1年ほど前のことだ、フジ・メディア・ホールディングスが、保有するグループ会社の産業経済新聞社の株式売却を、牛丼チェーンのすき家を展開するゼンショーホールディングスに持ちかけた。フジ関係者への取材で明らかになった。
結局、ゼンショー側が首を縦に振らなかったため、売却話は立ち消えになったが、実現していれば、民放キー局と全国紙が系列関係にある日本のメディア業界の慣例が壊れる一大事件になっていたかもしれない。1年前の話とはいえ、フジ側にその意志があること自体がニュースといえた。
この話はこれまで報道されていないため、知っている人はほとんどいないはずだ。しかし、フジ関係者によると、実は全国紙記者がこの情報をより正確に把握していたという。
ただ、彼らがそれを報道することはない。というのも客観報道を旨とする大手メディアはこうした売却や合併話について、実現することが決まらない限り、ストレートニュースとして報じることはない。同業という身内意識もあったかもしれないが正確性を担保するためでもあり、報じなかったこと自体は悪いことではない。
一方で、こうした手堅い報道姿勢もあってか、あらゆる情報が瞬時に駆け巡るインターネット上には、大手メディアが情報を一部しか報じていないと疑問視するコメントが数え切れないほど並ぶ。疑問は疑念へと膨らみ、既存の大手メディアに対する信頼が失墜したと指摘される機会も増えた。
その背景には、続出する誤報など質の劣化や、過剰に保護されたメディア企業自体の既得権益化もあるだろう。
厳しい目を向けられているのは、経済ニュースを扱うわれわれ経済メディアも例外ではない。表0‐4にもある通り、経済記者と普段から接している企業広報からは厳しい批判の声が上がる。
なぜこうなってしまったのか。創刊100周年記念号の本特集では、経済ニュースを疑うことから始めた。読者がこれまで知る機会のなかった経済ニュースの裏側を明らかにしつつ、ニュースの作られ方、ニュースの中身、そしてニュースの流通という3段階で、問題点を掘り起こしていく。
「経済誌が株特集を企画すると株価がピークを迎える」。そうやゆされる本誌にもメスを入れた。過去の失敗をざんげすることで、次の100年につなげていく考えだ。