1976年4月5日、和光高校の入学式を数日後に控えて、鈴木亜里さんという一人の少女は逝きました。翌77年、亜里さんのことが『翼は心につけて』という本になりました。78年には映画になりました。
当時北海道の水産高校の教員だった私は、この映画と出会ったおかげで、生徒たちとの関係を変えることができました。教員を辞めずにすみました。この映画の製作会社「翼プロダクション」山口社長、亜里さんの父親・俊郎さんと知り合うこともできました。
私は90年に和光中学に移ってきましたが、映画『翼は心につけて』の鑑賞が三年生の学年行事として組まれていることを知り、本当に嬉しかったことを思いだします。
ところが、95年だったでしょうか。フィルム劣化を理由に借りられなくなりました。思いあまって鈴木俊郎さんに電話しましたが、道は開けませんでした。『翼は心につけて』鑑賞は、ここで終わるはずでした。
それから数ヵ月後のことでした。なんと、俊郎さんからフィルムの寄贈を受けたのでした。以来、大切に扱ってきましたが、フィルムの経年変化と映写機の劣化が重なり、何度かフィルムが切れる事態に見舞われました。見かねた中学親和会が、05年に数十万円の予算を組んでDVDにしてくれました。
昨年、「和光中学は『翼は心につけて』のフィルムをお持ちなのでしょうか?」という問い合わせが三件ありました。インターネットで検索して、和光中学校にたどりついたとのことでした。その都度、山口社長の承諾を得て貸し出しましたが、山口社長は「製作者冥利につきます。もう、この映画で収入を得ようとは思っていません。和光でお持ちのDVDの複製と貸し出しについては、先生の判断にお任せします」と言ってくれました。
そこで、DVDを複製して、図書室で貸し出すようにしました。和光中学以外の中学出身者にも是非、観てもらいたいと考えたからです。
今年の入学式の式辞(和光高校HP「校長室から」に掲載)で、DVD貸し出しの件と「翼の木」についてふれました。帰りがけに「翼の木」の碑の前で記念写真を撮っている入学生がいました。嬉しさあまって、「この角度からの方が良いですよ」と要らぬお節介を焼いてしまいました。
とにかく、多くの和光高校生に映画『翼は心につけて』を観てもらいたいと思っています。そして、一人ひとりが自分の心につける翼を見つけてほしいと願っています。
もちろん、保護者のみなさんにも観てもらいたいです。人間何歳になろうが、自分の翼を持ちつづけたいものだと思っています。
日時: 2010年9月15日 13:20