日本経済新聞

5月24日(金曜日)

日本経済新聞 関連サイト

ようこそ ゲスト様
  • ヘルプ

コンテンツ一覧

ブックレビュー

高等教育の時代(上・下) 天野郁夫著 現代につながる見取り図

2013/5/19付
小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
保存
印刷
リプリント
共有

 現代日本の高等教育の原型は大正後期から昭和前期にかけて成立したのだが、初めてその見取り図を提供する書物として現れたのが本書である。従って得られるものは大きい。

(中央公論新社・各2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)
画像の拡大

(中央公論新社・各2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 例えば、新卒一斉採用はこの時期に始まったことがわかる。学生個人が知り合いを頼って卒業後に就職先を探していたものが、学生数の大幅増加に伴い、大学当局が一斉に斡旋(あっせん)し、卒業前に内定する現在のシステムに転換していったのである。縁故排斥=機会の平等化の要求は入社時期の一斉性に帰着したのだった。初の「就職協定」もこの時期に成立している。すべては大衆化に伴う「平等主義」の強い圧力によるものであり、改革は容易でないことが窺(うかが)える。

 この日本型平等主義が今日マイナスに作用していることが明白なのが、日本の大学教員人事である。過度の年功序列制(能力に拠らず年齢に拠るという悪平等主義)に驚いた経済協力開発機構(OECD)から是正勧告を受けて何年も経(た)つ。競争原理が働かないのだからオリジナリティーのあるよい研究が生まれにくいのも当然で、それは日本の大学の世界ランキングの低さに帰結している。

 日本の大学教員世界に能力主義が作動しない原因について、著者は特定有力大学による独占化の歴史を挙げている。特定大学が自大学出身者ポストの確保と拡大に勤(いそ)しんできた結果、競争を阻む「同系繁殖」的状態が永続化してしまったのである。

 口を開けば「多様性」や「共生」を言いながら、それは驚くほど「開放性と流動性を欠い」ているのだ。欧米の大学では、自大学出身者は他大学教員になり、准教授はその大学では教授に任用しないのが大方の原則なのである。日本の大学教授会に自らの身を切る抜本的改革が望めそうもない以上、同系大学出身者比率が高い大学・学部ほど国からの補助金・研究費を減らすなどの思い切った施策をとるしかあるまいというのが、率直な読後感である。

 本書を通して日本の大学のあり方を根幹から変える発想が次々に現れ実現されていくことを望みたい。

(帝京大学教授 筒井清忠)

[日本経済新聞朝刊2013年5月19日付]

高等教育の時代 上 - 戦間期日本の大学 (中公叢書)

著者:天野 郁夫
出版:中央公論新社
価格:2,940円(税込み)

「ライフ」の週刊メールマガジン配信中

人気記事をまとめてチェック >>設定はこちら

小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
保存
印刷
リプリント
共有
関連キーワード

高等教育、新卒一斉採用、年功序列、能力主義

【PR】

【PR】

ブックレビュー 一覧

(新潮新書・740円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

経営センスの論理 楠木建著
爆笑しながら「発想」磨く

 爆笑の一冊。とにかく事例が面白くかつ説得的。例えば「離婚」。ハードルが高そうだが、一度経験するとノウハウを獲得し、離婚コストはどんどん下がるとのこと。アメリカの航空会社などの「倒産ズレ」も同じ。
 あ…続き (5/23)

(ハヤカワ文庫・1040円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

KGBから来た男 デイヴィッド・ダフィ著
愛憎描く正統ハードボイルド

 スキンヘッドのタフガイ。旧ソ連のグラーグ(強制労働収容所)生まれの過去を持つ。近ごろ目立つグラーグものかと思えば、骨格は基本的にハードボイルドだ。それも、正統の。
 傲慢な依頼人への敵意、過去を隠し身…続き (5/23)

(山形浩生・守岡桜訳、白水社・各4000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

トロツキー(上・下) ロバート・サーヴィス著
史料から革命家の実像に迫る

 現代史は皮肉なものだ。
 レーニンと並ぶロシア革命の立役者、そしてスターリン体制への反対派指導者であったレオン・トロツキーは1940年に亡命地メキシコでソ連当局が放った刺客に暗殺された。フルシチョフに…続き (5/22)

新着記事一覧

最近の記事

【PR】

モバイルやメール等で電子版を、より快適に!

各種サービスの説明をご覧ください。

TwitterやFacebookでも日経電子版をご活用ください。

[PR]

【PR】

ページの先頭へ

日本経済新聞 電子版について

日本経済新聞社について