生活用室内工事
生活用室内工事
空調機の室外機と衛星放送受信用アンテナをベランダに設置するために、どうしても壁に穴をあけなければなりません。賃貸人の承諾がなければ穴をあけてはいけませんか。
入居者の保管義務(善管注意義務)
入居者が賃借している建物を毀損してならないことはいうまでもないことです。通常の建物賃貸借契約では、「増改築、模様替え、造作の取り付けなど原状を変更する一切の行為について賃貸人の承諾を必要とする」との特約のある場合が多いのですが、そのような特約のない場合でも、賃借人は建物を通常の状態に維持、保管すべき義務があります。この通常の使用方法で使用すべき賃借人の義務を法律上「善良な管理者の注意義務」(善管注意義務ともいいます)といいます(民法400条)。
壁に穴をあけること
空調機の室外機と衛星放送受信用アンテナをベランダに設置するためとはいえ、壁、しかも外壁に穴をあけることは賃借物の毀損になり所有権の侵害行為となります。そのようなことをするためには賃貸人の承諾を得る必要があります。なお、将来、建物賃貸借契約が終了して、賃借人がこの建物から出ていくときに、空調機やアンテナを撤去しないで、賃貸人に時価で買い取ってもらうべく、造作買取請求権を行使するには、その設置について賃貸人の承諾を得ておくことが必要です(借地借家法33条)。
もし賃貸人の承諾を得ることなく、壁に穴をあけたときには、賃貸人が工事差止めを求めてくることも考えられます。賃借人が工事をあきらめるか、賃貸人との話し合いで承諾が得られれば問題はありませんが、差止請求を無視して工事を強行してしまったときには、賃貸人は契約を解除してくるかもしれません。
結論からいえば、壁に穴をあけたといっても、建物の損傷の程度は軽微ですし、原状回復も容易なので契約解除まで認められることはないでしょう。賃借人に契約違反があっても、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するほどのものでない限り、損害賠償の問題はともかくとして、契約解除までは認められないのです。しかし、賃貸人が建物が損傷されたとして損害賠償の請求をしてきたときには、その請求は認められることになるでしょう。損害賠償額がいくらになるかは、壁にあけられた穴を埋めるなどして原状回復するのに必要な費用などが目安になるでしょう。
特別の事情のあるとき
都会地のマンション、アパートなどでは、空調機を設置したり衛星放送を受信することが当たり前になっています。同じマンション、アパートの他の入居者の多くがすでにそのような設備を備えているような場合でも、賃貸人の承諾が必要かは問題となるところです。賃貸人が、あなたの場合に限って、承諾を求めてもこれに応じないときには、承諾がなくとも、壁に穴をあけてもよいと考えられるケースもあり得ます。社会経済状況の変化によって、空調機を設置したり、衛星放送を受信することが、当該マンション、アパートについてはすでに通常の使用方法となっていると考えられるかもしれませんし、賃貸人が承諾しないこと自体が信義則違反、不法行為となると考えられるケースもあり得るからです。賃貸人が改装を承諾するかのような期待を賃借人に抱かせたような事情のあるときには、賃貸人は特段の理由がない限り改装を承諾すべき信義則上の義務を負うに至り、そのような場合にも承諾しないときには、賃貸人は信義則上の義務違反による不法行為責任を負うこととなり、賃借人は逆に賃貸人に損害賠償の請求ができるとした裁判例があります(東京地裁平成6年2月21日判時1511号83頁)。ただし、建物賃貸人は、賃借人が電話設備を設置する工事やそのための建物変更工事に承諾・受忍義務を負わないという裁判例もあります(東京地裁昭和60年8月30日判タ611号74頁)。