模様替え

模様替え

入居者は、「壁紙のデザインが気に入らないので取り替える。その費用を賃貸人側で負担してほしい」と主張することができますか。

賃借人の保管義務

入居者が壁紙の取り替えを希望する場合、賃貸人と話し合いをして了解のもとに取り替えることが望ましいことはいうまでもありません。賃貸人の了承が得られない場合に、賃借人が壁紙を取り替えてよいかどうかという問題になります。

この点、賃借人には、賃借物を「善良なる管理者の注意」で保管する義務があり(民法400条、善管注意義務といいます)、形状を変更するなどの行為によって賃借物の価値を低下させたりしないよう注意しなければなりません。

したがって、特殊なデザインの壁紙であったり、壁紙の交換により部屋の美観を害するなどのほか、取り替えによって部屋の価値が低下するとみられるような場合には、債務不履行(保管義務違反)となり、損害賠償責任を問われてしまいます。

賃借人としては、賃貸人の承諾を得ない壁紙の取り替えは慎重に考える必要があります。賃貸人側が、このままでは次の賃借人に貸せないと思うようなデザインの壁紙は避け、賃貸借終了時に原状回復費用として再取替費用を請求されることは最低限覚悟しておくべきでしょう。

壁紙の取り替えが債務不履行となる場合でも、賃貸人のほうから直ちに賃貸借契約を解除できるということにはなりません。壁紙を取り替えるだけでは、賃貸人と賃借人との信頼関係を破壊するようなものではないのが通常でしょうから、契約解除が認められない場合が多いと考えられます。

必要費償還請求権

必要費というのは、建物の使用収益に必要な費用、つまり、これを支出しないと通常の居住に差し障りがあるような費用のことをいいます。

必要費は、賃貸人の負担とされ、賃借人が必要費を支出した場合には、直ちにこれを賃貸人に請求できるとされています(民法608条1項)。ただし、必要費を賃借人に負担させるという特約が契約書に記載されていないか注意しておく必要があります。

壁紙交換の場合、既存の損耗が激しいようですと、取替費用が必要費になり、賃貸人の負担とされる場合も考えられます。

しかし本問のように、入居者が、単にデザインが気に入らないという理由で、続けて使用することが可能な壁紙を交換しでも、必要費とはならず、法律上賃貸人の負担を求めることはできません。

有益費償還請求権

物の客観的価値を高めるための費用を有益費といいます。壁紙の取り替えについても、普通の最高級の壁紙に取り替えたような場合には、部屋の客観的価値を高めたことになり、有益費になるということができます。

有益費を支出した場合、必要費のように、直ちに賃貸人に請求というわけにはいきませんが、賃貸借が終了して明け渡す時点で、なおその壁紙によって部屋の価値が高まっているといえる場合には、増加した価値に相当する金額を賃貸人に対して請求できます(民法608条2項、198条2項)。

なお、有益費について契約書で特約がなされている場合がありますので、注意する必要があります。

その他の内装設備の取替えの場合

以上は、壁紙に関することですが、同じことは、建物内のその他の内装設備などについてもあてはまります。ただし、その他の内装設備の場合には、それら自体が有価物であることがあり、その設備により建物を損傷することがあり、また、その取替えにより、電気の容量などに影響を与えることがあるので、その考慮も必要となります。

Copyright(C) 賃貸用法について All Rights Reserved.