2013/05/03

うつ病と人事

 民間企業、公務員、教職員など全ての職場の人事担当者の方、特に幹部クラスの方々に注文したい事があります。

 現在では一般的で珍しくないうつ病に関しても、マスコミ報道における「こころの風邪」のような軽症の疾患ではなく、実は何割かの方が慢性化し生涯治療を要する疾患であることを理解する必要があります。当ブログでも「うつ病1/3の法則」で説明しています。

 ガンや心筋梗塞、脳卒中よりも復職困難な例も少なくありません。こういう誤解を生んだ原因は精神科医・マスコミに責任があると思いますが、治癒するまで休職しなさいという態度では、約2/3の患者さんが復職できず退職を余儀なくされることになります。

 もちろん経営者側の事情も考えると、世の中そう甘いことを言っていたら企業経営が成立しない事も十分理解しているつもりです。それでも多少のハンディを承知の上で退職しないで済むような勤務形態が成立しないか、検討して欲しいのです。子育てと仕事を両立する勤務形態を考え出すことと似たような所があります。もちろん患者さんの側にも働きに応じた報酬になることを覚悟する必要があります。  

 柔軟な人事異動も必要かと思います。人事異動は決まった時期にしかできない、本人の希望通りにしていたら混乱するという発想ではうつ病患者の復職を阻害しているケースも少なくないと思います。当院通院中の患者さんの例ですが、今まで2回休職し、合計2年以上休職しても改善せず復職できない方がいました。硬直化した人事で「休職時の部署に戻る必要がある。」と人事の責任者がずっと言ってきたのですがさすがに考え直し、患者さん本人が希望する部署に異動することになりました。そうしたら、すぐに症状改善し復職できました。 

 このように、ちょっとした職場環境の調整でうつ病の方も十分働けます。

 

 

2013/01/10

院長禁酒中Ⅱ

2011年11月発表したブログの第二弾です。

 当院ではアルコール依存症の治療は実施していませんが、実は自分自身が相当の大酒飲みです。しかしこのままでは働けなくなると思い平成23年6月10日より禁酒しています。本当はそろそろ仕事は半分程度にして、毎日飲んだくれの生活をすることを計画していたのですが、幸か不幸かこれから10年位まじめに働く必要が出てきたのです。細く長く生きるため、それまでは毎日ビール500mlを6本、休日は朝から飲酒し8本以上飲んでいたのを健康のため禁酒したのです。

 禁酒する前も開業以来10年以上一日たりとも休んでいませんでしたが、遺伝的に心筋梗塞や認知症になる可能性が高く(両親がその病気です)予防する必要があったわけです。禁酒すると1ヶ月もしないうちに、血圧・血糖値・中性脂肪の値が下がり、不眠が改善し、意欲も出てきました、さらに慢性の下痢も改善しました。自然とダイエットにもなり現在では-15kgでメタボ解消、心身ともに良い事ばかりです。こうなると飲酒して元に戻るのが恐ろしくなり禁酒が継続できています。精神科の医者は自分のことはあまり理解していないが、他人のこと・患者さんのことはよくわかるというタイプの人が多いように思います。自分に甘く他人には厳しいのです。僕も患者さんに禁酒を指示しておきながら自分は大酒飲んでいたわけです。

 大量のアルコール摂取は身体的疾患の原因になるだけでなく、精神的にも悪影響を与えます。うつ病で休職中の方が生活が乱れ朝から飲酒しているようでは復職できません。アルコールの害でいくら休職して治療してもうつ病は治りません。アルコールはうつ病、不眠、痴呆の発病原因にもなったりします。

 しかし、これでアルコール依存症が治癒したわけではありません。ちょっとしたきっかけで再飲酒する可能性が高いです、一時的にアルコールから離れているに過ぎないのです。

 自分でも一回でも飲酒したら,禁酒は終わりだと思っていましたが、昨年の11月友人の結婚式に出席し飲酒しましたがその後も禁酒が継続できています。さらに12月忘年会でも飲みましたがその後正月も一滴も飲んでおらず禁酒できています。治癒しないと思っていたアルコール依存症が今のところ経過良好です。アルコール依存者にとって禁酒より困難な、必要な時だけ飲酒するという状態、節酒・機会飲酒が達成できているわけです。

2013/01/01

うつ病 1/3の法則

 様々な精神疾患の中でうつ病程世間一般にも知られている病気はありません。テレビ、本、インターネット、講演会等でしばしば取り上げられており、実際家族や同僚、知人など身近な人にうつになった方が少なくないため国民的関心が高い結果と考えています。しかし、毎日実際患者さんを診察している臨床医としては一言申し上げたいところです。

 そういうマスコミ等で登場する精神科医の責任だと思いますが、どうしても楽観的な内容になっておりうつ病の実態とずれが生じている気がします。厄介なことに精神疾患はすべて明確な境界はなくインフルエンザのようにA型、B型、新型のように確定診断できないものですから混乱が生じます。うつ病と躁うつ病(双極性障害)、自閉症とADHD、アスペルガー障害の境界線はそもそもないのです。精神科医ごとにどの範囲をうつ病と考えるかバラバラなのです。もちろん私も主観的に診断しているわけです。

 うつ病は「きちんと治療すれば必ず治る。」「十分休養すれば治る。」「ストレスがたまらないようにすればうつにならない。」などと先入観を持っている患者さんや、家族、会社関係者も少なくありません。実際はそう簡単に治癒しないのでいかに説明し納得していただくか苦労する場合もあります。患者さんの中にはあまり改善しないため医療機関を転々とする人も少なくありません。そこで当院では、うつ病の経過を説明する時「うつ病1/3の法則」という言葉を使用します。

 不幸にもうつ病になった方は、経過が良好な1/3が治癒、つまり服薬・通院も必要なくなり発病前の状態まで改善する。次の1/3が服薬・通院を継続しながら仕事や家事・子育てが以前と変わりなくできる。経過が良くない1/3の方は通院・服薬しても元のレベルには戻らない、つまり後遺症を残す。以前のようにバリバリ仕事はできない、家事・子育ても十分にはできないということです。しかし、ほとんどの場合障害者レベルにはなりません。仕事や家事・子育てに対する考え方を修正して「無理して完璧にする必要はない。」という境地に立てれば十分生活していけます。

 うつ病の予後は決して楽観的ではなく、特効薬、決定的な治療法があるわけではありません、それで総力戦となるわけです。最近の風潮として薬物療法を否定的にとらえ、認知行動療法で根本治癒するという楽観論が広がっています。これも要注意です、認知行動療法で治癒した患者さんはそれを実施なくても治癒している可能性が高いと思います。うつ病だとすぐに休職させるつまり過剰診療、薬物療法を軽視する過少診療ともに患者さんには受けると思いますが、適切な治療はその中間にあるわけです。

 

2012/04/02

適応障害

 日頃の診療場面においても最も多いのが適応障害です。就職、進学、人事異動が集中する4月から5月が一番要注意の時期です。環境変化に伴うストレス因子、その他のストレスにより、日常生活、仕事、学業等において障害が生じ、今までのような生活ができなくなるストレス性の障害です。しかしまだうつ病のレベルにはまだ達していないので早期発見・治療の効果が一番期待できるのも特徴です。

 子供、思春期、成人を問わず様々な年齢で発病します。進学や就職、結婚、離婚、身内の死、失恋、転居、人事異動、経済的困窮、身体の病気など誰にでもいつでも起こりうる出来事がストレス因子になります。ストレス量が本人の処理能力を圧倒したことによる心理的な機能不全なので、本人の治療と並行して、原因となる環境の調整が必要となります。

 不安、ゆううつ、意欲の低下、焦燥、過敏、混乱、などの情緒的な症状のほか、不眠、食欲不振、全身倦怠感、易疲労感、ストレス性胃炎、頭痛、吐き気、発熱、めまいなどの身体的症状が自覚症状として出現します。身体的症状のみを訴える場合も多く、しかも身体的検査では確認できないため内科、脳外科、婦人科等では見過ごされることが多く、様々な医療機関受診後に来院されることも少なくありません。自律失調神経症とか更年期障害と診断されている方が多いようです。

 小学・中学・高校生の不登校も実は適応障害が原因であることが多いですし、40歳以上の方が人事異動・再就職等で発病するケースも少なくありません。軽症のうつ病と区別がつきにくい、もしくは同じ症状が認められます。放置していると本当のうつ病になることも少なくなく、注意が必要です。

 中等度以上のうつ病と異なり、少量の薬で改善しますし、環境調節、カウンセリングが有効と思われます。重症化する前にできるだけ早期に受診されることをおすすめします。

 

2012/02/06

「少し変わった人」が社会を動かす

 日頃、不登校で高校中退したりする患者さんと接する機会も多く、十代ですでに「人生あきらめた」という場合も多いのですが、そんなに悲観的になることなく、何か夢・目標を与えることができないかと考えています。周囲になんとなくなじめず、違和感を感じ結局学校に行くことを辞めたというパターンの人も少なくありません。会社に就職し、結婚している成人の方も実は対人関係で悩んでいるという人が多いようです。

 対人関係が苦手で「少し変わった人」の中にも本来優秀な方は少なくありません。芸術分野、例えば絵画、音楽、文学等に非凡な才能を持っておられる方もいます。暗記力が抜群の人もいます。一般的に芸術家の方は一風変わった、普通とは異なるタイプの人のほうが多数派ではないでしょうか。数学や物理学の天才肌の人もちょっと変わった人のような気がします。ただそういった方は、得意なこと苦手なこと、好きなこと嫌いなことの差が大きい傾向があります。対人関係が苦手でも、みんな何か特技・才能はあるはずです。芸術、数学・物理に限らずどんな分野でも良いのです、長い目で見ると将来何がその人にとって役立つかは若い頃にはわからないものです。中学・高校生は満遍なく勉強することも重要ですが、本人の才能を伸ばすという視点が大切かと思います。本人が適応しやすい環境で生活することが重要です。

 最近の例で説明すると大阪市の橋下市長、小泉元首相、芥川賞を受賞した作家、携帯情報端末の世界的大企業の創業者、著名な日本人メジャーリーガーなども「少し変わった人」のような印象を持ちました。普通の人ではそうした人には勝てません、社会を改革し動かす力はありません。これらの人は大成功例ですが、自分なりの成功体験を積むことは誰でも可能と考えます。精神科医は変わった人が多い職業の代表例です。そういう自分も該当します、なにしろ医学部に社会人入学し経済学部とあわせて10年間大学生をしていたわけですから。

 

2011/11/28

うつ病は早期対応策が重要

 うつ病は早期発見・治療が重要なのは当然として、早期の対応策が大切です。患者さんが休職に追い込まれるのを防ぐのが目的です。これは個人だけではできませんので雇用者側の積極的な協力が必要です。大企業では健康管理室があったりして、保健師、産業医の先生も常駐していますので対応策はスムーズに実施されると思いますが、それ以外では経営トップの意識改革と協力が必要になると思います。

 最近の当院受診者でうつ病と診断される方の、若年化が進み30代の前半の方が増えたような印象を持っています(当方時間がないため正確な数字は出していませんが)。その年代に一番負担がかかる従業員の年齢構成になっているのではないかと推測しています。対応策と言っても特別なものではなく、仕事上の負担を軽減することです。勤務時間を短縮したり、人事異動等で本人の負担を減らすことです。これはできそうで意外とできないものです、患者さん本人が納得しない場合も少なくありません。確かに現在の雇用状況では、そんなことを言い出せば失職する可能性もあるわけですから仕方ないとも思いますが。

 「完全に治るまでゆっくり休みなさい。」という精神科医や会社も多いのですが、それは医者の誤解であり、会社都合のセリフです。長期間休職することのデメリットを考慮していないだけでなく、休めばうつ病は必ず治るという誤った認識に基づくものです。確かに中等度以上に進行した場合は休職、入院も必要な場合もあります。しかし、外科でいうと不必要な手術をされた患者さんが当然不満を持つのと同じです。休職すればある程度の期間までは改善しますが、それ以後いくら休職期間を長くしても回復せず、停滞する飽和点が来ることは少なからずあります。2年も3年も休職しても失業の心配をしなくてすむのは公務員だけです。

 入院治療の効果は、日常生活を普通に送れるようになるというものて゛あり、就労できるレベルまで回復させるものではありません。日常生活と仕事ができるレベルは相当開きがあり、退院して翌日から出勤するというのはあり得ません。退院後しばらく外来通院する必要があります。医者のセールストークで、入院する必要性に乏しい軽症の患者さんが、入院すれば働けるようになると考えるのは過剰な期待となります。自宅より病院がゆっくり休養できると思いますか、僕は自宅が一番ゆっくりできます。(夫婦仲が極端に悪い場合などは、確かに病院が居心地が良いという場合もあると思いますが。)

 うつ病と診断された方の仕事上の負担を減らし、休職を防ぐことは患者さんだけでなく雇用者側にとっても利益になると考えてください、今で言うwin-winの関係です。

プラセンタ療法

 当院では「プラセンタ療法」を実施しています。プラセンタとは胎盤のことです、プラセンタ療法とは、胎盤より抽出された有効成分を内服や注射、または皮膚に塗布していろいろな疾患の治療に使う治療法です。当院では皮下注射で実施します。

 胎盤は、1個の受精卵からおよそ10ヶ月で60~70兆個まで細胞を増殖させ、胎児を形成する臓器です。胎盤は、胎児細胞が増殖する過程で、様々な細胞増殖因子やサイトカインを合成し分泌しています。その他、胎盤の中には、様々な有効成分、栄養成分、活性物質が含まれており、胎盤の薬効は古くか ら注目されていました。胎盤の中には下記のような有効成分が含まれていることが分かっています。

 タンパク質、脂質、糖質、ミネラル、ビタミン、アミノ酸、様々な酵素、 各種成長因子(肝細胞増殖因子、神経細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子、コロニー形成刺激因子、インシュリン様成長因子、インターロイキンなど)

 医薬品としての古 い歴史の中で、副作用が全くないことで知られています、妊娠中・授乳中の方でも大丈夫です。ところが、副作用が少ない反面、効果が緩やかであり治療結果を急ぐ医者達が敬遠し、一時的に忘れ去られた時期もありました。いろいろな疾患にゆっくりではありますが、確実な効果を現すため最近再び注目をあびています。数回の注射を繰り返すうちに確実に効果が現れてきます。特に疲れがとれる、よく眠れるようになる、肌がしっとりする、体調が良くなる等の効果は、2~3回の注射で効果が現れている人がほとん どです。

 プラセンタ療法は下記のような様々な疾患に効果があります。                        

自律神経失調症
更年期障害 
美容・美肌・美白効果
疲労、不眠、頭痛、肩こり、腰痛、筋肉痛、関節痛                          月経困難症、生理不順                                           アンチエイジング
アレルギー疾患(アトピー、喘息、リウマチなど)
肝機能障害
胃十二指腸潰瘍
免疫強化作用

 費用 皮下注射 1回 1000円

うつは脳の情報処理能力低下

  うつ病は多様な症状が出現します。不眠、食欲低下、疲労感、ダルさ、頭痛、肩こり等の身体症状。意欲の低下、億劫感、憂鬱、不安、イライラ、絶望感、悲哀、孤独等の感情面での症状などはすでにご存知の方も多いと思います。

 当院では、うつ病の患者さんに「うつ病は脳の情報処理能力低下です。」という表現をよく使います。患者さんの訴えのなかに「記憶力が落ちた。」、「人の話す言葉が理解できない。」、「一度に一つのことしかできない。」「ボーとして信号無視した。」「運転中追突事故を起こした。」など多数あります。脳の情報処理能力低下と表現すると、人の心を機械みたいに言うなと反感を持たれる方もいらっしゃるかも知れませんが、ほとんどの患者さんに理解してもらっています。視覚・聴覚からの膨大な情報が処理できなくなっているのです、それで先ほどのような症状が出現するわけです。それまでは優秀なコンピューターが何らかの原因で処理速度が著しく低下した経験をお持ちの方も少なくないと思いますが、それと似たところがあります。

 脳の情報処理能力低下という観点で治療法を考えると、処理能力は薬物療法で向上させます。しかしすぐには回復しませんので、現時点の能力でも処理できるよう脳に入ってくる情報量を少なくすることが重要です、つまり休養することです。

 薬物療法と休養だけでは、会社で仕事ができるレベルまではなかなか到達しませんので、ある程度回復した時点で今度はリハビリ治療が必要になります。しかしながら精神科の医療機関で実施されているデイケア等の内容では、就労可能なレベルには程遠く、復職するためには不十分です。 うつ病で休職中の方にとって、現在最も効果的なリハビリは、実際の職場で計画的に少しずつ負荷をかけていく方法です。これは復職できるかどうか判定する精度の高い検査にもなり一石二鳥です。

 しかし、復職前にリハビリ勤務することが認められている会社員、公務員の方は少数です。今後人事制度を改正して普及させていく必要があると思います。その点、福岡市役所の市職員に対する復職制度が先進的と思います。「きちんと治るまで休め」という考えはもう古いですよ。

不登校

 当院でも不登校を主訴に多くの患者さんが受診されています。小中高生が多く自動車が運転できませんから、ほとんどの方が両親同伴です。カウンセリングを実施していますので、診察時間を含めると軽く一時間以上かかります。その場合両親も同伴しているわけですから、時間的な負担は相当なものです。それにもかかわらずきちんと定期的に受診しています。当院受診患者さんの両親で、子供を虐待しているような方はいません。

 不登校になる原因の特徴はその多様性にあります。マスコミでよく取り上げられる学校でのイジメはその一部に過ぎません。不登校患者さんの場合、初診時まず次のような原因を考えます。①適応障害、うつ、社会不安障害、強迫性障害、統合失調症等の精神疾患の有無。②今まで気づかれていない軽度の発達障害の有無。③家庭・養育環境の問題。④学校での友達関係など対人関係上の問題。⑤イジメ等学校での問題。

  他にもまだまだあると思いますが、そしてさらにそれぞれの原因が重なり合っていることも少なくありません。

 当院ではカウンセリングを中心に、場合によっては少量の薬物療法を実施しています。今までのように再び登校できるようになることが理想ですが、残念ながら復学できないケースも少なくありません。しかし、その場合でも多くの患者さん・および両親も納得して、新しい方向を見つけだします。他の学校に転校・編入、新たに入学されて、再び意欲と元気を取り戻し、勉強、クラブ活動、アルバイト等をしています。他の疾患と同様に早期発見・治療・対応することが重要かと思います、大人のうつ病と同様です。

 入試シーズンもほぼ終了しましたが、続々と合格の報告を聞いています。本当に良い結果になったと当方も喜んでいます。

社会不安障害

 社会不安障害(SAD:Social Anxiety Disorder)について説明します。

 大勢の前でスピーチをするのが苦手で不安を感じる、初対面の人に挨拶をするのが恥ずかしい、などは日常誰もが経験することです。ところが、このような状況を恐れるあまり、その状況を避けようとして学校や会社に行けないほどである、日常生活に支障を来たすようになると、これは病的な状態です。これを「社会不安障害」といいます。社会不安障害は決して特別な病気ではなく7~8に1人がこの病気で苦しんでいるといわれています。 

 具体的には、人前で食事ができない、人前で話をするのが苦手、人前で文字をかけない、人々の注目を浴びるのがこわい、偉い人の相手をするのが苦手などです。

 恐怖や不安により身体にさまざまな症状が現れます。動悸、手足がふるえる、顔が赤くなる、汗をかく、頭が真っ白になる、声がふるえる、声がでない、尿が近い・でない、口が渇く、息苦しくなる、吐き気がする、めまいがするなどです。

 発症の詳しいことはまだ解明されていませんが、幸い薬物療法が効果的です。うつ病の薬を使用することもありますが、それより軽い、副作用の少ない精神安定剤だけでも十分効果があります。一日に服薬する薬の量もうつ病の方よりも少ない場合が多いです。

 当院では初診時は予約制となっています、電話で症状や性別、年齢等を確認しますがその時大体診断がつきます。社会不安障害の方かなと思うとこちらも安心します。社会不安障害の方はなぜか人柄が温厚で、精神科医にとっても逆に話しやすい方が多いのです。

 少量の薬物療法で効果が期待できますから、我慢しないで受診することをおすすめします。

 

 

うつ病 休職・退職・復職

  当院ではうつ病と診断される患者さんが約40%位ですが、休職や退職しないで今までどおり勤務を続けられることを第一目標としています。しかし、残念ながら休職しなければならないケースも少なくないのは事実です。

 「仕事を辞めたい。」と初診の時に言われる患者さんも少なくないのですが、「辞めるとむしろ悪化しますよ。」と説明することが多いです。もちろん患者さんの年齢、性別、家族構成、経済状況等を総合的に考えてこちらも発言するわけで、当院でも「仕事は辞めたほうが良いですよ。」という場合もあります。うつ病になる原因は多種多様で、過酷な勤務や職場のイジメに限定されるわけでは決してなく、因果関係をはっきりさせることはできないと考えています。つまり仕事を退職すれば解決する問題ではありません。

 止むを得ず休職した方は2か月~半年近く仕事を休むケースが多いと思いますが、問題は復職後の職場の受け入れ体制です。「元気に仕事ができるまで十分休んでください。」と上司や人事関係者から言われますと、復職と同時に同僚と同じレベルで仕事をすることを要求されているわけで、患者さんによっては最後まで復職できないこともあります。

 復職をうつ病治療のゴールと考えずに、治療上の一つの通過点であり復職後も治療中であるという意識を持つことが患者さん本人・雇用者側にとって重要です。はっきり言うと復職後も一人前の仕事は困難だということです。仕事の能率は不十分でかつ給料は今までどおりですから、雇用者側にとってはコストアップ要因です。民間企業にとっては受け入れられないことかも知れませんが、長い目で見ると従業員の意欲向上、モラルアップ、身分保障、待遇改善等のプラスの面もあります。復職をスムーズに行うためには、復職のハードルを下げる必要があります。復職後一年間位は職務上の負担軽減措置が必要と思います。実際の職場での勤務内容は様々であり、主治医の精神科医ではどうすれば負担軽減となるか判断できない場合も少なくありませんので、産業医、上司、人事関係者等の判断が最も重要となります。

うつ病と上手に付き合う

 うつ病患者さんが数ヶ月の治療で、「今日で治療は終わりです。」と治癒( 薬を飲まなくても良い状態 )することも少なくありませんが、実際の臨床現場では治療経過の個人差が大きく、そうならないことも結構あります。寛解状態( 薬を飲みながら安定している状態 )を現実的な治療目標とすべきです。疲労感、頭痛、おっくう、朝の不調感等の軽度のうつ症状を抱えながらも普通通り仕事・主婦業をしている方も少なくありません。当院でもそういう状態の方が多く、平日は仕事をして時間がないため土曜日に受診するしかなく、土曜日は大混雑します。

 うつ病の場合治癒を目標とすると、それが達成できない方がいたり、もしくは長期間の休職が必要となります。ある時、休職中の公務員の方の上司よりI「2、3年休職しないで復職して大丈夫か。」との問い合わせがあり当方もびっくりしました。そこではその位の期間休職するのが常識との事でした。それだけ長期間休んで人件費やその他コストが問題視されないことに、納税者としても納得できませんし、そんなに長期間の休職を職場より命令・指示される患者さんも逆に大変な苦痛になると思います。休めば解決するというものでは決してありません。

 残念ながらうつ病になった方は、治癒しない場合でもうつと上手に付き合い、自分で心身両面においてセルフコントロール( 簡単に言うと無理しないで、ストレスをため込まないという常識的なことになってしまいますが )しながら生活することが一番大切です。診察時にいつも言っていることは一定のペースで仕事をしたり、家庭生活をおくることですね。自動車でも急発進、急減速しないで一定のスピードで走行すると燃費が良くなりますよね、それと同じ理屈です。調子が良いからとやり過ぎは禁物です、その後反動が来て悪化します。一流のプロスポーツ選手が体調管理に十分気をつけるのも同じ意味です。そうすれば十分治療と仕事・生活は両立できますよ、高血圧や糖尿病と同様です。もちろん職場環境の調整や、雇用者側の協力・柔軟な対応が不可欠です。

 

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