留学生便り
英国統合大上級指揮幕僚課程
3等海佐 阿部 直樹
私は、イングランド・バッキンガム州にあります英国国防語学学校(DSL: Defence School of Languages)において約3ヶ月間の英語教育を受けた後、同オックスフォードシャー州にあります英国統合軍指揮幕僚大学(JSCSC: Joint Services Command and Staff College)の上級指揮幕僚課程(ACSC: Advanced Command and Staff Course)に、留学生として在籍しています。本課程期間は、平成24年8月から平成25年7月までの約1年間です。
JSCSC
本課程は、わが国における陸海空各自衛隊幹部学校の指揮幕僚課程に相当し、陸海空軍の英士官及び留学生に対する統合教育を行っています。課程教育項目は以下の通りです。
課程教育項目 |
各軍種教育(陸軍、海軍、空軍、統合軍) |
紛争及び国際システム(国際システム、国内政治、大戦略、国家安全保障戦略、 国際法、倫理) |
指揮、統率、管理 |
防衛政策、戦略計画 |
国際安全保障研究 |
軍事作戦 |
軍事行動 |
統合図上演習 |
紛争の現実 |
本課程の最大の特長は、キングス・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)との提携です。英国統合軍指揮幕僚大学には、キングス・カレッジ・ロンドンの教授陣が常駐しており、学生に対する講義や論文指導を行なっています。これにより、学生は、大学院レベルの高等教育を受けることができます。また、選抜試験に合格した学生は、オプションとして、キングス・カレッジ・ロンドンの修士課程を履修することができます。
講義風景
勉強は極めてハードです。学生は、多くの課題や試験をこなさなければなりません。以下は、課題・試験の一覧です。
月 | 課題・試験 |
10月 | 修士課程選抜試験(論文) |
11月 | 政策・戦略論文(4,000字) |
口頭即答試験1 | |
1月 | 防衛政策・戦略計画試験 |
2月 | 作戦論文(6,000字) |
3月 | 口頭即答試験2 |
4月 | 修士課程特別論文(6,000字)※ |
5月 | 修士課程試験(論文)※ |
6月 | 作戦要務試験 |
防衛研究論文(10,000字)(15,000字※) |
※修士課程履修者のみ
この他にも、学生には大量の学習資料が与えられ、それらを読みこなした上で講義に臨むことが求められます。毎日が時間との闘いと言っても過言ではありませんが、同時に、毎日がこの上なく楽しく、充実しているので、ハードな日々も苦ではありません。
本課程のもう一つの特長は、留学生の多様さです。学生数262名のうち、留学生は49ヵ国87名であり、学生全体の約3割を占めます。留学生派遣国は以下の通りです。
留学生派遣国 |
アフガニスタン、アメリカ、アラブ首長国連邦、イエメン、イタリア、イラク、インド、インドネシア、ウガンダ、ウクライナ、エストニア、オーストラリア、オマーン、オランダ、カザフスタン、カタール、 ガーナ、カナダ、韓国、クウェート、グルジア、ケニヤ、コロンビア、サウジアラビア、シンガポール、スーダン、スペイン、中国、チリ、デンマーク、ドイツ、トルコ、ナイジェリア、ニュージーランド、日本、ノルウェー、パキスタン、バーレーン、バングラデシュ、フィンランド、ブラジル、フランス、ボスニア、マレーシア、モーリタニア、モロッコ、ヨルダン、ラトビア、レバノン |
※国名は五十音順
これだけの数の国から、これだけの士官が集まる場というのは、世界中を探しても稀有なのではないでしょうか。留学生たちとは、可能な限り信頼関係を構築するよう努めています。留学生たちは、本課程修了後、それぞれの国に帰り、国防の中核として活躍することになりますが、彼らとの信頼関係を、将来わが国そして自衛隊にとって有意義なかたちで活かしていくことこそが、本課程に留学する私の使命と自覚しています。
親友たちと
以上述べたような特長を持つ本課程においては、学生、特に留学生からの発信というものが大きな意味を持ちます。本課程においては、講義に加え、ディスカッションの機会が週に2~3回程度設けられます。本ディスカッションの場では、特に留学生の発言が、それぞれの国を代表した発言としての重みを持っていると感じます。私も、日本代表として、わが国のことを積極的に発信するよう努めています。
ディスカッションの場のみならず、個人的な交流の場においても同様です。その一環として、私は合氣道を通じた日本発信に努めています。合氣道は、和の精神、すなわち日本の精神を象徴する武道です。合氣道に関するプレゼンテーションや演武をはじめ、英国人合氣道家の協力を得、大学内に合氣道部を新設し、稽古を行う等の活動を行っています。
合氣道プレゼンテーション(英国国防語学学校)
家族の協力も欠かせません。妻も日本発信の一環として、日本食を通じた留学生家族との交流に努めてくれています。妻の日本食は大好評で、留学生家族のわが国に対するイメージも、さらに高まったと確信しております。
ジョセフ・S・ナイは、21世紀の世界において重要なのは、軍事力、経済力のみならず、価値観や文化によって人々を魅了する力、すなわちソフト・パワーであると述べています。私は、本課程こそ、日本のソフト・パワーを発揮する最適の場であると考えています。
このような機会を与えていただいたことに心から感謝するとともに、わが国そして自衛隊に資するため、本課程において出来る限りのことをしたいと考えています。
本課程に興味のある方は、大学ホームページ「ACSC Course Brochure (PDF)」をご覧下さい。
http://www.da.mod.uk/colleges/jscsc/acsc