現代日本の高等教育の原型は大正後期から昭和前期にかけて成立したのだが、初めてその見取り図を提供する書物として現れたのが本書である。従って得られるものは大きい。
例えば、新卒一斉採用はこの時期に始まったことがわかる。学生個人が知り合いを頼って卒業後に就職先を探していたものが、学生数の大幅増加に伴い、大学当局が一斉に斡旋(あっせん)し、卒業前に内定する現在のシステムに転換していったのである。縁故排斥=機会の平等化の要求は入社時期の一斉性に帰着したのだった。初の「就職協定」もこの時期に成立している。すべては大衆化に伴う「平等主義」の強い圧力によるものであり、改革は容易でないことが窺(うかが)える。
この日本型平等主義が今日マイナスに作用していることが明白なのが、日本の大学教員人事である。過度の年功序列制(能力に拠らず年齢に拠るという悪平等主義)に驚いた経済協力開発機構(OECD)から是正勧告を受けて何年も経(た)つ。競争原理が働かないのだからオリジナリティーのあるよい研究が生まれにくいのも当然で、それは日本の大学の世界ランキングの低さに帰結している。
日本の大学教員世界に能力主義が作動しない原因について、著者は特定有力大学による独占化の歴史を挙げている。特定大学が自大学出身者ポストの確保と拡大に勤(いそ)しんできた結果、競争を阻む「同系繁殖」的状態が永続化してしまったのである。
口を開けば「多様性」や「共生」を言いながら、それは驚くほど「開放性と流動性を欠い」ているのだ。欧米の大学では、自大学出身者は他大学教員になり、准教授はその大学では教授に任用しないのが大方の原則なのである。日本の大学教授会に自らの身を切る抜本的改革が望めそうもない以上、同系大学出身者比率が高い大学・学部ほど国からの補助金・研究費を減らすなどの思い切った施策をとるしかあるまいというのが、率直な読後感である。
本書を通して日本の大学のあり方を根幹から変える発想が次々に現れ実現されていくことを望みたい。
(帝京大学教授 筒井清忠)
[日本経済新聞朝刊2013年5月19日付]
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高等教育、新卒一斉採用、年功序列、能力主義
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