現場にアタック

2010年06月09日(水)

担当:近堂かおり

 

 

先週末に行われた日本陸上選手権からスタートの掛け声が、

「位置について」「用意」に代わって「オン・ユア・マーク」「セット」になりました。
国内の試合なのに、なぜ英語にしたのか、日本陸連の吉儀宏さんに伺ったところ...

 

 

    

    『大きな国際大会の掛け声は全て

     「オン・ユア・マーク」「セット」で統一されているので、
     そうした大きな大会に慣れてもらうのが1つ。
     もう1つは、「用意」の掛け声からピストルを撃つまでの時間が
     個人によって異なることが従来から指摘されていたので、
     「セット」という言葉に統一することによって

     かなり個人差を減らすことができると考えたためです』

 


確かに。国際大会に慣れさせるため、というのは分かりますよね。
もう一つの、日本語の「用意」だと言い方にばらつきがあるという問題はどういうことかというと、
「よーい」だったり「よーーーい」だったりするので、スタートしにくいという選手の声もあるそうです。

折りしも、世界の陸上界では今、フライング防止のために

スタートのルールの見直しが進められている。
心理作戦のためにわざとフライングする選手がかなり多いので、
今年から国際大会ではフライング1回で即失格となったのです。
この国際ルール改正のタイミングに合わせて、英語へのなれ、ばらつき解消!
ということで、日本の大きな大会は掛け声を英語にしたということなのです。

 

 

この日の日本選手権は11月のアジア大会の日本代表選考会も兼ねた大きな大会。
しかも女子100m、200mの福島千里さんには日本記録の更新が期待されていた。

実際いざ英語で、となったらどんな様子だったのか。
この大舞台でスターターを務めた香川陸上競技協会の大西力さんは...

 

 

   

    『ものすごい重圧がありました。
     英語で言わなきゃいけない上に、一発でフライング失格となってダブルパンチ!
     私は女子の200m予選、決勝を撃ったんですが、

     「セット」といって挙げた手がカタカタ震えてしまいました(苦笑)。
     1組終わってもう大丈夫だと思ったら2組目が福島千里さんだったので、
     これでフライング出したらどうしようとまた緊張してしまいました』

 


ほかのスターターの皆さんも、緊張のせいか、つい早撃ちになってしまって、
いつも通りにいかなかったという方がほとんどだったそうです。
日本選手権の前に、香川選手権という学生の大会で1回英語スタートを練習しただけで本番・・・。
「セット」から「バン!」までは、1.7秒~2.0秒がよい、とされているのですが、
初めのうちは1.3秒で「バン!」となっていたそうで、

その場でそのデータを見て修正しながら頑張ったそうです。

 

 

一方の選手の方はどうだったかというと、

日本選手権に出るような一流の選手は英語スタートに慣れている様子。
でも、まだ大舞台を知らない学生たちはやはり戸惑っていた。

 

 

英語を使うことには関係者の間でも賛否があるものの
決まった以上は、それでスムーズにやろうというのが、スターターたちの意見。
なのですが。
「日本語を使うからスタートがばらつくんだ」という指摘について

異議を唱えるという方がいらっしゃいました。

全国陸上競技スターター研究会の代表、野崎忠信さん。72歳。スターター歴50年。
1991年の世界陸上東京大会をはじめ数々の国際大会も経験している野崎さん。
「よーい」の掛け声が悪者になることについて、怒ってました。

 

 

    もう私は心外です。「位置について」から「用意」、「用意」から「ドン」までの

     タイムを取って、どのくらいのタイムで出れば一番、選手が出やすいか、
     統計的にずっと取って研究したんです。
     一組々々全部タイムを取って平均値も出してありますよ。
     私は英語で言っても日本語で言ってもそんなに違いはないと思うんですがね』

 


1964年の東京オリンピックの時から、全国大会や地方の大会などあらゆる大会で
「よーい...ドン」のタイムを計測して、
50年間、仲間たちとバラツキをなくすべく研究を続けてきた野崎さんは、
掛け声のばらつきは、日本語とか英語に関係ないと力説していらっしゃいました。

 

 

    

    『選手が同じような時間で静止するような掛け声というのがあるんですよ。
     やさしく言うんです。(低く静かな声で)「よーい...」と。
     「位置について」は大きな声で言う。
     そうするとこれからスタートするという気持ちでスターティングブロックにつく。
     それで今度は、よーい...と静かに言うとすっと腰を上げて止まる。
     「セット」も同じなんです。大きな声で言ったらだめなんです。

     日本選手権も見ましたが、まだ「セット」の声が高いね』

 

50年努力を続けている野崎さんにはスターターの誇りと信念を感じました。

選手に信頼され、選手を掛け声で統率できるのが理想のスターターだそうです。

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