の子供の泣き声、ケンカ、ピアノの音、奇声、不快な生活音で迷惑を受けているので賠償してほしいといわれました。どうしたらよいのでしょうか。
賃貸人の「賃借人の隣人」に対する義務
建物の賃貸人は、賃借人でもある「賃借人(「Bさん」と呼びます)の隣人(「Aさん」と呼びます)」に対し建物を使用収益させる義務を負っています(民法601条)から、その建物が使用収益、つまりアパートの場合は居住に適していない状態となっているときは、賃貸人にはこの居住に適していない状態を解消すべき義務があります。したがって、Aさんが、Bさんの出す生活音によって、その静穏な生活が乱され、「居住(使用収益)に適していない状態」にまでたち至っているとすれば、賃貸人にはBさんの生活騒音を出すという近隣迷惑行為をやめさせる義務があるといえます。
受忍限度
しかし、単に隣人のBさんの出す生活騒音をAさんがうるさく感じて不快に思うというだけでは、Aさんに「居住(使用収益)に適していない状態」が生じているとはいえません。私たちが共に社会において生活する以上騒音にさらされることは避けられないことであって、ことにアパートのような建物では各戸間の音を互いに完全に遮断するということは実際上不可能なのですから、アパートの隣人同士ある程度の生活騒音はお互い様というべきでしょう。AさんがBさんの生活騒音によって被る被害が、少なくとも、社会生活上通常受忍すべき限度を超える場合にはじめてAさんに「居住(使用収益)に適していない状態」が生じているといえるでしょう。この受忍すべき限度を超えているかどうかは騒音の大きさ、頻度、被害の程度、生活上必要やむを得ない騒音であるか否か、加害・被害の立場が将来入れ替わることもあり得るか否かなどの事情を考慮して判断されます。
近隣迷惑行為を原因とする賃貸信契約の解除
まず、Aさんの協力を得て、Aさん宅内からBさんの出す生活騒音を自分の耳で確かめ、それがひどいものであるならば、賃貸人としてBさんに対し注意すべきです。それでも、改まらないときは、賃貸借契約を解除してBさんを立ち退かせることを考えざるを得ません。
Bさんには賃借人として、賃貸借契約の定めやアパートという建物の用法に従って使用収益しなければならない義務(用法道守義務)があります(民法616条、同594条1項)。賃貸借契約の中に「賃借人は近隣迷惑行為をしてはならない」旨の特約があればもちろん(東京地裁平成10年5月12日判時1664号75頁)、このような特約がなくとも、近隣迷惑行為をしないようにするという義務も用法道守義務に含まれると考えられますし、また、アパートの賃借人はこのような義務を信義則上賃貸人に対し負っているとも考えられますから、Bさんの近隣迷惑行為を理由にBさんとの賃貸借契約を解除することは可能です(横浜地裁平成元年10月27日判タ721号189頁)。ただし、このBさんの義務違反が賃貸人との信頼関係を破壊するに足る程度に至っていなければなりません。その程度に至っているかどうかは、迷惑行為の程度や事前に賃貸人からの注意があったにもかかわらず、これを聞き入れなかったという事情の有無などが考慮されます(東京地裁平成10年5月12日判時1664号75頁参照)。
結論
Bさんの出す生活騒音が、Aさんの受忍限度を超えるほどにひどいものであるならば前項で述べた対処方法をとるべきです。このような対処をとることが可能であるのに放置しておくと、賃貸人として建物を使用収益させる義務を怠ったこと、すなわちBさんの近隣迷惑行為をやめさせる努力をしなかったことを理由に、Aさんに対し損害賠償をしなければならなくなるということにもなりかねません。