不誠実敵対的態度

不誠実敵対的態度

賃借人はいつ訪ねても不在で、手紙にも返答をもらえません。たまに道で会っても、まともな会話に応じようともしません。賃貸人は賃貸借を解除できますか。

建物賃貸信契約の特性

建物の賃貸借契約は相当長期に及ぶことが予定される継続的関係ですから、契約当事者間の信頼関係が重要であるとされています。賃貸借契約における賃借人の義務の主要なものは、賃料支払義務、用法道守義務、物件保管返還義務、無断譲渡転貸をしないことなどです。

物件と賃料の保全を基本的関係とする賃貸借関係の場合、信頼関係というのはその物件の経済的価値の保持、賃料支払いの確実性などの関係に重点があるのはもちろんですが、継続的契約における人的要素に着目すれば、契約当事者の品性、職業あるいは態度等の人的関係も賃借人の前記諸義務が誠実に履行されるか否かの判断基準のーつとして無視できないものがあります。

建物の賃貸借契約は賃借人にとって生活の本拠に関する契約ですから、借地借家法は賃借人を保護する立場で制定されています。賃借人に契約違反がある場合でも、賃貸借契約の継続を著しく困難にするような背信行為がある場合に限って賃貸借契約を解除することができるとしています(最高裁昭和27年4月25日民集6巻4号451頁)。どのような場合に信頼関係が破壊されるかは、その賃貸借契約の実情、賃借人の義務違反の内容、程度、賃借人の受けた被害の程度等を検討し総合的に判断されることになります。

賃料改定・建物保存の必要がある場合

本問のような賃借人の態度は人間として不誠実な態度ではありますが、賃料増額について利害の対立する賃借人の立場を考えると、契約違反とまではいえないと考えます。賃貸人が賃料増額をしたい場合、調停・裁判上の手続きで実現できます。建物保存の必要がある場合では、賃借人は保存が不要と考え協力しないこともあるので、やはり契約違反とはいえないと思います。賃貸人は建物の保存に必要な行為は賃借人の意思に反してもこれを行うことができます(民法606条2項)。賃貸人は仮処分などによって賃借人の占有部分に立ち入り、保存に必要な工事ができます。

賃借人の長期無断不在・協調性の欠如

賃借人が長期無断不在・賃料増額協議拒否など不誠実で協調性を欠く場合に、総合的に判断して信頼関係の破壊とみなした裁判例もあります。

裁判所は、「古い木造2階建共同住宅ではそこに居住する賃借入は防犯、防災、静謡、衛生の保持に努め、健康で文化的な生活を保持するため長期不在の場合には賃貸人に連絡するか、あるいは平素から室内の日照、通気、通風に意を用いる等賃貸人である管理者に協力していかなければならない特質がある。賃借人はこのような状況を理解し協調性を保っていくことが社会通念上必要である。賃借入の長期無断不在、これを正当として顧みない姿勢、長期不在で雨戸・窓・玄関を閉鎖しているため日照、通風不足等による貸室の腐朽ないし損傷及び賃借人としての協調性の欠加により、信頼関係の修復が困難な程度に破壊されている」として契約解除を認めています(東京地裁平成6年3月16日判タ877号218頁)。

賃借人の契約に直接関係のない背信行為と契約解除について

一般に当該契約から生じる債務と直接関係のない背信行為が契約の解除原因としてどう評価されるのか問題です。その実質的争点は、これらの行為が本来の賃借物件の用法違反に包含されるか、ないしこれと同一に評価され得るかに帰着します。賃借人が賃貸人に傷害を負わせたケースで、裁判所は右行為が家屋の明渡しに関連するものであり、ガレージを勝手に建築するなどの用法違反や謝罪・損害賠償を全くしない態度から、契約上の義務違反として評価し解除を認めています(最高裁昭和43年9月27日判時535号50頁)。

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