HOMEサイトマップ・目次>エネルギー問題の解説・見解>アメリカのシェールガス生産は2012年に頭打ち?−シェールガスとタイトオイル(シェールオイル)の減退率は大きい−
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アメリカのシェールガス生産は2012年に頭打ち? 10.29.2012, last update 02.23.2013
Shale gas production in U.S. hits a ceiling in 2012?
シェールガスとタイトオイル(シェールオイル)の減退率は大きい
Decline rates of shale gas and tight oil are steep

シェールガスとタイトオイルは赤の女王(Red Queen)仮説

Barnett、Haynesville、Fayettevilleシェールガス田はすでにピークを過ぎた


シェールガスやタイトオイルの井戸の寿命は短い

シェールガス事業が儲からないため、タイトオイル事業にシフトした

「シェール革命」は、案外しょぼい革命かも


シェールガスやタイトオイル(俗称シェールオイル)などの非在来型天然ガスや石油に対する期待が高まっています。しかし、シェールガスとタイトオイルの減退率(衰退率)は非常に大きいです。「シェールガス革命」+「シェールオイル革命」→「シェール革命」などといって囃し立てて良いのか疑問です。2012年10月25日のNHKのクローズアップ現代でも、「“シェール革命”の衝撃 世界をゆるがす新資源」が放映され、大きな反響を呼んだようです。しかし、NHKが主張するように本当に世界をゆるがす新資源になれるでしょうか? なれなかったら日本にとっても世界にとっても大変なことになります。メディアはインパクトが大きくて、自分の描いているシナリオに都合の良いところだけを選んで放送します。少しクールになっていただくために、今回はシェールガスとタイトオイルの減退率を紹介します。


シェールガスとタイトオイル(シェールオイル)は赤の女王仮説
ルイス・キャロルの小説「鏡の国のアリス」に赤の女王(Red Queen)が登場します。進化論には「赤の女王仮説」というのがあります。生物の種は絶えず進化を続けなければ絶滅する、「同じ場所にとどまるためには、絶えず全力で、かつ、さらに速く走り続けなければいけない。それはまさに、現にあなたたちすべてがやっていること。」という仮説です。

「鏡の国のアリス」の赤の女王
参考の絵 ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」の赤の女王
出典:(参考文献1)

シェールガスとタイトオイル(シェールオイル)も生産量を維持拡大するためには、絶えず全力で、かつ、さらに加速して井戸を掘り続けなければなりません。


シェールガスの減退率
シェールガスの減退率の曲線(生産量の低下曲線)はアメリカエネルギー省エネルギー情報局(DOE/EIA)のAnnual Energy Outlook 2012(AEO2012)=「エネルギー見通し年鑑2012年版」で明らかにされています。


アメリカの代表的なシェールガス田の生産量推移
図−1 アメリカの代表的なシェールガス田の生産量推移(平均)(縦軸単位:×100万立法フィート/年)
(1,000×100万立法フィート/年の横線が26,853,000立方メートル/年に相当します)
出典:(参考文献2)米国エネルギー省(DOE/EIA) Annual Energy Outlook 2012 (June 2012)、エネルギー見通し年鑑2012年版 (pp.59)

生産量が多いのは1年目と2年目くらいで、3年もすると衰退してしまいます。右上中抜き図のEURとは、Estimated ultimate recovery (or Estimated ultimate reserves)のことで推定究極埋蔵量のことです。大きいガス田ほど早くEURが100%に近くなります。シェールガス井の寿命は短いです。


アメリカ全体のシェールガス生産はそろそろピークを迎えそう
Barnett、Haynesville、Fayettevilleシェールガス田はすでにピークを過ぎた
アメリカのシェールガス革命の主役は、下の図−2のようにBaranettシェールガス田(テキサス)やHaynesville(テキサス、ルイジアナ)やFayetteville(アーカンソー)でした。現在はMarcellus(ペンシルヴェニア、ウエストヴァージニア)の生産増が寄与しています。一方、他のガス田は頭打ちになっています。

アメリカのエリア別シェールガス生産量の推移
図−2 アメリカのエリア別シェールガス生産量の推移

(縦軸は生産量 ×10億立方フィート/日)
出典:(参考文献6)USエネルギー省エネルギー情報局 (DOE/EIA)のホームページから
What is shale gas and why is it important? Last Updated:December 5, 2012
http://www.eia.gov/energy_in_brief/article/about_shale_gas.cfm

図−1と図−2を眺めながら、今後のアメリカのシェールガス生産量を予測してみてください。油田にしてもガス田にしても採算の良い埋蔵量の大きいものから開発されていきます。そして、大規模なガス田は少なく、規模が小さくなるにしたがって数は増えます。このことを考慮して、図−1の生産下降カーブを、時系列的に大きいものから小さいものに並べて、積算していったらどういう曲線になるでしょう。頂上がかなり左に偏った山のような形になるはずです。シェールガスは、近いうちにピークを迎えて、急激に衰退していくことになると思います。 図−2によれば、そろそろアメリカのシェールガス生産はピークを迎えそうです。もし、生産量を維持するのであれば、今後はものすごい数のシェールガス井を掘削しないといけません。(図−2では、Barnett、Fayetteville、Woodfordが水平を保っていますが、Haynesvilleは下降しています。図−1の生産下降カーブからすると、そろそろ右肩下がりになってもおかしくありません。)

タイトオイルの減退率
タイトオイル(シェールオイル)の減退率の曲線(生産下降カーブ)も、ノースダコタ州の鉱物資源省(North Dakota Department of Mineral Resources)の資料で明らかになっています。下の図−3をご覧下さい。シェールガスの減退率の曲線とそっくりです。3年目に入るともう枯れてしまうのです。タイトオイルの井戸の寿命も短いです。タイトオイルはあだ花かも知れません。事実、タイトオイルが増産されているのに、アメリカのガソリン価格は一向に下がっていません。

バッケンのタイトオイルの減退曲線
図−3 バッケン(Bakken)タイトオイルの典型的な生産量推移
(縦軸は生産量 バレル/日)
出典:(参考文献4)North Dakota Department of Mineral Resourcesの資料から

シェールガス事業が儲からないため、タイトオイル事業にシフトした
シェール革命は、案外「しょぼい革命」かも
タイトオイルが騒がれ出した理由は、天然ガスの価格が低落して、シェールガス事業が儲からなくなったので、業者がタイトオイル事業にシフトしたからです。「シェールガス革命」+「シェールオイル革命」→「シェール革命」などといってメディアが囃し立てていますが、何だかあやしい革命です。革命であったとしても、図−1から図−3を見れば判るように、ずいぶんと「しょぼい革命」だと思います。シェールガスもタイトオイルも、埋蔵量だけは莫大であることに違いないので、「革命」などという大げさな言葉を使ってもウソにはならないのです。

ノースダコタ州では2010年までに19,000本以上の油井とガス井が掘削されています。NHKで放映された「シェールオイルを掘り起こせ」やクローズアップ現代「“シェール革命”の衝撃世界をゆるがす新資源」の舞台はウィリストン(Williston)という街で、次の図−4の赤枠の中にあります。バッケン(Bakken)のタイトオイルで有名です。

ノースダコタ北西部の油井とガス井の分布
図−4 ノースダコタ北西部の油井とガス井の分布
出典:(参考文献5)North Dakota Department of Mineral Resourcesの資料から

次の図−5は、ノースダコタ北西部の三次元地層モデルです。在来型の油・ガス田はすでに掘り尽くしてしまい、新たにBakken Three Forksという深い地層からタイトオイルを回収しているのでしょう。私には落ち穂拾いのようにしか思えません。世界の石油地図を塗り替えるほどのポテンシャルがあるとはとても思えません。

ノースダコタ北西部の地層構造
図−5 ノースダコタ北西部の地層構造
出典:(参考文献5)North Dakota Department of Mineral Resourcesの資料から

表層にはウラニウム(うわっ! 掘った土や岩石をどこに処分したのでしょう。ドイツではシェールガスを掘ろうとして、水銀鉱床を掘り当てて、土壌汚染を引き起こしました)や石炭がありますね。下の方にはカリウム(Potash)もあります。
参考文献5のファイルを開くと、詳しい三次元モデルを見ることができます。


最後に、Rune LikvernによるBrighamとBakkenのタイトオイルの生産が「赤の女王仮説」になってる図を紹介します。

Bakkenタイトオイルをめぐる「赤の女王仮説」
図−6 Bakken タイトオイルの「赤の女王仮説」を裏付けるデータ
生産井の井戸の数をどんどん増やさないとタイトオイルの生産量は増えない
出典:(参考文献1)
Is Shale Oil Production from Bakken Headed for a Run with "The Red Queen"? by Rune Likvern on September 25 (2012)
http://www.theoildrum.com/node/9506

井戸の数をいつまでも増やすことができるでしょうか。井戸の数が頭打ちになった時、「シェールオイル革命」は終わりです。図−1のシェールガス井の減退曲線と、図−3のタイトオイル(シェールオイル)の減退曲線を見れば、「シェール革命」が長続きするとは考えられません。「シェールガス革命」+「シェールオイル革命」→「シェール革命」が本当かどうかは、あと2、3年様子を見ていれば判るでしょう(というより、先が見えてしまっています)。「シェール革命」は、案外しょぼい革命かも知れません。

(最終更新2013年2月23日)

(参考文献1)Is Shale Oil Production from Bakken Headed for a Run with "The Red Queen"? by Rune Likvern on September 25 (2012)
http://www.theoildrum.com/node/9506
(参考文献2)米国エネルギー省(DOE/EIA) Annual Energy Outlook 2012 (June 2012)、エネルギー見通し年鑑2012年版(pp.59)
http://www.eia.gov/forecasts/aeo/pdf/0383(2012).pdf
(参考文献3)原出典 米国エネルギー省(DOE/EIA)
http://www.energybulletin.net/stories/2012-10-26/shale-oil-the-latest-insights
(参考文献4)North Dakota Department of Mineral Resourcesの資料から
https://www.dmr.nd.gov/oilgas/presentations/ActivityandProjectionsWilliston2010-08-03.pdf
(参考文献5)North Dakota Department of Mineral Resourcesの資料から
https://www.dmr.nd.gov/oilgas/presentations/UpdatedCube2011-02-12.pdf
(参考文献6)USエネルギー省エネルギー情報局 (DOE/EIA)のホームページから
What is shale gas and why is it important? Last Updated:December 5, 2012
http://www.eia.gov/energy_in_brief/article/about_shale_gas.cfm

この記事に関連する本ホームページ内の記事へのリンク
「アメリカが石油輸出国になる? World Energy Outlook 2012」
「シェールガス革命」はエネルギー危機日本の救世主か?
「シェールガスブームが失速?(1)」−シェールガス頼みの危ない日本のエネルギー政策−
「シェールガスブームが失速?(2)」−住民の健康と環境への深刻な影響−
「シェールガスブームが失速?(3)」−IEAもDOE/EIAも埋蔵量を下方修正−
「シェールオイル」とオイルシェール−シェールオイルを掘り起こせは間違い

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