類焼による火災
類焼による火災
賃貸アパートが類焼し、入居者の室内が消火活動により破損し、入居者に被害が生じました。その損害の後始末は、どのようになるのですか。
基本原則
賃貸借関係にある当事者間では、賃貸人と賃借人とのいずれかの責めに帰する火災がその過失によって生じた場合には、債務不履行責任が生じます。しかし、不可抗力や第三者の行為により火災が発生した場合は、居住不能の状態になったときを含め、当事者聞に債務不履行責任は生じません。一方、火元となった第三者に対しては、契約関係はないのですから、債務不履行責任を問うことはできません。不法行為として損害賠償責任を追及することになるのですが、失火責任法は、このような場合、失火につき重過失がないときには賠償責任を免れるものと規定しています。
また、損害賠償責任を請求するときには、消火活動によってこうむった損害をも含めることができます。
以上の原則は、2-35、2-36の質問についても共通です。
消火活動による損害
消火活動に伴い、消火の対象となる室内に対する放水がなされるほか、消火の必要上、室内にある物が処分されることもあります(消防法29条)。これらは、消火活動の必要から行われるものですから、消火によって生じた損害は、補償されません。ただし、消火活動自体に過失があって損害が発生した場合には、国家賠償法1条1項の規定により、消防隊の所属する公共団体が国家賠償責任を負います。また、この場合にも失火責任法は適用され、消火活動上の失火による損害賠償請求(類焼した場合等)では、消防職員に重過失があることが要件です。
賃借人の失火について、消火活動による建物の汚れや破損が生じた場合、賃借人は、賃貸人に対して、損害賠償責任を負います。
隣室の消火活動による損害
賃借人の失火ではなく、隣室入居者の失火による延焼により賃借人の部屋の消火活動が必要となり、その結果、賃借人に損害が発生した場合は、賃貸人は、賃借人に対して損害賠償の責任は負いません。このような延焼により、賃借人が損害(例えば、テレピが消火活動によって壊れてしまったときなど)を受けたのであれば、燐室入居者に対して損害の賠償を請求することができます。ただし、それには失火責任法による制限があります(損害額の算定例として、東京地裁平成4年2月17日判時1441号107頁)。
失火責任法の規定
失火で第三者に損害を与えるのは不法行為です。したがって、本来的には、失火につき過失があれば、その損害の賠償責任を負うということになりますが、失火責任法は、そのような責任を負うのは、失火者に重大な過失がある場合に限るものと規定しております。ただし、このような失火責任法の責任制限は、失火者による失火が賃貸借契約の違反ともなるときにおける債務不履行責任を制限したり軽減したりするものではありません。
失火者は、賃貸借契約当事者以外の者に対しては、重大な過失があったときだけ損害を負いますが、この場合における重大な過失とは、例えば、ガスコンロの火をつけっ放しにして外出したような行動のことをいいます。仏壇のロウソクが倒れたことが出火原因となったことについては、重大な過失があったとはいえないなど(東京地裁平成7年5月17日判タ902号141頁)、出火原因により種々の裁判例があります。
なお、小さい子供の火遊びで出火してしまったような場合には、失火責任法にいう重過失というのは、子供の火遊びについていうのではなく、子供の監督義務者(通常は両親)が、子供のしつけ監督に重大な過失があった場合のことをいうものとされています(最高裁平成7年1月24日判タ872号186頁)。