火の不始末による失火

火の不始末による失火

賃借人の火の不始末で失火事故が生じました。建物賃貸人は、その賠償を請求できますか。

建物賃借人の失火責任

失火責任法によれば、失火者に重大な過失がないときは、失火者は失火の責任を負わないものとされています。しかし、この法律があっても、賃貸借契約上の債務不履行と解される過失による失火があれば、失火者はその契約の相手方に対し、契約上の責任として、賠償責任を負います(大審院明治45年3月23日民録18巻315頁)。そして、最高裁昭和44年10月17日判時575号71頁によれば、被害者は、債務不履行責任と不法行為責任のいずれを選択することも自由であるとされています。

建物の賃借人が、不注意で火災を起こし、その結果、賃借建物が燃えてしまった場合、賃借人は、賃貸人に対して、債務不履行による損害賠償責任を負います。これは、建物の賃借人は、建物賃貸借の契約で、建物を善良な管理者として管理しなければならない義務(善管注意義務)があるからです(民法415条)。これは、民法で定められている義務ですが、建物賃貸借契約書で、はっきりと「賃借人は、本物件に損害を及ぼすような行為をしてはならない」と決めて、賃借人の注意を喚起しているものもあります。

延焼損害に対する責任

問題となるのは、アパートの一部屋を借りていた賃借人の失火で、自分が借りていた部屋だけでなく、同じ賃貸人が所有する隣の部屋も燃えてしまった場合です。

小規模の木造アパートでは、建物が燃えやすいため、一室の火災により、建物全部が焼失してしまうことは、十分予想されます。

この場合は、一室の火災から、通常生ずるであろう損害として、一室の火災からの相当因果関係の範囲内の損害として、建物全部についての損害賠償責任が認められそうです(民法416条1項)。

しかし鉄骨鉄筋コンクリート造の大規模な建物の一室の賃貸借では、建物構造上、建物全部が焼失することは、通常、予想されないから、建物全部が焼失した場合でも、その損害は相当因果関係がなく、原則として賃借している建物一室だけの損害賠償責任を負うにすぎないと考えられます。ただし、建物構造によっては、ほかの部屋への延焼が予想されたと認められる場合もあるので、注意が肝要です。

4階建てピルの借家人の失火により、ピルの大部分の焼損による補修費用の負担が認められた判決があります(大阪地裁昭和54年3月26日判時941号72頁)。

さらに、同じ賃貸人が所有している隣の家が燃えてしまった場合に、賃借人が隣の家の損害を賠償する責任が認められたこともあります。

これは、建物の賃借人が、建物内装業者に建物内装工事を請け負わせていたのですが、工事中に内装工事の過失から火災になり、建物が焼失してしまったばかりでなく、50センチメートルしか離れていない建物所有者の所有する隣の建物も半焼し、建物所有者が建物賃借人と建物内装業者に対し、損害賠償請求をしたという事案です(東京地裁平成3年7月25日判時1422号106頁)。

裁判所は、建物内装業者に対しては失火責任法による責任を認めました。そして、建物賃借人に対しでも、建物賃借人が内装工事を手伝っていたこともあって、火災発生をさせた過失があり、賃借人としての善管注意義務違反を認め、建物焼失の損害に対して責任があるとしました。

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