摩耗品の取替犠務

摩耗品の取替犠務

永年の居住により畳の傷みや壁の日焼けがひどくなりました。 賃貸人に取替えを要求できるのでしょうか。

家主の修繕義務

賃貸借契約の賃貸人には、貸家の居住のために必要な修繕をしなければならない義務があります(民法606条1項)。この義務のことを「修繕義務」といいます。

しかし、貸家に生じた破損、汚損などのすべてについて賃貸人に修繕義務が生じるというわけではありません。居住の用に耐えないような状態を生じ、あるいは居住に著しい支障が生じた場合にそういった修繕義務が生じるというのが裁判所の考え方とされています(最高裁昭和38年11月28日民集17巻11号1477頁)。

また、賃借人の不利益に比べて修繕に不相応な費用を要する場合や、破損などの原因がむしろ賃借人側の責任に帰すべき場合には、賃貸人の修繕義務は免除されます。もちろん、建築後相当年数を経過しているような古い貸家を賃貸人が新築同然にまで修復しなければならない義務もありません。そのような場合は、「築後の建物に相応する程度の使用継続に支障が生じているとき」に限り、賃貸人に修繕義務が課されるのです(東京地裁平成3年5月29日判タ774号187頁)。

畳の傷み

そこで本問ですが、たしかに一般論としては、畳が傷んだからといって直ちに居住の用に耐えないとか、居住に著しい支障が生じたとはいえないでしょう。しかし、居住の用に耐えるかどうか、支障があるがどうかの判断は、いわば物理的、即物的に行うだけではなく居住者の精神衛生的な側面にも配慮して行うべきです。畳は日本家屋の最も基本的な構成要素で、清潔な畳は健康で快適な生活にとって欠かせない条件ですから、賃借人は社会通念に照らして相当と判断される時期には、賃貸人に対し修繕義務の履行としての畳替えなどを要求できるというべきです。

 

全日本畳組合連合会の広報では「2-3年で裏返し、3-5年目で表替え、10-20年で畳替え」などとされています。上記相当性の判断にあたってもこういったころ合いを参考にすることができるでしょう。

また、通常の家具の設置によるへこみ、雨漏り等によるふやけやカビなどを理由とする畳の表替えは賃貸人の負担とするのが相当ですが、賃借人の手入れ不足によるカビやタバコの火による焦げ、ひっかき傷は賃借人の負担で補修すべきものと考えるべきでしょう。

壁の日焼け

それでは、壁の日焼けについてはどうでしょうか。

壁が日焼けしたからといって居住の用に支障が大きいといえないのは畳の傷みと同様です。壁の日焼けを単なる美観の問題とすれば、上記のとおり「賃借人は建物の経年変化は甘受するべき」というのが判例の立場ですから、賃貸人に壁の塗り替えなどを要求するのは困難でしょう。

しかし、建物を風雨から守り続けるためには、ひび割れが生じたりする前に壁を塗り替えることが必要であり、一般にその目安は築後7-10年といわれています。やはり、上記目安を参考にして、この場合も賃借人は家主に対し修繕義務の履行としての壁の塗り替えなどを要求することができるというべきです。

賃借人の側に修繕義務がある場合

借家契約でも、修繕を賃借人の側の負担とし、あるいは賃貸人には修繕義務がないと特約すること自体は有効と解されます。また、賃料が相当低く定められているような場合などは、そのような特約がなくても、賃貸人に修繕義務がないとみなされる場合があります。

畳替えや壁の塗り替え等も上記特別の事情がある場合は、むしろ賃借人が自分でこれを行わなければなりません。

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